2021/11/14~ 加瀬茉理枝ピアノオンラインコンサート「季をわたる蝶」プログラムノート
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2021/11/14~ 加瀬茉理枝ピアノオンラインコンサート「季をわたる蝶」プログラムノート

 スタジオピオティータレジデントアーティスト一期・ピアニストの加瀬茉理枝です、皆様お元気でおいででしょうか。6月に引き続きオンラインコンサートを行う運びとなりまして、この記事はそのプログラムノートです。

公演概要

加瀬茉理枝オンラインピアノコンサート
「季(こよみ)をわたる蝶」

配信:2021年11月14日(日) 13:30 ~ 2021年11月21日(日) 23:59
※視聴チケット 通常価格1,800円(10/31まで早割あり)
配信終了前日(11月20日)までご購入いただけます。

詳細はteket 公演ページへ⇒https://teket.jp/1070/5988

プログラム:
Z. フィビヒ / 春 Op.1、 山々から Op.29
W. ステンハンマル / ピアノソナタ ト短調、晩夏の夜 Op.33

※収録会場:スタジオピオティータ(東京都杉並区)
 使用楽器: 1931年製(1990年リビルド)ニューヨークスタインウェイB型(スタジオピオティータ常設)
◇後援 スウェーデン大使館、東京藝術大学音楽学部同声会、一般社団法人全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)

演奏者プロフィール
 加瀬 茉理枝 (かせ・まりえ) ピアニスト
 千葉県立千葉高校、東京藝術大学音楽学部音楽環境創造科卒業。藝大在学中よりピアノを故エレーナ・アシュケナージ氏に師事しロシア・ピアニズムに大きな影響を受け渡露、チャイコフスキー記念モスクワ国立音楽院(ピアノ専攻)にてエレーナ・リヒテル教授のクラスに学び、大学院課程を修了。留学中はロシア国内や欧州圏の音楽祭・シンポジウムなどで演奏活動を行った。2008年イタリア・若い音楽家のためのG.カンポキアーロ国際音楽コンクールにて満点を得て優勝したほか賞歴多数。2010年7月に完全帰国後、ピアニスト・ピアノ講師として活動する他、ロシア文化・文学に関するレクチャーコンサートも手掛ける。E.リヒテル教授、A.ネルセシアン教授など来日教授のマスタークラス通訳を務める。2017年よりスタジオ・ピオティータ レジデント・アーティスト。さいたま市浦和区にて音楽企画・音楽教室運営を手掛けるallstars.jp代表、2021年2月より同地でマリエンバード音楽教室を主宰し後進の指導にあたる。暴れ盛り(?)の4歳男児の母。

みどころ
 ◇季(こよみ)をわたる蝶
 - 前回2021年6月27日のオンラインコンサート「オーロラへと羽立つ蝶」に引き続き、昨年が生誕170年、没後120年であったチェコの作曲家Z.フィビヒ、今年生誕150年を迎えたスウェーデンの作曲家W.ステンハンマルのピアノ曲を取り上げる。奇しくも長い冬が明け雪解けと輝きの春から、雪の残る中にも新緑と花々が美しく時に厳しい表情を見せる山、暮れない昼と自然の力強い姿が見られる北欧の夏から、ふたたび閉ざされた中に様々な夢幻的な光景を見せる冬へと、季節をわたっていくプログラムとなった。視聴者の方には、当公演を通じてチェコやスウェーデンとその作曲家・音楽を少しでも近くに感じていただければ幸いである。

その他関連事項
【重要】新型コロナウイルス感染拡大に伴う措置で、当公演は収録会場内無観客・インターネット配信のみで実施いたします。
・演奏者をはじめ関係者は収録当日までマスク着用や消毒等の感染対策と検温等の管理をして臨み、当日は関係者以外の会場への出入りを一切禁止して実施いたします。
・teketでの視聴チケットご購入にはメールアドレスが必要です。「teket.jp」からのメールを受信できるようドメイン指定をお願いいたします。
・当公演の配信のご視聴にはパソコンやスマートフォン等のインターネット接続が可能な機器と、接続環境が必要です。チケットご購入後のご視聴方法については、teketからのご案内のメールをご覧ください。なお、ご購入者様の視聴環境の操作についてのお問い合わせは、運営ではわかりかねますのでどうぞご容赦ください。
◇配信終了日の前日(2021/11/20)まで https://teket.jp/1070/5988 にて視聴チケットのご購入が可能です。

