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2021/6/27 オンラインコンサートinスタジオピオティータ 加瀬茉理枝・川村祥子ピアノコンサート「オーロラへと羽立つ蝶」プログラムノート

 こんにちは。東京杉並は下高井戸にありますスタジオピオティータの第一期レジデントピアニストの加瀬茉理枝です。この記事は21年6月27日に無観客・配信のみで行われます公演:

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 こちらのコンサートのプログラムノートです。プログラムノートといえば奏者の演奏に対し聴衆が理解を深めるためのもの、あるいはその公演に対する思いや考えを言葉でお客様に届けるためのものかもしれませんが、しばしば奏者の演奏中に迷子になったような気分に陥った聴き手の道標となるようなものでもあると思います。困ったら読む、特にホールに赴いてのコンサートではそうでしょう。しかしオンラインコンサートだと「困ったらウィンドウ閉じる」ができそうで便利、いや怖いな。

 私たちとしても初めてのオンラインコンサート、私の周りだけでもありがたいことに日頃お世話になっている方からかつての同級生、果ては現在の教え子たち、ほんとにほんとの子供たちも聴いて下さるとのこと。というわけで、昨年12月のアドカレはきちんと調べて大真面目に書きましたが、本稿は軽めに書こうと思います。
 それでは演奏会の基本情報とプログラムの紹介からどうぞ。

公演情報

◇2021年6月27日(日)13:40開場 14:00開演 ※無観客、配信のみ
▽視聴チケット ¥2,000(当日15時まで購入可能) 購入はこちらから
◇配信会場: スタジオピオティータ(東京都杉並区下高井戸)
◇使用楽器: 1931年製(1990年リビルド)ニューヨークスタインウェイB型(スタジオピオティータ常設)
■後援 東京藝術大学音楽学部同声会、一般社団法人 全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)
※当ライブ配信のチケットをご購入の方は、2021年7月31日まで当日のアーカイブをご覧になれます。

プログラム

 川村 祥子(KAWAMURA Sachiko, pf)
 ダカン / かっこう
 J.S.バッハ / シンフォニア第11番 ト短調、第12番 イ長調
 ベートーヴェン / ピアノソナタ第21番 ハ長調「オーロラ」(ワルトシュタイン)Op.53
 (演奏時間約35分)

 ♪休憩(15分程度)

 加瀬 茉理枝(KASE Marie, pf)
 ステーンハンマル / 即興曲 変ト長調
 フィビヒ / 画家の習作 Op.56
 1. 森の中の孤独 2. 謝肉祭と四旬節の諍い 3. 祝福された者たちの踊り
 4. イオとジュピター 5. 庭園の集い
 (演奏時間約43分)

 ♪転換(5分程度)

 加瀬茉理枝&川村祥子(KASE and KAWAMURA on 1 piano - 4 hands)
 フィビヒ / ピアノソナタ 変ロ長調 Op.28
 (演奏時間約17分)

プログラムについて

 こんなこと書いちゃうのも変なのですが、各々のソロの後にはアンコール一曲があり、連弾のソナタの後はアンコールは無しでそのまま終演前MCに入ります。予告しちゃうという残念さ!初めての配信なので今後どうするか考えていこうと思います。
 それから、プログラム最後の連弾はマスク着用で演奏します。準備段階でもマスクを着用していました。感染拡大防止の意味合いもありますし、エキシビション的な気分もあります。

