グレープサイダー

憂鬱な朝だ。  朝食の席にはパンにピーナツバター  昨日見た悪夢のような色のグレープサイダー  向かいの席には最愛のテディベアが座っている。  もちろん、「2人分」の朝食を並べて、  僕は僕の分を食べ終え、親指についたピーナツバターを舐めとる。  そして、グレープサイダーを飲み干すと、テディベアの席の朝食分を捨てる。  これは、僕にとって儀式だ。  何度と繰り返す「悪夢」を忘れないための儀式。  彼女はこの5階のマンションから飛び降りて死んだ。 「私を忘れないでね」  とい

Japanese Whispers(Album) / The Cure

随時更新中 Let's Go To Bed 僕に君の手を取らせてくれないかな 僕はミルクみたいにシェイクするんだ 変わっていく、青く変わっていく 窓も床も、全部覆いつくして 外では炎が、空の中で 猫たちみたいに完璧に見える 僕らのうち2人は、またもや一緒になって また相も変わらず、バカげたゲーム でも、僕はどうでもいいんです もし、君がどうでもいいんなら そして、僕は感じないんだ もし、君が感じないんなら そして、僕はそんなもの欲しくないんだ もし、君がそんなもの欲しく

反物質の反物

風鈴の音色。盛夏。開け放たれた縁側は風が通る。 裏木戸を吹き抜けた風は、文机の小説を二十頁ほど戻し、アイスコーヒーの氷はグラスの中で音を立てた。今でこそ、猫のひたいほどの庭を残すだけの古びた数寄屋造りだが、質屋を商い羽振りの良い時代もあった。 表の大通りに面した店構えがその質屋である。戦後、手本引きや丁半の賭場が立ち、路上にまで人があふれる有り様だった。負けがこみ引き返せなくなった者たちが、わずかばかりの種銭と引き換えに、懐中時計、鼈甲、美術品、果ては拳銃までも質に入れた。

死花①

親友が死んだ、それも目の前で、目の前で飛び降りた。笑顔で手を振りながら 「今、最高の気分だよ、俺。世界で俺が1番幸せな人間なんだってそう疑いなく思える。後悔も...うん、ない。最後にお前に会えたしな、ありがとう。酷な思いをさせてるのかもな、ごめん。でもこれが俺の希望だったんだよね、幸せを求めた結果だ。だから、許してな。俺は最高の死を求めてたんだよ、そしてようやくそれを決断できたんだ。だから見守っててくれ。俺の死に様は輝いていたってそうみんなには言ってくれよ、それじゃまた。」

キミドリの声(一)

未明から、雨は強くなっていた。 雨粒がアスファルトを叩き、一瞬糸になってまたふくらんで、雷と共にたくさん降った。夕方には川が氾濫し、道路はあっというまに水をかぶり、車を捨てて逃げようとする運転手を容赦なく押し流した。それは本当に記録的な大雨だった。 唄子は雨を窓越しに見つめていた。 ガラス窓は丁寧に磨かれており、唄子はまばたきもせずに、ただ一心に雨を見据えていた。彼女はなにも考えていないのかもしれなかった。ただ雨をながめているだけなのかもしれなかった。けれど、ただ景色をなが

百合は淫らに啼かされる#1【官能小説】

「はい、百合ちゃん。お待たせ」 「ありがとう!あ、今日はロールケーキ?いつも仕事帰りのコーヒーとケーキが本当に楽しみで、つい宮地さんのところに寄っちゃうんですよね」 「そう言ってもらえると嬉しいね。今日も張り切って作ったよ。百合ちゃんがいつも楽しみにしてくれているのを知ってるからね」 「ふふ。宮地さん、ほんと優しいんだから」 たわいもない会話を楽しみながら、ゆっくりとコーヒーカップを口元に近づけ、コーヒーの香りを楽しむ。 「あれ?今日のコーヒー…えっ?!」 「ふふ

月氷(げっひょう)

三鰭の月の光の帯が窓に架かっている 月の帯が出ているが暗い夜だ 少し楽だ 深海の蟹のように足が長くなっていく 高く上って行っているのだ 光の帯は四鰭となる 前の夜に 桜の花の枝と枝の間に 三角月が見えた 黒い夜空に嵌め込まれた桜の小窓 硝子と隔たれてなを 手も届かないのに親しみを感ずる 寄る辺なく 夜に交え 数日経つ頃には息苦しく 月が眠らせてくれない よその烏の声に追い立てられるように 舞い戻る夜 月の光は橙橙色の灯りに見えなくなった 私は寒さに震えている さみしさに繰り

夏目漱石「それから」1-3

◇評論  前段の最後に、「門野が代助の所へ引き移る二週間前には、此若い独身の主人と、此 食客(ゐさうらふ)との間に下の様な会話があつた」とあった続きの場面。  一話がすべて会話で成り立っているのが特徴。「こころ」にはこのような形式は無かった。  門野についての内容をまとめる。 ・あちこちの学校に行ってみたが、飽きっぽい性格からじきに嫌になりやめてしまった。そもそも勉強する気もない。 ・最近の不景気で門野家の経済状態が悪く、母親は内職をしている。ただ、どれほどの困窮状態なのか

【カードワースリプレイ】天翔ける追求者 第13話 はらりと舞う忘れ雪

この記事は、夏将軍様作のシナリオ〈はらりと舞う忘れ雪〉のリプレイです。 配布先はこちら↓ 行方不明者の捜索依頼近頃、交易都市リューンで少年少女が行方不明になる事件が多発しており、 自警団は組織的な誘拐事件と見なして、近郊の冒険者の宿に事件の調査依頼を出した。 報酬は、有益な情報を提供すれば200sp、行方不明者を発見したら1000sp。 天翔ける追求者の6人も自警団から協力を呼びかけられて、 行方不明者の捜索活動に加わることになった。 調査を始めてから3日経ち、 天翔け

孤独な太陽【第一話】

「私はただ、彼にとって太陽のような存在で在りたかっただけで…でもなれなかった。それが今、凄く、悲しい。」 一人自室で親友が残した手紙の最後の一文まで読み終えると、聡は静かに息を吐き、それから無機質な天井を見上げた。 「……」 何かを呟いているようにも見えたが、彼が何を呟いたのかを知るものは誰もいない。ただ、見開かれた彼の黒く大きな瞳が、暗く美しく濡れていくばかりなのであった。 ◇◇◇聡の日記◇◇◇ 2023年11月18日 人生で初めて日記を書く。 どうしたらいい