本文の前に

 この公演を企画していたのは、前回公演終了後の夏も盛りとなった頃合い、感染者数は4桁を報じ続ける毎日、本来当公演も前回同様のライブ配信の予定だったのですが、そうするとセッティングから撤収まで2日がかりになってしまい、できるだけスタッフ・演奏者全員で集まる日を減らそうということで、今回は収録にすることになりました。そして迎えた11月は驚くほど日々の感染者数が減っており、決定を早まったかとの思いはないわけではありませんが、後悔はない。これを書いている時点で収録は終了して私の手を離れており、今はスタッフが編集に苦心しているところです。。

 今回収録にして、収録には収録のつらさがあることを知りましたが、それはまた別のお話。オンラインでもそうでなくても、もうライブしかやりたくない…と今は思っていますが、それもそのうち忘れるのかもしれません。
 では次項から曲目に関して少々書かせていただきます。

プログラムノート

Z. フィビヒ/ピアノのための即興曲「春」Op.1 Hud.3
 これまでなんどもなんども取り上げてきたチェコの作曲家フィビヒ(1850-1900)。作品番号1のこの曲は1865年作曲(フィビヒ14歳)、フィビヒはフルディム(プラハから東に離れた町)で行われたコンサートで演奏したのだそうです。
 昨年来何度かフィビヒの記事を書いたときにもふれましたが、どう頑張っても楽譜が見つからない曲の一つでした。結果から書くと、今回プラハにあるチェコ国立図書館から100年以上前の楽譜(初版?)のデータを有償で提供を受けることが叶い、今回演奏に至りました。(なお提供を受けた楽譜も明らかな誤植が多く、誰かが直したと思われる跡がありました。また、今回は視奏での収録となります。)

 私にとって穏やかな日差しを連想する調・変ロ長調で書かれた「春」は、終始三連のリズムの上でロマンチックなメロディが踊ります。3分余りの短い曲ですが、早春の枝葉を渡る朝露にもいろいろなドラマがあるような様子を想起します。そんな春の息吹に一人気づき、ひとつひとつの気づきが皆に訪れるようになると、もうはじけるような輝きの春が始まっているのでしょう。

Z. フィビヒ/「山々から」 Op.29 Hud.290
 1887年の作曲(フィビヒ36歳)。各曲のはじめにJ.ヴルフリツキーによる山々の教訓や情景、しばしば賛美ともいえる内容の詩が掲げられています。フィビヒはアルプスの山々が好きで、しばしば休暇を過ごしに向かっています。
 さて、この「山々から」は組曲というにはやや特異な構成をしており、

第1部 「修道院の夜」Andante placido 3/4拍子、ニ長調
第2部
 第1曲「アルプスの旅」 Con fuoco 3/4拍子、変ロ短調
 第2曲「アルプスの旅」 Poco lento 3/4拍子、イ長調
 第3曲「ノットゥルノ(夜想曲)」 Semplice 3/4拍子、ロ短調
 第4曲「アルプスの旅」 Molto allegro e precipitato 3/4拍子、ニ短調
 第5曲「アルプスの旅」 Allegro ma poco maestoso 3/4拍子、ト短調
 第6曲「アルプスの旅」 Tranquillo 3/4拍子、変ロ長調

