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Insight: Health Tech Startup Vol.3

"大国に挑むヘルステックスタートアップから見えること"

Health Care Startup Vol.2では、"ヘルステック スタートアップ 最前線"と題し、世界のヘルステックユニコーンの動向を探りました。

2021年5月時点のヘルステックユニコーンの数は62社。そのほとんどを米国企業が締め、中国企業が追随しています。他の業界でも当たり前となった構図ですが、この2国がヘルステックも牽引し他国の企業に勝ち目はないのでしょうか?いえ、他の国からも興味深い企業がどんどん誕生しています。

Vol.3では、ユニコーン62社の中で存在感を見せる、米国、中国以外の企業に注目し、そのビジネスから世界で戦うためのヒントを探ります。
イスラエル、カナダ、スイスのスタートアップやいかに?

1. イスラエル発 視覚障がいに挑むスタートアップ
 "OrCam Technologies"

<中東のスタートアップ大国 イスラエル>
今やスタートアップ大国となったイスラエル。
年間1000社を超えてスタートアップが誕生しており、国内のスタートアップ全体の25%をヘルスケア領域が占めています。
その背景にあるのは軍事技術を転用したものを含め、政府の手厚い支援のもと開発されたAIを中心とするデジタルテクノロジーであり、デジタルヘルスケア関連のスタートアップは実に500社以上存在しています。

<AI×画像認識×視覚障害>
OrCam TechnologiesはそんなイスラエルのAIテクノロジー、特に画像認識技術を、視覚障害者のQOL向上に活用しようとしている企業です。
代表的なデバイス「OrCam My eye」は、メガネの柄の部分にAIを搭載したウェアラブル機器を装着することで、指定したテキスト、対面している人物の顔、そして商品名などを瞬時に認識し、音声で読み上げます。他にも、日常生活をアシストするユニークな機能が搭載されており、腕時計を見るしぐさをすると日時を知らせるなどジェスチャーに反応して迅速なレスポンスを行います。現在、日本を含む世界48カ国に販売実績をもち、対応言語数も20言語を超えています。
同社の製品に共通する点として、インターネットへの接続が不要で、プライバシー保護の観点でも安心して使用できることが特徴として挙げられます。日常的な視覚情報は、私生活の様々な情報を含んでいるため、社会実装する上で個人情報保護は大きな課題です。イスラエルはヘルスケアと並んで、サイバーセキュリティ関連のスタートアップも非常に多く、その技術、意識共に非常に高いと言われており、それは同社の製品にも反映されています。

<社会実装への意識>
同社の成功は、技術が優れていることも要因ですが、画像認識技術を製品として形にして、それをヘルスケアと掛け合わせることで、世界の視覚障害、弱視の方々の潜在的なニーズにいち早く応えた点にあるでしょう。

画像認識技術をいくら高めたところで、それが日常的かつ身近なところで役立たなければ、ビジネスには繋がりません。OrCam My eye、そしてイスラエルのスタートアップ全体に言えることですが、画像認識技術→デジタルな「目」として活用する、というように、社会実装を意識した技術活用の視点が非常に強い印象を受けます。日本の企業にとって見習うべき点は多くありそうです。

参考:
1. OrCam Technologies: https://www.orcam.com/en/
2. ISRAERU: https://israeru.jp/


2. カナダ発 高齢化社会を支えるスタートアップ
 "PointClickCare"

<高齢化する世界>
日本は世界で最も高齢化が進んでいることは自明のことですが、海外に目を向けたとき高齢化は世界中で起きていることが見えてきます。

65歳以上の人口比率(独立行政法人労働政策研究・研修機構 2017年)

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出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構

比較的その傾向が緩やかと言われた北米においても2030年には65歳以上の人口が20%を超える想定であり、世界レベルで高齢化社会、そして超高齢化社会に対する準備が対策が必要とされています。
一方、ビジネスの視点で見たとき、良くも悪くも既存のビジネスモデルに変化が起きるだけではなく、新しいビジネスチャンスが発生するという見方もできます。

