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ハントマン・ヴァーサス・マンハント

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逆噴射小説大賞に応募にしたパルプ小説と、その続きを思いつくまま書き殴っています。ヘッダー画像もそのうち自前で何とかしたいのですが予定は未定のままであります。
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2020年5月の記事一覧

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第140わ「緑の牧場に、憩いの湖に」

(承前) 俺は二匹の怪物に睨まれたまま身動きがとれずにいる。人間とハントマンの組み合わせとは何かが違う。外見、所作、身に纏う空気。こいつらは人間狩りだ。吸血鬼の貴族たるハントマンに対して、吸血鬼の庶民、マンハント。 「見た目はともかく味は良さそうです」 「横取りされる前に頂いてしまいましょう」 ハントマンにもピンからキリまであるように、マンハントにも同じことが言えるらしい。人語を解さず、武器を扱う知能も無いまま人間に襲い掛かる人間狩りの群れしか見たことの無い俺にとって

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第139わ「新しい友だち、新しい地獄」

(承前) どうやらセーフハウスとやらに到着したらしい。問題は今の声だ。どう考えても初めて聞く声だった。少なくとも吸血女の声ではない。 「着きましたよ。開けてください。開けなさい」 またも違う声だ。棺の蓋を強く激しく叩いている。外はどうなっている?この声の主は何者だ?敵の吸血鬼か?俺の吸血女は俺を置き去りにして敗死したのか?だとすれば、このまま籠城したところで俺の死期は数分と変わるまい。しかし偽物に騙されて食い物にされた挙句に死ぬというのは面白くない。俺を殺したければ自分

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第138わ「回想」

(承前) 全身がシュレッダーにかけられているような苦痛。俺の肉は千切れて、骨は砕けて、何の配慮も無いまま棺桶に詰められて吸血女に運ばれているのだから無理も無かった。苦しいときは、もっと苦しかったときのことを思い出して耐えるに限る。意識を過去に飛ばす。予防接種。歯医者。こんなものじゃない。灼熱の運動会。晒し者の文化祭。そこまで遡ったあたりで確信が生まれる。俺は今、人生における最大の苦痛と戦っている。……これが最大のものであってほしい。そう願うより他ない。違うことを考えよう。両

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第137わ「回帰」

(承前) しょんぼりしながら吸血女は粛々と俺の外套を剥がし始めた。この時点で既に体の節々がシクシクと痛みが走っている。問題はここからだ。 「本当にいいんですか?急いで移動するので相当に揺れると思いますけど。死ぬほど痛いのに死にたくなっても死ねないんですよ?きっと後悔すると思いますよ。途中で止まったり出来ませんからね?」 会話には応じない。待ち受ける苦痛も恐ろしいが、未来の後悔よりも今の決意が鈍ってしまうことの方が怖かった。 「では、こうしましょう。耐えられなくなったら

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第136わ「取り引き、駆け引き、奈落への道」

(承前) 「ダンナが私をお腹いっぱいにしてくださるなら、ここ数日の不調も何のその、実力以上の力を発揮してあっという間に目的地です。そうすれば❝魔王の翼❞も暫くはダンナに預けたままでも構いません。剥がされたくないでしょ?そのマント。私の心配は要りませんよ。道中で襲撃者に出くわそうが一瞬で返り討ちです。更に更に!ちゅーっと麻酔を体に入れて差し上げますので今の全身の痛みともバイバイです!」 わかった。お前のものは、お前に返す。 「あの、四百ミリリットルも欲しいなんて言いません