 以上から成っています(「」内は引用されたヴルフリツキーの詩の収録された詩集のタイトル)。第2部はすべてattaccaで一続きに奏されますが、すべて3/4拍子で書かれていることと、ワルツというには民俗的ともいえるフレーズ感は、ややレントラー的にも感じさせます。
 私は各曲の詩の内容を把握はしているものの、問題なく訳出できるほどのチェコ語力はなく、残念ながら詩の全訳を今回ここに無責任に掲載することはできません。しかし、アルプスの鷲、雪の中の幻想的な夜明け、高山の美しい花々、渓流や星空などにひとつひとつ意識を留めながらゆっくりゆっくりと歩みを進めていくフィビヒの姿が目に浮かぶような曲集です。
 (ちなみに私のイメージでは、アルプスの旅の先達にいいことも注意すべきところも訓示を受けている第1部、実際山の過酷な天候に直面する第2部第1曲、その後信じられないほど美しく様々な様相を見せる自然に出会う第2曲、雪の中の幻想的な夜明けの第3曲、アルプスの風景からイメージの洪水に襲われる作曲家フィビヒの第4曲、そのイメージの洪水と山の過酷さがさらに力強さを増して、受け止められないほどになり、偉大な自然の前に自身の小ささを思う第5曲、でもやっぱりアルプスの山々が大好き、美しい自然の素晴らしさを感じながら穏やかに歩みを進める第6曲、みたいなイメージをして弾いています。曲の規模の小ささがよりドラマを自分事に迫らせ、想像が容易になる気がします。お聴きの皆様にも自由にイメージを膨らませてみてほしいです。)

W. ステンハンマル/ピアノソナタ ト短調
 ヴィルヘルム・ステンハンマルは1871年スウェーデン生まれの作曲家です。このソナタは1890年作曲、まだ20歳前のステンハンマル自身の手により初演されています。始まりから終わりまで、調性、構成や各部のテクスチャに至るまで、シューマンのピアノソナタ第2番の影響を色濃く受けた作品であると言えます。シューマン的「疾風怒濤」、加えて若書きの情熱的な勢いもあるかもしれません。しかし第2楽章に見られるある種黄昏的な息の長いメロディと和声感はまさにステンハンマルの持ち味そのもの、この旋律と和声を歌えることに幸せを感じてしまいます。第3楽章のスケルツォの中間部のトリオはショパンのソナタ第3番の第2楽章を想起します。ステンハンマルにそんな意識があったかはわかりませんが、もともと音楽の専門教育に進む際にピアノを専門に選んだ彼は、恐らくシューマンのソナタもショパンのソナタも知っていたことでしょう。作曲者自身はこのソナタの出版を許さなかったといいますが、何に影響されていようがなかろうが、この劇的・激的なソナタは今日なお聴衆を揺さぶります。高緯度地方特有の気候の極端さ、エネルギーを与えてもくれるけれど奪ってもいく日差し、そこで醸成される性格、感情…怖いほどのコントラストが心に直接アタックしてきます。若き日のステンハンマルの音楽をどうぞお楽しみください。私考えうる様々なピアノのテクニックの中でトレモロが一番苦手なんですけど今回すごい頑張りました。
 第1楽章 Allegro vivace e passionato
 第2楽章 Romanza. Andante quasi adagio
 第3楽章 Scherzo. Allegro molto
 第4楽章 Rondo. Allegrissimo

