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ビギナーズゴルフ・ラプソディ

 私の夫は都内に勤める会社員である。こう言っては本人は怒るかもしれないが、顔が少々濃い目なうえ身体もがっしり骨太なので目を引くかもしれないけれど、まあ中身は普通の人だ。
 そんな夫が初めて「会社でゴルフに誘われている」とか「今回は回避したけど次は行かなきゃだめそうだ」とか「(私)のお父さん、ゴルフ教えてくれるかな…」とか言い出したのは昨年の秋のことである。夫は中高と陸上をやっていたが、今までゴルフはやったことがない。
 …というわけで、ゴルフ未経験の夫が会社の懇親ゴルフにどうにかこうにか参加するまでの約2か月を妻目線で追う記事を書きたかった。書きたかったのだけど、先にラストをお知らせするのもあれなのだが懇親ゴルフ当日に向けて私自身が体調を崩すので、その目的を達成しきれていない。それでも今後再び我が家に起こるであろうこの狂騒に備え、書き残しておこうと思う。

1. 夫が初レッスンに行くまで

 その昔、もう25年近く前になるだろうか、当時ゴルフ未経験の私の父が異動後にゴルフの誘いを受け困っていたのを覚えている。困ってはいたのだが周りも父も行動が早かった(?)。祖母が初心者セットを用意して父にプレゼントし、父は週末ゴルフスクールのあるジムに通うようになった。レッスン日ではない休日も、よく気配のスイッチを消していつの間にか打ち放しに出かけていた。
 そうこうしているうちに父は、イベントなのか友人との集まりなのかわからないが、かなり頻繁にコースに出かけていくようになった。きっと父も最初はゴルフに行くのが憂鬱だったに違いないのだが、いつの間にか自分の趣味とし楽しんでしまうことで克服…というか、自分の一部としてしまったのだ。私自身は父がゴルフをプレーしているのを一度も見たことがないので実際のところはわからないのだが、朝早く出かけていく様子や帰ってきた姿を思い出すと、きっとそうだったのではないかと思える。

 さて、そんな父も定年をきっかけにかあまりゴルフには出かけなくなった。そんなときに急に娘の旦那が「ゴルフ教えてくれませんか」ときたのでさぞ驚いたと同時に複雑な気持ちだったことだろうと推察する。父は「コースに出るまではとにかくスクールに行け」と言って、自分のセットを私たちの住まいにどんと持ってきた。揃えると結構大変だからとウェアと小物もわざわざ買ってプレゼントしてくれた。ゴルフウェア高い!お父さんありがとう。
 しかしここまでお膳立てされても踏み出せないのがうちの夫、ギリギリにならないと動かないのは私と同じかもしれないが、この人は信念を持って何をするにも絶対に自分のタイミングでいきたいらしい(結婚するときに頭にくるほど思い知らされた)。私に「いつ行くのよ!!」とけしかけられつつ、踏み切れないまま2019年が暮れていった。

 明けて2020オリンピックイヤー、長かった正月休みの終盤あたりで夫が動いた。とりあえず家から一番近いゴルフの打ち放し施設に併設されているスクールに電話をかけたのだ。意外なことにあっさり予約が取れ、私の父がくれたセットをとりあえず全部持って、「手袋買わないといけないみたいだから」と時間にかなりの余裕をもって出かけていった。そうだ、やるときゃやるんだ。普段の平日のようにリビングに私とミスター・不屈の魂こと子供氏(2歳)が残された。あれ?
 私も2歳からピアノを習い、それが高じて今やピアノを専門にしている身だ。特に小さい頃は何が大事かって、毎日練習することである。夫のゴルフも、いくら大人になってから始めたといっても、いくら運動神経が良い方だといっても、練習を積まなければならないのは同じだろう。ということは夫はあれか?とりあえず一回のイベントだけでなく、その先もゴルフに行き続けるとなると、休みの日はずっと練習しないといけなくなるの?
 私だって許されるなら毎日3、4時間は練習したい(ピアノを)。昨年11月に頑張ってソロ2本やって演奏に復帰した体なので、できたらこのまま徐々に戻していきたいけれど、子供氏が最近ますます不屈の魂でスタミナガソリンタンク、「おれは!ぜったいに!ねません!!!」とばかりに一日中外に内にと暴虐の限りを尽くしているので、誰かに子供を見ていてもらえない平日は練習できない日も多い。週末まで子供と二人ってことになったら私はどうなるんだ?ん?思ってたんと違う

