『野口流 教室で教える音読の作法』野口芳宏(2014)学陽書房

教えてもらう前と後という番組が放送されています。
見たことはありませんが,ある“観”を得た後では感じ方が大きく変わることがあります。
同じことが本書でも言えました。


この本は,国語の大家である野口先生の近著にあたります。
最近の教育書に多い,見開きで1テーマを扱う読者に優しい書籍です。

音読に興味があったので,以前も読破した経験がありました。
しかし,当時は特に自分に深く感ずることもなく,さらっと読み,さらっと忘れていました。


再読し,突き刺さる表現が多くありすぎて,再一読では受け止めきれませんでした。

冒頭から,

「上手に音読できるかどうかは,子どもが勉強好きになるか嫌いになるかの,分かれ道でもあるのです。音読活動をどのように体験するかは,その子の学習生涯に大きな影響を及ぼすのです。」(p15)
「教育とは,子どもに向上的変容(成長)をもたらすことです。学年が進むほど音読が下手になるという状況に対して,教師は危機意識をもつべきです。」(p17)
「音読を,漫然とするだけというただの『活動』から,子どもに向上的変容をもたらす『学習活動』に高めていかなくてはなりません。」(p19)

と,音読指導に対して,熱い言葉が並んでいます。

音読の宿題が定式化している学校が多い中で,教師の指導性が発揮されていない現状を憂いています。「教室音読」と再定義し,音読の意義を再認識できるよう提唱しています。


「野口流国語」は,一世を風靡した一斉授業として認知されます。
「アクティブ・ラーニング」や「個別化・協同化・プロジェクト化」とは,一線を画すように感じたり,二項対立的に考えたりしてしまいます。

しかし,本書には,「担任こそが音読指導のプロ」として,

「教師だからこそ,子どもの行動傾向や心理までとらえて,一人ひとりの実状にあった,きめ細かな指導ができるのです。」(p22)
「同じ子どもでも,日によってほめたり叱ったり,硬軟とりまぜた高度な指導テクニックを駆使できる指導者は,担任教師の他にはいません。」(p23)

「個別指導を充実させる」として,

「教室音読の指導目標は,『一人ひとりすべての子どもの音読力をそれぞれに伸ばす』というところに置かれなくてはなりません。」(p74)

この他にも,
「問題ある音読の対処法」「できるまで練習させてほめる」「子どもの状況を考慮する」など,個への対応が細部にわたって書かれていました。
一斉授業とは授業の見え方の一つで,本質は学級の子どもたちを一斉に成長させる学級の授業のことでした。


もちろん具体的な技能面も記載されており,音読指導として参考にできる点も多々あります。
ただ,本書を通じて,まずはその“観”を受け止めるだけの器量を広げることが先だと感じました。



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