Column:学び直しSDGs vol.4

前回までにSDGsの概要や取り組む意義について見てきました。
今回はSDGsに貢献する事業を考える際のフレームワークや見える化の手法について見ていきます。


バックキャスティングモデル

SDGsを意識した事業を考える際に多くの書籍で共通して述べられている方法がバックキャスティングという考え方です。そもそもSDGs自体がバックキャスティング的思考で考えられたものですので当然と言えるかもしれません。
バックキャスティングは、「目標から逆算して必要なプロセスを考える」という手法です。バックキャスティングの目標として、既存の活動の延長にはないが理想とされる状態(ムーンショットと呼ばれたりします)を設定することで、目標達成までのプロセスの途中でジャンプアップが必要となり、自然とイノベーションへの圧力が生じるのです。

『SDGs入門』では、バックキャスティングモデルで活動を考えるプロセスを「目標→中長期的変化→短期的変化→自社の活動」というふうに枝分かれさせてロジックモデルを構築する例が示されています。

例えば、「温暖化を1.5℃未満に抑える」を目標にした場合、中長期的な変化としては再エネ利用率の拡大とそれに伴う設備管理者の需要増加など様々考えられます。それらを達成するためにより近い時間軸(短期的な変化)では、人材の育成や自動化技術の開発などが必要になってくるでしょう。このように枝分かれしながら事業として取り組める程度に具体的な内容まで落とし込むことで、アクションに繋げることができます。

また、本の中では、ロジックモデルを構築する際に、目標達成のために各段階で達成しなければならないKPIを明確にすることも大切だとされています。


SDGs Marketing Matrix

『SDGsが生み出す未来のビジネス』では、SDGs Marketing Matrixという面白いマーケティングのフレームワークを提案されていたので紹介します。

このフレームワークは、マーケティングのフレームワークの1つである4P分析とSDGsの5つのPを組み合わせたもので、事業アイデアの発想・チェックに使えます。

4P分析では、ターゲットにした消費者のニーズに合うように製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、コミュニケーション(Promotion)の4つの要素を考えます。これら4つのPは全体として整合性がとれていることが重要だと言われています。


SDGs Marketing Matrixでは社会課題の解決を消費者ニーズと捉えることで、4Pの各要素をに求められる条件を以下のように解釈します。

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社会課題に対して幅広く問題意識を持っており、できるだけエシカルな商品を購入したいと考えている消費者集団をターゲットにすると考えるとわかりやすいかもしれません。そして、上記の各要素についてより具体的かつ網羅的にチェックするためにSDGsの5つのPを切り口として使います。結果的に、4 × 5のマトリックスが出来上がります。

各マスには、上の内容をより具体化した気付きの問いが設定されており、その質問にYESと答えられるかどうかをチェックすることで、自社の事業の課題を見つけたり、どのうよな解決策があるかをある程度網羅的に確認することができます。

例えば、Place(流通)× Prosperity(豊かさ)のマスには、"自社のサプライチェーンに携わるパートナーが豊かな生活を得ることができているか"といった問いが設定されています。本の中では、各マスに当てはまるビジネス事例も一つずつ挙げており、Place × Prosperityでは、ユニリーバのShaktiが紹介されています。

※Shaktiプロジェクトはインドの農村部の女性にユニリーバ商品の小売をアウトソースする仕組みです。事前の教育と仕事の斡旋によって女性の自立を支援しつつ、自社の販路拡大にも成功しています。

また、著者はマトリックスの各マスを起点に新たなビジネスを発想することにも利用できるとしています。


社会的インパクト評価

SDGs等の社会課題に取り組む際には、成果を測定して「見える化」することで、活動を定期的に改善し、非財務情報を対外的に示すことが重要となります。

そこで参考になるのが社会的インパクト評価および社会的インパクトマネジメントです。
社会的インパクトとは、企業などの活動によって生じる短期、長期的な社会的、環境的なアウトカムのことです。そして、企業等の活動の社会的インパクトを評価し、価値判断を加えることが社会的インパクト評価、その評価結果を元に活動を改善・向上させていく仕組みが社会的インパクトマネジメントです。

これまでは主に非営利団体が資金提供者に活動の効果を説明するために用いられていましたが、最近では企業活動にも取り入れられており、世界中で様々なICTツールが開発・提供されています。

社会的インパクト評価では、アウトプットではなく、アウトカムを評価することが重要とされています。そして、そのアウトカムが生じる論理的な根拠をロジックモデルで示すことが求められます。

成人病予防事業を例に取ると、セミナー、専門スタッフの育成といった実際のアクティビティに対して、セミナー開催回数、セミナー参加人数、専門スタッフの育成人数などがアウトプットで、市民の予防意識向上・疾患の早期発見などが(短期的な)アウトカムとなります。


社会的インパクトマネジメントは、必ずしも定量的な評価や金額換算をする必要はなく、定性的でもよいとされていたり、ステークホルダーの意思決定にとって重要な項目を優先的に評価し、事業の規模に合わせて評価にかける工数を調整することなどが盛り込まれており、非常に実践的です。

評価手法やロジックモデルの作り方については以下のサイトに詳しいので、ぜひ参考にしてみてください。


おわりに

他にも企業経営や事業にSDGsを取り組む方法をまとめたSDGコンパスなども有用です。

ビジネスを多面的にチェックして、その効果をしっかりと評価することで、社会的なインパクトが大きく、SDGsウォッシュと言われないビジネスにしていきたいですね。


参考

[1] 『SDGs入門』, 村上芽・渡辺珠子 著, 日本経済新聞出版社.

[2] 『SDGsが生み出す未来のビジネス』, 水野雅弘・原裕 著, 株式会社インプレス.

[3] 『Q&A SDGs経営』, 笹谷秀光, 日本経済新聞出版社.

[4] SDGコンパス, https://sdgcompass.org/wp-content/uploads/2016/04/SDG_Compass_Japanese.pdf.



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