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担任に媚を売っていた小学生の私へ

 徹夜コースで作業になりそうなので、しんどい合間に作り置きのパンを作った。混ぜて炊飯器にセットするだけでできる素朴な味の蒸しパン。

お腹の調子がよくないので、牛乳の代わりに豆乳を使った。実家で採れたさつまいもとブルーベリー入り。冷凍ブルーベリーを使ったら見た目があまりよくないけど、味はまあそこそこだった。ブルーベリーを生地に練り込むと、果実がある部分の周りの見た目はべちゃっとした深い紫色みたいになる。


 それを見てはたと思い出したのが、小学校5年生のときの夏のことだ。三者面談だかなんだかの時に、うちの祖母はわざわざ実家で採れたブルーベリー(販売用)を当時の担任に渡すために持たせた。(母は反対していた。)祖母はそういうある種の「お作法」みたいなものを大事にするし、(時に大事にしすぎる)気を使ったのだと思う。

その何日か後、また夏休み中に先生に会う機会が会った。そのとき、担任はそのブルーベリーを使ってパウンドケーキをわざわざ作ってくれた。記憶によれば、家族で食した。「買ってきたもののように作れるなんてすごいね」などと話しながら食べた。甘くて素朴な味がした。


当時の担任は40-50代の女性教師だった。セミロングの髪をソバージュのようにしていた。今で言ったら、いわゆるモラハラ教師的なものに近かったかもしれない。給食が食べ終わらない児童には残って食べさせたし、えこひいきはするし、怒って全員で職員室に謝りに来させたり、連帯責任だと言ってグループみんなを教室のうしろに立たせたり、そんなことをしていた。

1000歩譲ってよく言えば、厳しい。悪く言えば、っていうかそもそも今では考えられないし、しつけや厳しさと権威をごちゃまぜにしたような理不尽な先生だったと思う。


美術の時間にはずいぶん熱心に指導をされた。校外学習の際には宿泊先の施設(ホテルみたいな)の部屋を出る時には部屋を綺麗にしろとかすごくうるさかった。水回りの水垢をとり、ベッドシーツを整えるように言った。今思うと、あれは児童のためなのか、自分の面子のためだったのか。

それからとりわけ、優秀で聞き分けのよい児童を好んだ。


こう書くとめっちゃ嫌な先生みたいだけど、私は先生に嫌われないようにふるまってたし、たぶん好かれる部類の方だった。そして自分より好かれている児童のことを、うらめしく思っていた。
先生の評判は良くなかったと思う。昼休みに給食を食べ終わるまで居残りをさせられていた偏食気味の友達の母親は、何度か抗議をしていた気がする。

離任式のとき、それでも私はなぜか先生と離れるのが嫌で、少し泣いた。

その理由がなぜなのか未だに自分でもわからなかったし、ドMなのか、防衛反応的なものなのかと思っていたが、おそらく、あのパウンドケーキのせいな気がする。パウンドケーキを渡された、そのときに会った先生は穏やかそうな顔をしていた。確かすらっとした綺麗な娘さんと一緒だった。


何にせよ、ああいう教育方針は本当によくないと思うし、私にとって恩師だったとは口が滑ってもいいがたい。


私はもう自分でパウンドケーキを作れるだろうし、作らなくてもすぐ買えるし、おかしい教育方針にも理不尽な権威主義にも、モラハラにも、おかしいと言えるようになった。

あの時の自分に、そんなに媚びをうってびくびくする必要もなかったんだよ、と、自分で作った素朴なパンを食べながら、言ってあげることにした。

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