 プログラムについて。コンサートは、ピアノ学習経験者の多くが耳にしたことがあるであろう3曲で幕を開けます。もの悲しそうな和声の中に「かっこう、かっこう」と聴こえてくるダカン「かっこう」、そしてバッハのシンフォニアから2曲。年若い学習者でもご存じであろうバロックの有名曲から入ってきたことに驚きましたが、今まさにピアノを習っているという方にぜひ聴いてほしいです。大変に勉強になるもののはずだから。何よりこの3曲を川村の演奏で聴けるなんて私が嬉しい。
 川村にプログラムを出してもらった時に、私(加瀬)はシンフォニアの中で12番がダントツ好き、希望にあふれ、この短さで人生の機微まで感じられる12番が一番好きなんて話をしたところ川村が(この曲は)「あーすがあーるーよー」というテーマが聞こえてくる、あーすは明日でありEarthであるという希望に溢れる話をしてたのをすごいよく覚えてるので書いときます。皆様も多分もうこう聞こえてくるはず、あーすがあーるーよー…♪
 続いて、ピアノという楽器の進化とともに生きたベートーヴェンの中期ソナタの中「熱情」とともに燦然と輝く、未来を見据えた傑作「ワルトシュタイン」。ワルトシュタイン伯に献呈されたことに由来しますが、このソナタはモスクワではオーロラと呼ばれていて、あんまりワルトシュタインという言い方は聞かなかった気がします。1楽章は冒頭十数小節から「ハ長調で始まったと見せかけて、動いて動いてやっぱりハ長調(※実際はハ短調)に帰ってくる」もしかして劇伴?と言いたくなるような、愉快かつドラマもたっぷりのテーマの生命力が、未来へたくさんの矢を放っています。和音の連打とトレモロ、コラールのような第二主題など、個人的にはこの楽章は弦楽合奏を想起するところが多いです。続いて、二楽章というよりは文字通り次の楽章への導入(Introduzione)といえるヘ長調の短い楽章を経て、まさにオーロラがオーロラたる、この大きなドラマすべてを包み込むくらい美しく壮大な三楽章に入ります。くもりのないハ長調の前に立ちすくんでしまいそうです。フィナーレに向かうにつれて大きなオーロラが現れてくるわけですが、私はやはり三楽章冒頭のあの白いふわふわとした大地に母の歌が聞こえてくるようなオーロラが一番美しいと感じます。抽象的で申し訳ない。
 ちなみに今回のコンサートの裏テーマには「記念年」というのがあって、皆さんご存知の通り昨年2020年はベートーヴェン生誕250年でした。きっと世界中で様々な企画が打たれようとしていたに違いないのだけど。

 さてここまで知名度の高い曲揃いだったわけですが、ここから先のプログラムで知ってる曲がひとつでもあるという方は果たしてどのくらいいるのだろうか。しかし聴衆がまだ見ぬ…まだ耳にせぬ?曲を立ち上げるのもまた演奏家の使命、そして加瀬はそちらをライフワークにしていますんでどうぞ少しの間お付き合いください。
 ステーンハンマルは北欧スウェーデンの作曲家、今年生誕150年、現地では国民的作曲家の一人に数えられるような重要な位置を占めています。この即興曲は、残念ながら作曲のいわれは私はわからないのですが、雪に閉ざされたというよりは、冬の間重く凍り付いていた港や川が春になり再び少しずつ流れはじめた様子を遠くから眺めているような感じがします。
 そしてチェコの作曲家フィビヒ(昨年が生誕170年、没後120年)、「画家の習作」。この曲に関する疑問と自己解決はアドカレ24日目をご覧ください。5曲それぞれに題材となった絵画があり、その絵画を(不完全な形ながら)ご紹介できるのはプログラムノートをオンラインで公開する利点かもしれません。どうぞそれぞれの絵を見ながら視覚・聴覚両面で想像をふくらませてみてください。
 1.(曲タイトル)「森の中の孤独」
 (絵画:ロイスダール「狩」 ドレスデン美術館所蔵)
 2.(曲タイトル)「謝肉祭と四旬節の諍い」
 (絵画:ピーテル・ブリューゲル(父)・タイトルは曲と同名 ウィーン美術史美術館所蔵)
 3.(曲タイトル)「祝福された者たちの踊り」
 (絵画:フラ・アンジェリコ「最後の審判」 ベルリン絵画館所蔵)
 4.(曲タイトル)「イオとゼウス」
 (絵画:コレッジョ「ユピテルとイオ」 ウィーン美術史美術館所蔵)
 5.(曲タイトル)「庭園の集い」
 (絵画:ヴァトー「屋外の集い」 ベルリン絵画館所蔵)

 2曲目「謝肉祭と四旬節の諍(いさか)い」は題材となった絵自体に様々な暗喩があり、大人の方はぜひ検索してみてください。4曲目「イオとジュピター」はゼウスとイオのお話、有名なエピソードではありますが、こちらも大人の方どうぞ検索してみてくださいね(今回、最年少の聴衆が幼稚園年少さんの可能性あり、なんとなくこんな書き方になっています)。絵画は「ユピテル(ジュピター、ゼウス)とイオ」、曲タイトルは「イオとジュピター」ですが、見習い画家(?)フィビヒが元の絵画を音楽的に模写する時、女性(イオ)目線にするという独自の視点を入れたのではと私は思います。そこにはフィビヒ自身の女性に対する理想も少なからず入っていそうな気がします。
 5曲目「庭園の集い」は真ん中にギター(テオルボ?)を持った人がおり、恐らくその人が様々な舞曲を次々に演奏しているのでしょう。その楽の音に合わせ代わる代わる踊って楽しく過ごす…という、コロナ禍のいまでは考えられない19世紀型パリピ(?)。早くまたこんな風に過ごせる日が来るといいですね。