<デジタル×高齢化社会>
日本を含め多くの国でレガシー業界に分類される介護事業ですが、近年ようやくデジタル化が進みつつあります。
高齢者医療、介護事業社向け業務ソフトウェアの中でも、EHR(Electric Health Record)は医療機関や介護事業者が、患者情報等を共有する基盤となりつつあり、各国で導入が進んでいます。
このEHRのクラウドサービスを、北米の高齢者療養施設、特別養護老人ホーム、訪問介護ケア事業者等に大規模に展開するのがPointClickCareです。健康状態、投薬、費用請求、スタッフ間の情報連携などを一つのソフトウェアに集約するだけではなく、わかりやすいUIで現場の効率化を図っています。

EHRの導入は、事業者内での業務の効率化に加え、介護事業社と医療従事者との情報連携も促進しています。また、クラウド型のEHRをスマートフォンやタブレットに適応したことで、高齢者の訪問介護において、訪問先でデータの確認、記録業務ができるようになりました。

同社サービスの導入件数の多さは、このような事例に限らず、様々な恩恵を現場にもたらしていることを意味しています。レガシー業界ならではの事情に加え、経験したことのない高齢化社会の中でニーズを探り出すことは、事業者や被介護者にとっても恩恵があるはずです。デジタルと高齢化社会の融合の中に、大きなビジネスチャンスがありそうです。

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出典:Point Click Care: https://pointclickcare.com/

参考:
Coral: https://coralcap.co/2019/11/agetech-startups/


3. スイス発 神経疾患をゲームで改善するスタートアップ
 "MindMaze Healthcare"

<デジタルセラピューティクス (DTx)>
定義に曖昧なところがあるため単純に算出はできませんが、世界のデジタルセラピューティクス (DTx) の市場は、2025年には69億米ドルの規模に成長すると予測されています。
ここであえてDTxを定義すると、「治療を目的としたプログラム/ソフトウェアであり、医療行為(予防、診断・治療を含む)をデジタルテクノロジーを用いて支援・実施するサービス」と表現できます。
定義上重要な点として、食事管理サービスなどのヘルスケアアプリとは一線を画すことに言及しておく必要があります。あくまでも医療行為であるため、各国薬事法の対象となり、そのサービスの展開には一定のハードルがあります。そのハードルを超えて、神経疾患に対してゲームアプリで治療しようと挑戦しているのが、MindMaze Healthcareです。

<ゲーム×神経疾患>
同社の神経疾患に対するアプローチは、リハビリ(Rehab DTx)と治療(Restore DTx)であり、同社のサービスは欧州に加え、米国でも保険償還対象となっており、治療行為として認められています。
Rehab DTxでは、ゲームの結果を専門家が分析し、遠隔で投薬管理まで行うことができます。Restore DTxでは、神経系の修復や再編成を促進するよう設計されており、実際にゲームを医師が処方して治療を行っています。
対象とする疾患は脳卒中、外傷性脳損傷、軽度認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、自閉症スペクトラム、多発性硬化症、フレイル(加齢)など幅広く、その可能性の大きさが伺えます。(全てが保険償還の対象となっているわけではない)。

日本でも禁煙用のアプリが薬事承認されたことが話題を呼びましたが、世界では神経疾患に対する治療が社会実装されています。上述したように、高齢化が進む日本において、認知症など神経疾患の予防には大きなニーズがあると共に、対策すべき大きな課題です。ゲーム開発の得意な日本、高齢化が進む日本において、ゲーム×神経疾患の組み合わせに、大きな可能性があるのではないでしょうか。

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出典:Mind Maze: https://www.mindmaze.com/

参考:
Global Information, Inc.: https://www.gii.co.jp/
Beyond Health: 
https://project.nikkeibp.co.jp/behealth/atcl/news/world/00054/

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