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私のクラシック愛聴盤、ピアノ編4選

 お題「私のイチオシ」に合わせ、私が影響を受けまくったクラシック音楽CD4選ピアノ編をお送りしようと思ったのですが、もしかしたら全部絶版なのかもしれない。リニューアル再販とかされているのをご存知でしたらどうか教えてください。というか配信が盛んな最近は何がCDで出てるかなんてわからないですよね…。配信で古く貴重な録音に巡り合えることもありますし。
 あと、当たり前ですが完全に私の好みでの選出でして、乱文飛んでしまってもご容赦ください。路線はわかるけどもっと他に勧めるべきものがあるだろうと聞こえてくる気がする…。詳しくは各盤の項で書こうと思いますが、まず一言、「好きなんです、許して!」。それではどうぞ!

Great pianists of the 20th century エミール・ギレリス Ⅱ

 エミール・グレゴリエヴィチ・ギレリス(1916年オデッサ生-85年モスクワ没)…私はあまり特別に好きなピアニストはいないのですが、一人挙げて、と言われたら必ずギレリスを挙げます。私自身のモスクワ留学中に週2で通った29番教室には、ゲンリヒ・ネイガウス先生を中心に同教室で教鞭をふるった名教師たちの肖像が掲げられていました(2017年訪問時は残念ながら撤去されていました)。ギレリスもその中の一人で、いつも伏し目がちに左側から私を見つめてくれていました…。
 このCDは、もともとは私が大学3,4年の頃、個人的に師事していたエレーナ・アシュケナージ先生に貸していただいたCDでした。二十歳そこそこになって心も歌もないスペイン狂詩曲(リスト)を指っ先だけで弾いていた私、というかもうエレーナ先生の求めることは私の想像の範囲というかもう世界やら宇宙やらをぽーんと飛び越えた向こう側にあって、私は毎回一緒に歌って一緒に考えて、知らないことは教えてもらって、また一緒に考えて、こんなに自分で考えたり歌ったりするレッスン今まで知らなかったし、ひとつひとつの新しい知見に奮い立つと同時に過呼吸一歩手前、あまりに刺激的過ぎてお空に星が見えまくっていたものでした。そんなぎりぎりの私を見て先生が「むぅ」と考えて、これを聴きなさい!と持ってきてくださったのがこの二枚組のCDでした。プレーヤー等にコピーして10年以上聴き続けてきましたが、ちょうど最近中古で買い直しました。リストももちろんなのだけど、やはりプロコフィエフが本当に、特にギレリスに献呈された8番のソナタは私の中ではこれ以上の演奏はありません。3番のソナタも語ることが多いというより何かもう「魂が多い」みたいなあふれ出る情念と熱と言葉を感じます。プロの演奏とその録音に何を求められているかは人それぞれだと思います。書いてある音符が完璧に全部傷なく鳴っていることを求める方もあると思います。勿論ある程度正しく弾けていないとその曲を弾き表現していることになるのかどうか…とは思いますが、少なくともこのCDに関しては現代に多く販売されているような完璧な傷のない(多分に編集を施された)録音ではないですし、弾いているうちに元々怪しい調律がさらに怪しくなってくるのすら感じますが、そのキャラクター以上に「音楽がどこにあるか」ということをこれでもかと思い知らせてくれる、私にとっては一生の愛聴盤です。ギレリスをベートーヴェンでご存じの方、ぜひ他の作曲家もギレリスの演奏で一度お聴きになってみて下さい。

園田高弘 70歳記念リサイタル

 まさかこのCDが現在流通していない状態にあるとは…。
 98年に行われた園田氏の70歳記念リサイタルのライヴ盤です。…そう、ライヴ盤なのです!個々のプログラムもさることながら全体を貫き通す一本の精神力はただただ驚異的と言わざるを得ないです。
 特別に挙げるとするとやはりシューマンの交響的練習曲。この曲の録音も様々なピアニストで聴きましたが、私の中ではこの演奏が一番好きかもしれない。そして私がいつか交響的練習曲を弾くときはぜひ遺作を挟む順番を真似させていただきたい…素敵です。少々扱いに困る部分も無いとは言えないこの曲に朗々と歌をのせ、集中力といういかずちを落とした、まさに堂々たる演奏だと思います。これがライヴ!!これがライヴなんです。
 バッハ、シューマン、ベルク、ショパン、リストとプログラムが多岐にわたり、そのひとつひとつのキャラクターがそれぞれ際立っていることにも触れなければならないと思います。当たり前に思えるかもしれませんが、堂々のバッハ、上述の見事なシューマン、ベルクのピアノソナタは現在ではそれなりに弾かれるレパートリーかもしれませんが、その昔若き実験工房の旗手だったことを彷彿とさせ、ショパンの幻想ポロネーズを大切に空に放ち、そして再び秘めたる情熱と雷のリストで終わる。私もどんなにかこの場にいたかったことか…。
 今もネット上で見ることができるのかわかりませんが(私は探し当たらなかった)、園田氏は公式サイトで長く日記を書かれていて、晩年審査員を務められたエリザベート国際コンのレポートなど本当に楽しく読んだ記憶があるのですが、その文体から感じられるお人柄が演奏でも感じられることが、初めてこの録音に触れた当時の私にはとてもとても嬉しかったのを思い出します。今日も残る園田氏の幅広いお仕事の数々に心から敬意を表したいです。