 そして最後の曲は、連弾でお送りしますフィビヒ「ピアノソナタ 変ロ長調」!川村と私とは初めての連弾になります。モスクワ音楽院在学中から恩師エレーナ・リヒテル教授に「あなたたちは4手(=連弾)でも弾きなさい!私の門下からはいいデュオが出るのよ!」(※実際リヒテル先生の門下出身でデュオ分野で活躍している方は何人もいる)と言われて…から早10年以上、やっと実現します先生。2005年旧奏楽堂にて開催したオールフィビヒプログラムのコンサートのトップを飾ったこの曲(w/齋藤大輔)、15年の時を経てふたたび。あの時も私はPrimoだった。
 第1楽章、第3楽章の調性「変ロ長調」は和声がそのまま黄昏色の絵の具のようですし、私自身一度だけ訪れたプラハで、街並みや川、風景を見ながら「この色がフィビヒだ…」と思ったものでした。第1楽章は穏やかな夕暮れと風景、そこに行き交う人々。ニ長調のかわいらしい変奏曲である第2楽章はどこか北欧グリーグ的な感じがする(ような気がする…私だけ?)けれど、フィビヒの愛した自然、とりわけアルプスの山々の、残雪とかわいらしい山小屋に日が暮れて…という風景を想像します。第3楽章はふたたびプラハの夕暮れ。石畳に急ぎ足の人々の靴音や馬車のひずめの音が響き、行きがけに友人にばったり会い、短い話をして笑顔で別れ、それぞれが各々の目的地-劇場、デート、家路などに向かっていく。街で人々は交差するけれど別れていく、人生もまた交差し分かれていく、希望の夜明けでも勇壮な凱歌でもなく、泣き笑いのような夕暮れの街のワンシーン…私はこの3楽章がとても好きです。そして日々はまた続いていく。

おわりに

 配信でないとできないようなみっちりしたプログラム(?)、ほどほどに休憩しながらご覧いただければと思います。本公演は視聴チケットをご購入の方は7/31までアーカイブをご覧いただけますが、チケットの販売は公演当日6/27の15時までですのでご注意ください。配信チケットのご購入はこちら

 今から15年前、大きな不安とかすかな野望を抱えて乗り込んだモスクワで、私は同門の先輩であった川村にどれだけ助けられたかわかりません。〇〇初年度とか〇〇一期生とかいうことにばかり縁があった私にとって、川村は先輩と呼べるたった一人の存在です。さいたま市浦和区上木崎にある私のレッスン室には、恩師エレーナ・リヒテル先生をふたりで囲んだ写真が飾ってあります。

(左から私、先生、川村)

 大好き。

 梅雨時で、当日はどこも雨がちになるのでしょうか。午後のひと時、ピアノの音色をお楽しみください。(文:加瀬茉理枝)

謝辞

 いつもフィビヒに関し大きなご助言とお力添えを下さるfibich.infoの堀内様、裏方と当日運営をほぼ一手に引き受けてくれたallstars.jpの頼れるディレクターゆうちゃん、そしてスタジオピオティータのオーナー西澤様にこの場を借り心より御礼を申し上げます。
 また、ご視聴くださる皆様へも心からの感謝を申し上げます。
 今はこのような社会状況ですが、いつかまた「庭園の集い」のように楽しく集える日が来ますように。皆様、どうぞお元気でいてくださいね。

