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ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第121わ「戦術的勝利」

(承前)

相棒に抱えられた俺が降り立ったのは、いつもの雑居ビルの屋上であった。❝いつもの場所❞だと理解するのに時間がかかってしまった。ここに来るのは、いつも日付が変わる真夜中のことであったから。

「はい、到着です!それにしてもダンナの手腕には驚かされるばかりです。まさか❝ゲーム❞とは関わりのないところで私に冷や汗をかかせるとは!家畜の分際で!ニンゲン風情が!」

吸血鬼の貴族様にお褒め頂き光栄だね。それはそれとして俺を簀巻きから解放しろ。そろそろ自分の両足で立たせてくれ。

「いえいえ、ダンナには❝ご褒美❞をあげなくては。……右目が痛かったでしょう?よく我慢しましたね。すぐに新しい目玉を入れてあげますから」

言われてみれば右目が痛い。それにしても万年筆を刺して「痛い」で済むのだから、吸血鬼の眼球の強靭さが伺えるというものだ。相棒が手を翳すと何の苦痛も無く眼窩から右目が排出された。ほんの短い間、俺の右目だった生物は刺すように恨みがましい視線を俺に向けながら、青い炎となって四散した。

「はい、どうですか?新しい右目は、よく見えますか?」

無重力、或いは上昇と落下によって脳を揺さぶられるような軽く心地よい眩暈と伴って、新しい右目は俺の頭蓋に素早く馴染んでくれたようだ。忌むべき異物が体に馴染むというのは冷静に考えれば恐るべき事態ではある。しかし、まだまだ先は長いのだ。命の奪い合いが続く以上は片目でいるより両目でいられる方が幾らかマシな筈だ、と強いて自分に言い聞かせる。幸か不幸か、吸血鬼の眼球は自前のソレに比べて高性能だ。

「はい、いいですか。それでは反対側も行きますね」

いや、俺の左目は無傷だ。つまり何の処置も必要ない。四肢を封じられたまま全力で暴れようとするが、相棒の四本腕によって身体が完全に固定されている。

「なぜ先に右目を治して差し上げたか、わかります?……左目を失うところをしかと見届けて欲しいからですよ」

(続く)

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