W. ステンハンマル/「晩夏の夜」 Op.33
 ステンハンマルの書いた最後のピアノ独奏曲「晩夏の夜」は1914年の作曲です。今回アンコールとの兼ね合いでプログラムの最後に置くことになりました。
 「晩夏の夜」は、今日5曲から成る組曲として出版されていますが、既発の録音の中には第7曲まで収録されているものもあります。2021年11月現在、第6曲はスウェーデンの他の作曲家の作品も収録した選集の楽譜に収録されているのが確認できていますが、なぜ第1~5番と一緒に収録しないかはよくわかりませんし、手稿が存在するとされている第7曲の印刷譜は存在しません。今回この第6曲が収録されているオムニバス譜の存在を収録がかなり迫った時期に確認、スウェーデンの出版社から購入し、今回視奏で収録しアンコールとさせていただくことにしました。(個人的な感想ですが、第5曲までと第6曲では随分とノリが違う気がしました。第1~5曲までをまとめている、ある種共通するしがらみのようなものが第6曲からは感じられないというか…。恐らくですが一緒に収録されないのは何らか作曲家の意思がはたらいてのことなのでしょう。)
 私もモスクワで4年以上暮らし、夏のサンクトペテルブルクにも行ったことがあるのですが、高緯度地方で夏季夜が完全に暮れない時期、いわゆる「白夜」は言葉のイメージほどいいものではない…と思います。最初のうちはいいんですけど(遅くまで明るいと単純に便利なことも多いし、すごく暑いわけではないので屋外でお酒飲んだりするの楽しい)、続くとなんかそのうちすっごいだるくなってきます。明るい時間が長いので身体のテンションが追い付かなくなってくる。ただ元気な人もいてうるさくてつらい。あと草木とかも夏だからめっちゃ元気だし変な虫は飛んでるしなんていうかもうほんといろいろだるい。…と、私が感じていることを前提に以降をお読みください。
 私はそれぞれ、もう夏疲れの第1曲 Tranquillo e soave、そんな時期でも自然は力強い第2曲 Poco presto、本来夜に働いている人が白昼夢状態で過ごすカゲロウのような夏の昼第3曲 Piano, Non troppo lento、夏のエネルギーにあふれる大自然の動物たちの戦い第4曲 Presto agitato、夏の田舎の葬礼第5曲 Poco allegretto、というイメージでいます。アンコールにした第6曲 Allegretto graziosoはなんだろう、「花」かしら。
 なお、長い昼の夏があるということはほとんどを雲と夜に閉ざされる冬も来るということです。これもこれでなかなかつらい。モスクワは9時ごろから明るくなって16時には暗くなる感じだったかな、多分ストックホルムも似たようなものだろう。この気候のコントラストは様々な面で影響していると思います。そんなところにも是非思いを馳せてみて下さい。

参考文献・ウェブサイト

・Vladimír Hudec. - Zdeněk Fibich. Tematický katalog (Editio Bärenreiter Praha, 2001)
・ステーンハンマル 即興曲、3つの幻想曲 作品11、晩夏の夜 作品33 解説/斉諧生 (株式会社プリズム, 2009)
IMSLP
ズデニェク・フィビヒ図書館

謝辞

 今これを書いている時点で収録は終わっており、allstars.jp(←うちの屋号)の素晴らしいディレクター様が作業中です。まずはスタッフ皆さん本当にいつもご迷惑おかけしています、ありがとうございます、見捨てないで。
 レジデントとしてお世話になっているスタジオピオティータさん、そしてスタジオのかわいいピアノさん。多分だけどフィビヒ収録はこの楽器がベストマッチだったと思います。ピアノさん、今年は本当にお世話になりました。
 いつもいつも自分のタイミングでめちゃくちゃ質問しても丁寧に答えてくださるズデニェク・フィビヒ図書館の堀内様には本当に感謝しています。いつも失礼ばかりで本当にごめんなさい。。。でも私もお話ができるくらいお勉強積んできたかな?って最近は思ってます。
 チェコ国立図書館のご担当様、春および他の絶版譜に関する調査へのご協力に心より感謝しています。Thanks to the Czech national library, for reference to missing scores of Z. Fibich.
 そしていつも応援してくださる視聴者の皆様、ありがとうございます。マリエンバード音楽教室の教室生の皆さん、いつも元気をくれてありがとう。特に土曜の皆さんはレッスン休みにしてごめんなさい。多くの教室生さんがご視聴下さるそうで感謝しています。何か気に入った曲があったら教えてね。
 4歳になった息子と、親が両方とも仕事の時に息子を見て下さるシッターさん。めちゃめちゃ助かってます、ありがとうございます。息子も少しずつピアノ弾き始めてます。

 今度は皆様とライブでお会いできることを願っています。その日まで、どうぞお元気でお過ごしください!

(以上、文:加瀬茉理枝)

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ピアニスト、ロシア語通訳に加え2021年2月から「ピアノの先生」という肩書が追加!さいたま北浦和「マリエンバード音楽教室」主宰。 日々ミスター・不屈の魂の3歳児と格闘中。年中野球ばっかり見てる燕党。教室web→ https://allstars.jp/