付記・演奏者ふたりのプロフィール

 加瀬 茉理枝 (かせ・まりえ) ピアニスト
 千葉県立千葉高校、東京藝術大学音楽学部音楽環境創造科卒業。藝大在学中よりピアノを故エレーナ・アシュケナージ女史に師事しロシア・ピアニズムに大きな影響を受け渡露、チャイコフスキー記念モスクワ国立音楽院(ピアノ専攻)にてエレーナ・リヒテル教授のクラスに学び、大学院課程を修了。留学中はロシア国内や欧州圏の音楽祭・シンポジウムなどで演奏活動を行った。2008年イタリア・若い音楽家のためのG.カンポキアーロ国際音楽コンクールにて満点を得て優勝したほか賞歴多数。2010年7月に完全帰国後、ピアニスト・ピアノ講師として活動する他、ロシア文化・文学に関するレクチャーコンサートも手掛ける。E.リヒテル教授、A.ネルセシアン教授など来日教授のマスタークラス通訳を務める。2017年よりスタジオ・ピオティータ レジデント・アーティスト。さいたま市浦和区にて音楽企画・音楽教室運営を手掛けるallstars.jp代表、2021年2月より同地でマリエンバード音楽教室を主宰し後進の指導にあたる。暴れ盛り(?)の3歳男児の母。

 川村 祥子 (かわむら・さちこ) ピアニスト
 音楽を愛する母の影響のもと、4歳からピアノを始める。
 北鎌倉女子学園高等学校音楽科(日比谷友妃子氏に師事)を経て、東京藝術大学音楽学部器楽科(多 美智子教授に師事)を卒業。故ゴールドベルク山根美代子氏の公開講座に連続出演。その後、ロシアへ渡り、チャイコフスキー記念モスクワ音楽院(大学院・研究科)へ留学。ネイガウス派を受け継ぐエレーナ・リヒテル教授のもと伸び伸びと音楽に没頭する。ロシア留学では色々な美術館等にて演奏経験を積み、様々な芸術にも触れる。
 また、幼き頃より海外からの著名なピアニストや教授から多くの世界を感じる機会に恵まれる。世界的ピアニスト、故アレクシス・ワイセンベルク氏(スイスにて)、アドルフォ・バラビーノ氏(イギリスにて)等、様々な講習会、及びコンサートに出演。クラシック・ムジカ国際コンクール・フェスティバル(ロシア・ルーザ)にて最高位、及び『バッハ=ブゾーニ賞』受賞(2010)、同コンクールにて第1位受賞(2011)。
 これまでソロ・リサイタルを国内外にて、日本の重要文化財(横浜市大倉山記念館、横浜市イギリス館、上野旧奏楽堂)、芦ノ湖音楽祭、横浜ゲーテ座、江ノ島、琵琶湖ガリバーホール、鎌倉芸術館、燕三条、松代(まつだい)の建築家カール・ベンクス氏のモダンな古民家、ミャスコフスキーホール(ロシア)、ハンマーウッド・パーク(イギリス)等で行っている。2016年秋、『イタリア&日本、国交150周年記念イベント』の一環として行われた、エドアルド・キヨッソーネ東洋美術館(イタリア・ジェノヴァ)の『日本絵画作品集』展にて、ソロ・リサイタルを行い、2017年夏には『音楽と海』国際音楽祭(イタリア・ソリ)に招聘され、絶賛を博す。また、シンガポール国際クラシックピアノコンクール審査員として招待され演奏、マスタークラスを行うなど、後進へのピアニスト・アドバイザーとしても国際的に活動している。
 2013年よりCD録音を開始し、イギリスのクラウディオ・レコード社よりバッハ、バッハ=ブゾーニ、リスト作品を収録したデビューアルバム ”Kawamura Plays Goldberg” を2014年リリース。イギリス音楽雑誌 Musical Opinion誌にて、五つ星のCD評が掲載される。2018年、ショパンのエチュード作品10&25(全24曲)とラフマニノフ作品を収録した、セカンド・アルバムCD “KAWAMURA plays Chopin Etudes” 好評発売中。
 現在、2020年「ベートーヴェン生誕250年」、2021年「モーツァルト没後230年」を機にベートーヴェンとモーツァルトのピアノ・ソナタ全曲録音プロジェクトに取り組む。オンライン・ピアノ・マスタークラスの企画など活動の幅を広げている。クラシック音楽と自然の音による、”ひとの心と自然と音楽の調和”を目指し、世界で芸術活動を続けている。

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わお!
ピアニスト、ロシア語通訳に加え2021年2月から「ピアノの先生」という肩書が追加!さいたま北浦和「マリエンバード音楽教室」主宰。 日々ミスター・不屈の魂の3歳児と格闘中。年中野球ばっかり見てる燕党。教室web→ https://allstars.jp/