 とかなんとか考えていたら私のスマホがぶー、ぶぶぶ。夫からだ。
 『【悲報】1月○日で営業終了』

 まじかー。

2. 紆余曲折

 一か月以内に閉鎖になるという施設で初めてのレッスンを受けた夫が帰ってきた。どうだったと訊くと、30分ほどのグループレッスンの中に入れられて、自分以外は皆顔見知り、先生は時々回ってきてなんか言ってくれるくらいで基本はとにかく打つだけ、施設閉鎖以降はどこでレッスンするみたいな案内を他の人にはしてたけど自分にはその話はなかった、と。おお夫よ…何かかわいそうになってきたぞ…。
 もちろんこの日得た知見もあって、
・現時点で打ち放しやレッスンに行くのに道具を全て持って行かなくてもいい。もしかしたら初心者は一本でもいいかもしれない。
・力みすぎて手袋をしていない方の手の皮がむけてくる。痛い。

 夫はただでさえ未知のことに弱いのに、せっかく初めてのレッスンを受けるために電話予約をして独り出かけて行ったのに、『ここきてももうしょうがないよ〜やめとけば〜?』みたいな空気を醸し出されてしまったらそりゃもう打ちひしがれちゃっても仕方がないよ星屑ロンリネス!しかしここで夫を背後からぶっ叩くのも妻の役目であろう。かくして夫は別のゴルフセンターに電話をしレッスンを予約するのだが、寂しそうな横顔に耐えられなかったのと、今度のゴルフセンターは私も比較的地理勘のあるエリアにあったので、私と子も散歩がてら一緒についていってあげることにした。
 夫は初めての場所なのでまたゴルフセットを全部持っていこうとしていた。車を家の前に出したところで気付いたが、ゴルフセットは私が思っていたよりも大きくトランクには積めないことが判明した。後部座席を片方倒して載せるしかない。後部座席逆側にはチャイルドシート。私はチャイルドシートの隣が定位置だったのに、こんなことで助手席に復帰するなんて!ミスター・不屈の魂こと子供氏2歳は今のところこうと決めたら頑として曲げない性格だし、どちらかというとイレギュラーに弱い。私がいなくても大丈夫なのか?!

 子「ぎゃははははははははは」
 意外と楽しんでいるようでよかった。私の知らないところで子供も育っている。
 この日行った打ち放し施設には付き添いが待つスペースなどないし、家族連れもいなかった。私と子は通路の後ろに引っ込んで見ていたが、私たちの立っているすぐ脇の窓が大きく割れたのを補修した形跡があり、え、後ろに飛んでくることもあるの、ボールが飛んでくるのクラブがすっぽ抜けるの、いずれにせよこの子を守らなきゃやばい、と無言の臨戦態勢に入らざるを得なかった。子供は子供で見回りの御婦人に「きみは〜まだ早いかな〜?パパ見に来たのかな〜?もう少し大きくなったらやってみてね!」など声をかけられて上機嫌でいた。
 先生が来て夫は体制を整え始めていた。会話が漏れ聞こえてきて、
先生「これ使ってるんですか?打ちづらくないですか。上級者の飛ばし屋が使うやつですよ」
夫「もらったやつなので…」

 パーパ、娘は今まで知らなかったよ。飛ばし屋だったんだね。飛ばし屋ってどんなだ。夫は今に至るまで私の父のセットを使い続けているが、この頃から父セットの中身について検索するようになり、その結果が私の目にも入り、私の父が道具にそこそこのマネーを突っ込んでいたことを知る結果となった。
 さて、この日のレッスンは夫もそれなりに得るものがあったのか「今日はそこそこ教えてもらえた〜」と恥ずかしそうにしていた。ここのレッスンには今もたびたび通っている。なお私は不屈の魂子供氏に制御不能なほど暴れられたので、以後夫の練習への同伴はお断りしている。一人で行け。

 後日たまたま父と電話で話す機会があったので、飛ばし屋の道具と言われたと伝えたら、
「あ〜。。。他にもっと〇〇が〇〇で打ちやすいやつがあるから初心者はそっちの方が…ごにょごにょ」
 なぜ父も夫もゴルフの話は若干恥ずかしそうにするのか。また、セット内容の中でどのクラブをいつ使うのかについてきいていたら、その日のコンディションによって持ち替えるためのものがあることもわかった。私も昔「体調が悪いときの本番はスタインウェイでなくヤマハの方が…」なんて言っていたこともあるので感覚はわかるが、ピアノはそう簡単には交換できない。
 夫は夫で会社でゴルフデビューをいじられることもあったらしい。頑張りますと答えると「頑張らなくていいんだよ」と言われたそうだ。それを聞いて、何がいいんじゃい、やるからには例え無理でも一番になるために頑張らなくてなんの意味があるんじゃ、と思った私はたぶん、出世できない。夫は立派な社会性人間だ。

