金言169:故会長のご遺訓

古き良き時代の話の続きです。
1)出勤時間
就業規則によると始業時刻は午前10時でした。女子社員は9時30分に出社して全員の机を雑巾がけし(机の上には電話機以外の物は存在していませんので拭き掃除は簡単です)、10時に男子社員に私物の茶碗でお茶を出します。一方、男子社員の出退勤はオーナーの執務時間と場所に連動します。週の初めは、7時に出社されることが多いので、職場長クラスはその30分前にはデスクにて待機しています。月曜と火曜は8時から各部門は会議をします。そして10時からデスクワークが始まります。余談ですが、女子は縁故採用なので花嫁修業みたいなものです。お茶だしとコピー以上の責任ある仕事はさせません。ミスをした場合に本人の縁故者が責めを負うことになりますので。ただし、勤怠は厳しくしつけます。始業30分前には制服に着替えていることがお約束ごとです。

2)社内放送
週1回、社内放送で当番の社員が与えられた原稿を読みあげます。全社員は起立して拝聴しスピーカーから流れる合図で朝のあいさつをします。故会長の月命日には故会長のご遺訓に従い社業に専念することをお誓いし黙祷します。

3)鐘撞き当番
毎晩、社員が当直して故会長の墓掃除をし、定時に定数回の鐘を撞きます。鐘撞きは時間と回数を間違えないように注意します。間違えると、近隣の住民からお叱りの電話が入ります。(事前に小石を撞く回数分並べて、ひとつ撞いたら小石をひとつ移すという風にやれば間違えないと先輩が教えてくれます)夕方から翌朝まで3人の社員が当直しますが、この3人はグループ会社からばらばらに召集され、かつ生前の故会長を知る古参社員が必ず1人含まれ、夜を徹して故会長を知らない世代に口伝します。当直する施設にはアルバムがあり、昔の写真を見ながら、故会長を偲びます。この当直に呼ばれる社員は男性の幹部社員と幹部候補だけなので2年に1回ぐらいまわってきます。

4)ご遺訓
故会長のご遺訓が何であれ、それを実現しているのは後継者である2代目オーナーなので、2代目の指示に従うことがすなわちご遺訓に従って社業にはげむことになります。東アジアの半島に残存する世襲国家の支配構造に似ているところがあります。2代目の指示を現場で受けた担当者(オーナーから直接指示を受けた社員)は、社長指示事項として報告書をまとめグループ内の主要企業の主要職場長に回覧します。指示はオーナーの発した言葉どおりに記録され、その内容をどのように理解して実施したかを報告し、類似案件での各事業所の対応の参考とします。ただし、君子は豹変しますので、朝礼暮改になるような矛盾も発生します。社内のローカルルールは都度書き換えられますので、事業展開にまったく支障はありません。しかしながら、社長指示事項という情報開示は入手した各職場長がネックとなりますので、職場により開示内容に格差が生じます。限られた情報しか開示されない職場では、意思決定の過程が全く知らされないので、一般社員にとって二代目オーナーは雲上人であります。

この会社の企業風土はこうして育成されてきました。
その後、この会社とオーナーがどうなったかということは、それはまた別の話です。

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