金言170:何もしない

若い頃は、いつも何かに追われているような気がしていました。「このままではいけない、何かしなければいけない」という強迫観念みたいなものが、頭のなかを駆け巡っていました。なぜ何かしなければいけないのか、なぜこのままではいけないのかと、自分を後方上部からみること、発想を逆転してみることを知らない頃のことでした。

古き良き時代の右肩上がりの日本経済下では、仕事はこなしきれないほど次々に発生し、資金繰りの心配はなく、モノはつくれば売れ、次の予算獲得に影響するということで予算は使いきらないといけないという約束事がありました。振り返ればいい時代ということでしょうか。あの頃、原価意識、金銭感覚、コスト削減という意識をある会社の経営幹部はもっていました。

ある会社の従業員教育例:
1)床にペーパークリップ、輪ゴムなどがおちているのを見つけると、近くにいる従業員を呼びつけ、拾わせ、その消耗品の購入単価を問い、無駄遣いを戒める。
2)協力会社からお中元・お歳暮、接待を受けることを禁止する。
モノをもらい接待を受ければその費用は仕入れ金額に上乗せされ、会社は結局高いものを買わされることになる。

もちろんこれは従業員に対する要求項目であり、経営幹部は対象外です。従業員は上をめざし、忠勤の向こうには自分たちにもバブルの甘い蜜を味わう順番が必ずまわってくるという確信がありました。年功序列、エイジグループが健在で、品行方正とハードワークは報われるというのが世の中の定説で、一流大学から一流企業に入れば高収入が約束されていました。

人間も経年変化してきます。近頃は、今日何をしようかとか、アイドルタイムをどうつぶすかということで悩まされなくなってきました。ひとつには、ITバブルまでは外資だけで通用したリストラ・成果主義が日本企業にも適用されるようになったからかと思います。
事業計画に対する考え方が変わりました。経営者は事業計画を設定し、その達成に必要な資源を調達し事業展開をします。人件費を固定費として考えず、事業計画達成のために必要な経費とします。この数字を達成するためにこれだけの人材が必要ということになります(人材を仕入れて商売をし、利益を狙います)。今日は定時まで何をしようかと就業時間に考えているような従業員は不要です。

そこで、ほっと一息、ガス抜きが必要となります。たまには温泉でのんびりしたいと思います。何もしないことが贅沢になってきました。「疲れたら休む」というのは、怠け者のたわ言から、「休むも相場」という資産運用には欠かせないリラクゼーションに変わりました。毎日ルーティンワークに振り回されていると、世の中のトレンドが分からなくなってしまうことがあります。だまされたと思うときもあります。積極的に何もしないというのはけっこう強い自信と精神力が要求されます。何もしない不安との戦いです。

安心してください、年をとると何もしない時間が苦にならなくなります。じっとしていると心地よく時間が過ぎていきます。

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