 さて新型ウイルスのニュースが徐々に増え始めた1月末、初めて行ったゴルフセンターも営業を終了し、夫は二件目に行ったところと、新たに見つけたもう一か所をうまく使い分けながら休日のたびに練習に励み、帰り道沿いにケーキ屋とパン屋が並んで入っている建物を発見したらしく、家族サービスの一環か度々マカロンや焼き菓子、小洒落たパンを買って帰ってくるようになった(ふざけて「ゴルフ 離婚」の検索結果を見せたからかもしれない)。
 ある日、また夫がおずおずと「怒られると思うんだけど…」と切り出してきた。聞くと、会社のゴルフが初のコースとなるのはさすがにまずい、一緒に回る人が本当に「いいんだよ」で済ませてくれる人ならいいが、そうでないと本当にまずい、とのことで憐れんだ同僚の方かどなたかわからないけれど、とにかくうちの夫を不憫に思ってくださった方が近くにいて、模擬コースみたいな施設に連れて行ってくれるというのである。優しい人はいる。お休みの日なのに本当に申し訳ない。私は承諾した。

 ここで新たに問題になったのがウェアである。先述の通りウェア一式を父がプレゼントしてくれたので私は安心しきっていた。しかし改めて全部着せてみると、確かに父は着てそう!着てそうな服(新品)なのだけれど、うちの夫が着るとEテレの体育ノ介(はりきり体育ノ介)とネンドレ(ピタゴラスイッチ-ねんどれナンドレラッツの跡じまん)を足して2で割ったようなのが出来上がったので絶句した。とりあえずフルでいってもらうべく帽子も被ってみてほしいとお願いしたら、頭部に淋しそうな柴犬が乗っかったネンドレに変身した。この姿を子供に見られたら指をさして「いーぬ!!わんわんわんわん!!!」と言われかねない。私はできるだけ夫に失望を悟られないように着替えを促し、笑顔で練習に送り出した。
 もうここで頼るは私が知る中で断トツのセンス人間、母にきくしかない。
「おかーさん!!親父がくれたウェア色付き粘土かなんかみたいなんだけどどうやってコーディネートさせたらいいの」
「あ~ねえ~。わかる~」
「わかる~じゃなくて。(夫)に着せたらほんと色付き粘土で顔だけ柴犬みたいな感じだったんだけど」
「あ~。おかあさんもねえ~、おとうさんがゴルフ始めたころにあんまり着るものがすごいから一緒に見に行ったことあったのよ~、でも売ってるものがみんなすごいからそのあと野放しなの~」

 母の手にも負えないものだったことだけがわかった。その後しばらくして父から「ゴルフウェアではっきりした色を着るのは危険防止の意味もある」とのメールもきた。でも自分の夫がネンドレなのはいやだ、というわけでぐずる子供を膝に座らせ、そもそもゴルフウェアとは一般にどのような様相のものであるのかを検索しまくって勉強し、ビームスゴルフはとっても素敵だけど高いことも学習し、その上でせめて全身一色にならないようなコーディネートの検索に勤しむこととなった。あともっと大きいサイズの帽子を探して買ってあげた。
 結局その同僚の方が同伴してくださったという模擬コースには朝の6時から全身青か紺のネンドレ状態で出かけていき、プレー以外にもゴルフの周辺の話題(ゴルフ保険)などのふわっとした知識を仕入れて帰ってきた。私と子供は家で留守番だったが、妙に曜日感覚のついてきた感のある2歳児は恐らく土曜の朝に父親がいないことに腹を立てたのか、私のことをぽかぽか叩いてきた。叩いてきたのは恐らくこの時が初めてだし、力の加減を知らない幼児のパンチは私のメンタルをもぼっこぼこにする強さで、さすがに落ち込んだ。ここのところ夫のゴルフ練習を優先していて、休みの日なのに計算して動かないといけないことばかりだし、自分の練習はほぼできないし、前は子供を夫に見ていてもらって私が友人と出かけるようなこともあったのだが、ことごとく断らなければならなくなった。友人に「できないのに参加させられるの?!それハラスメントって言うんじゃないの?!」と言われても、仕事の一環だと考え、それが私たち母子をも助けてくれるのだから可能な限り協力しようという心も、スタミナ切れを知らない2歳児の前に折れそうである。世の奥様方の心の持ち方を知りたい。