アレクシス・ワイセンベルク ラフマニノフ/ピアノソナタ第1番、第2番

 まさかこれも流通していないとは…。
 私は留学時代にラフマニノフの2つのソナタ両方に取り組みましたが、その動機となったのは大学の頃にこのCDに出会っていたことだといっても過言ではないかもしれません。特に、当時ラフマニノフの2番のソナタの録音は数多あれど、長い演奏時間を要する1番の録音はほとんどなく、その数えるほどの録音の中でも(特に第3楽章において)群を抜いて速いテンポ設定だったのがこのワイセンベルクの録音。最初は人間にこれが可能なのか疑ったほどに速い。しかしこれこそが私の歌いたいテンポだとしか思えなくなりました。
 私は基本的に新しい曲に取り組むときに耳が先にならないように(今まで聴いてきたその曲の先入観にとらわれないように、楽譜に真摯に取り組むように)心がけていますが、ラフマニノフの、特に1番のソナタに関してはこの録音の影響を排除できません。演奏から勝手に私が感じた「思想」のようなものは自分が取り組むときにがっつり敷きました。もちろんその思想も楽譜に取り組むうちに徐々に変わっていくものではあるものの、とにかく私にとってはそれほどまでに好きで好きで、コピーは良くないけれどここをスタートにし、逆算的に楽譜のことをしっかり考えていこうと思っていました。1番だけでなく2番(改訂稿)の2〜3楽章の歌い回しもとても好きで、同門の先輩方と「なんでそこで波が引くんだよ!」「二回おんなじことするわけじゃないから始めはいいにしてよ!!」というやりとりを何度したか…すみません、ほんとに当時はワイセンベルクの真似をしたくて理由をつけていました。今でも好きです。単なる共感なのかしらこれは。

エレーナ・リヒテル ロ短調のソナタ集

 これを推さずに終われるわけがない!私のモスクワ音楽院での恩師、エレーナ・リヒテル先生が日本で出されたCDです。ちょっと検索してみたら配信で聴けるらしい。
 リヒテル先生といえばショパンとスクリャービン。感情を抑えたとか修道女のような敬虔な云々とか言われがちなのは存じております。私に言わせれば「理知的」という言葉を最大級の賛辞として用いたいです。楽譜に書いてあること、そこから読み込んで導き出した結論とアウトプットの霊感などに対し敬虔であることは、長大な叙事詩ともいえるリストのソナタはじめどの曲を聴いても疑いの余地はないでしょう。
 リヒテル先生のクラスには単純には言い表せないくらい色々なキャラクターの学生がおり、私も随分いろいろやらせてもらいましたが、そんな暴れ馬たちをみんなまとめて赦し抱きかかえるのもまたエレーナ・リヒテルという教師のキャラクターなのだと思います。どんな人にでも過去はありますし、良いことばかりではありません。しかしそれを「そんなこともあった。まあいいわ」と笑いながら語る姿が目に浮かびます。
 なお私はモスクワ留学最後の頃(2010年)音楽院小ホールで先生のショパンのソナタ3番をライヴで聴いています。当時71歳、細かい右手のパッセージの2楽章が始まるとき私は思わず構えてしまいましたが、決して速く弾くことではないといえる新機軸を聴けて、そのあとも素晴らしく、終演後の楽屋でお会いしたときにはもうЯ люблю Вас (=I love you)が溢れて溢れて止まりませんでした。確かこのとき前半でシューマンのファンタジーもお弾きになられたはず、、先生は私がずっとずっと追いかけていきたい背中です。

番外 アリシア・デ・ラローチャのアルベニス「イベリア」

 もうひとつ私が挙げたいのがラローチャの「イベリア」ですが、具体的にどの録音なのかがわからなくなってしまいました。ラローチャはおそらく何度かイベリアを録音しているのではないかと思うので、Apple musicで見つかるものは片っ端から聴いてみましたが、どうもなんか微妙に私の推したい録音と違う。でも今見つかる録音もとってもステキなので、Youtube貼っておきますね。スペイン音楽は本当にステキだし、私が音楽だと語っているような演奏です。全曲は長いですが、私はやっぱり6曲目のトリアーナ以降が好きです。自分でも全曲演奏してみたいし読んでみたことは何度もあるけど、ラヴァピエス(9曲目)ってどうやって弾いたらいいんだろう…頭ねじれる…


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ピアニスト、たまにロシア語通訳(現在育休中)。日中はミスター・不屈の魂の2歳児と格闘しており、恐らくピアノにあまり使わないであろう部位ばかり鍛えられています。一年中野球ばっかり見てる燕党。https://www.marienne.net/