3. いざ、初コース!の日…

 さて2月も後半に差し掛かり、いよいよ新型コロナウイルスのニュースが増えてきた。子供の通う英語教室も一定期間休講する旨のプリントが配られてびっくりしたし、テレワークに切り替えた人も出始めているようだし、友人たちの関係するイベント・コンサートの類の延期や中止の報も多く聞くようになってきた。これは多分ゴルフも中止だな…寧ろ中止にならないといろいろ考えるところあるぞと思っていたが、夫のところには開催ということで念押しのメールまで入っていたようだ。もし懇親ゴルフ敢行で集団感染となったら一発離婚も辞さないと本気で考えた。うち2歳児いるのに何考えてんだ…。
 開催は土曜日である。私は水曜くらいから夫に「中止になりそうか教えて」と毎日言い続けた。木曜、心配しすぎたのかどうも調子が悪くなってきて、ついに夕飯を食べず洗い物もせず市販の風邪薬を飲んで寝た。金曜、引き続き不調(風邪様の症状ではない)。しかし折からの花粉シーズン+この状況で2歳児を抱えて病院に行けようか。世間では一斉休校の号令が出たらしい、さすがに中止に違いないと思ったが敢行方針変わらず。ちくしょー、と思いながら私は翌日病院に行く時の子守役のため実両親に現居に来てもらうようお願いした。
 夫は翌朝4時半に家を出て、会場である北関東某所まで車で出かけて行った。私は前の日の晩ごはんも食べなかったし洗い物もしてないし風呂にも入ってない、そもそも起き上がるのも辛い、どうしろと…と思っていたら実両親がなんと7時台に到着した。前から頼んでいた実家のピアノの椅子一脚と、ごはんを作るための下ごしらえ済の食材の入ったタッパーを携えて。
 現居に引っ越してから初めての耳鼻科受診、診察開始と同時に受付を済ませ待つこと1時間、検査を経て言われたのは突発性難聴。一般的な説明を受け、今後頻繁に通院の必要があることを告げられ、院内処方をもらって帰る。夫には概ねそのままLINEで報告しておいた。数時間後にぐんまちゃんが「ごめんね」と言っているスタンプひとつが送られてきた。

 なんだかんだで両親と会うのは正月ぶりだったので、やれ子供の服がかわいいだの難聴にはオニオンスープだの、とりとめのない話をいろいろとした。夫のゴルフの話題にもなり、父が「え、4時半に出た?おれ(千葉発で)妙義山行った時もそんな時間に出たことないよ」と言われ、初めて父が妙義山までゴルフに行くこともあったことを知った。遠すぎないか?ゴルフってそんなとこまで行くのか??確かに土地は広く取れそうではある。その後も、4時半発だとスタートは8時前だな、で10時半とかにごはんだよね~、14時に終わっていろいろあって16時には帰るんじゃない、と嬉しそうに話していた父は完全に私が見たことのないノリだった。父のセットをなんだかんだ使っていること、ウェアも着ていること、帽子は小さくて入らなかったことなどを話すと意外なほど嬉しそうにしていて、共通項ってすごいなと今さらながら思った。先々一緒にゴルフに行きたかったりするのだろうか。ゲーム「みんなのゴルフ」の画面を見て「いっけー!!」と興奮している子供も連れて行ってあげてほしい。
 父と母はうちのキッチンでハヤシライスを作りご飯を炊き、うちにあったチキンラーメンと余った消費期限当日のサラダを食べて帰っていった。14時くらいだったろうか。子供もいつのまにか寝ていて、私はどっと疲れてしまったが、夫からは一向に連絡がない。ボールとともに池に沈んだのかもしれない。
 16時過ぎて、ゴルフ場近くの位置情報が送られてきた。18時くらい、短く「(父に)初でグロス139でしたと伝えてください」とLINE。父に伝えたところ「初めてにしてはいいほうです」って仲良しか!良かったね。19時くらいになってようやく、ゴルフ場で買ったりもらったりしたらしいたくさんのお土産とともに夫が帰宅した。初参加賞(?)で派手な色のボールをいただいたようで、それを子供が気に入ったのかずっと持っていて、それを見て夫もたいそう嬉しそうにしていた。とりあえず一度参加して全体のレベルがわかったことでほっとしたのもあるだろう。父に今さらゴルフセットの中身についての質問などもしていた。仲良しだな。

 3月中旬現在、夫が初めて行ったゴルフセンターの建物はすべて取り壊されたし、私の病状は一進一退だ。子供は相変わらず元気で、夫は約半年後だという次の会に参加する意欲自体はあるらしく、その頃また何やらあるんだろうけど、この話は一旦ここでおしまい。

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ピアニスト、たまにロシア語通訳(現在育休中)。日中はミスター・不屈の魂の2歳児と格闘しており、恐らくピアノにあまり使わないであろう部位ばかり鍛えられています。一年中野球ばっかり見てる燕党。https://www.marienne.net/