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ハントマン・ヴァーサス・マンハント

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逆噴射小説大賞に応募にしたパルプ小説と、その続きを思いつくまま書き殴っています。ヘッダー画像もそのうち自前で何とかしたいのですが予定は未定のままであります。
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2020年4月の記事一覧

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第135わ「FRAGILE」

(承前) 「それから更に一つ、残念なお知らせが」 吸血女が俺の体に手を伸ばす。俺の拘束に使用している❝魔王の翼❞を剥ぎ取ろうとしているのだ。この外套の堅牢性、そして快適さを身をもって知っている俺は何としてでも抗おうとする。 「あのですね。この棺を抱えてヤサ……じゃなくてセーフハウスに移動しなくちゃいけないんです。敵の襲撃、あるいは遭遇戦の発生も十分に考えられます。……というか、誰かに見られたら必ず仕留めないといけないんです」 それがどうした。今の俺は割れた茶碗だ。テー

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第134わ「その胸、その腕、その勇気」

(承前) 夢でも見ていたのだろうか。身動ぎをするだけで全身に激痛が走るというのに、気付いた時には既に棺の中で吸血女の隣に身体を横たえていた。 「あれ?もう麻酔が切れましたか。無理しないで休んでいてください。全身が折れて捻じれて、とんでもないことになってますので。棺の中で何日か大人しくしていれば全快すると思いますが……」 全身が❝魔王の翼❞で拘束されている。意識は半ば朦朧として、恐怖も苦痛も焦りも感じられない。考えるべきことは多いのだが、集中力が持続しない。 「思います

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第133わ「短いお別れ」

(承前) ……太陽が昇る時間だ。涼しい顔の吸血女と、明らかに顔色の悪い我が妹。 「兄さん、ごめん。学校があるから、みんなが起きる前に寮に帰らなきゃ」 「チッ。もうギブアップですか?太陽に焼かれて悶死する同胞を数十年ぶりに見られると思ったのですが……」 「すぐに兄さんを迎えに来ますから。……少しだけ待っていてくださいね」 それだけ言い残すと、矢も楯もたまらず妹はビルの屋上から飛び降りた。高所からの落下を恐れない身体能力。日光を嫌う習性。……それは、つまり。 「尻尾を

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第132わ「二人の不協和音」

(承前) 指摘されて思い出す。全身あちこち痛いせいで忘れていたが、今の俺は片目の男だった。家に帰ったら眼帯の手配をしないといけないだろう。妹と一緒に、俺に似合う眼帯を探そう。 「……ふふ。うふふ、はは。兄さんってば」 妹も楽しそうに笑っている。こんなに楽しそうに笑っている妹は初めて見たような気がする。そこで何かが妙だと気付いた。妹の着ている制服だ。こんな時間に制服を着ているのはおかしい。違う。そもそも妹が学校の敷地を抜け出して出歩いていること自体がおかしい。それに、それ

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第131わ「さらば、愛しきひと」

(承前) 何と甘美な響きだろう。妹と、家に、帰る。消えた両親のことを妹に説明せねばならないのは頭の痛い問題だが、そんな悩みは瞬きする間もなく消え失せた。全寮制の女子校に通っている妹と最後に会えたのは夏休みの、ほんの数日間のことだった。あれから二か月。妹は更に美しくなった。じっと見ていると、吸血女が現在進行形で一秒ごとに俺のアバラを一本ずつへし折っているのも気にならないぐらいの美しさ。この間わずか十秒。 「チッ。何本目で正気に戻るかと思ったのですが……こいつは重症ですね」

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第130わ「ξ(クスィー)」

(承前) ……俺の最も戦いたくない敵?それも、俺がよく知る者?話が見えない。吸血鬼どもの❝ゲーム❞で矢面に立つのは畢竟、吸血鬼の筈だが。 「……兄さん?」 懐かしい声が聞こえた。読み方の分からないギリシャ文字めいて俺の身体が捻じ曲げられているのも忘れて思わず飛び上がりそうになって、それは果たせず無様に地面を転がることになった。その声、その喋り方。吸血鬼どもが初回サービスとやらで一朝一夕に再現できるものではあるまい。 「やっぱり、兄さん!すごい体勢で転がっているけど、会

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第129わ「リトル・シスター」

(承前) 吸血女の❝下の口❞はカスタネットめいてリズミカルに歯を鳴らしている。既に悲鳴をあげている四肢を叱咤して拘束から逃れようとするも、その結果と言えば人間の無力さを再認識されられるだけである。 「はいはい、それでは中に入りましょうね。大丈夫、食べたりなんてしませんよ。ダンナが死んだら私も一蓮托生なのは知っているでしょう?」 一瞬ごとに左の眼窩から灼熱の痛痒が引いていく。冷静さが回復すると同時に、人間の限界を超えた筋力も失われていくのが嫌というほど理解できる。 「た

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第65535わ「永遠の黄昏」

(承前) ……そして遂に、人類が夜の種族を相手に組織的な抵抗を続けていた時代にも終焉が訪れます。その日、民衆を率いて反乱軍を指揮していたイズワルド伯爵は、保身に走ったカール公爵の裏切りによって最後の時を迎えようとしていました。いえ、元よりカール公爵は我々に通じていたのです。いわゆるズブズブの関係でした。ふふ、ズボズボ。……ええ、話を戻しますね。イズワルド伯爵の首級を携えた使者が反乱軍のアジトを訪れたのは、太陽暦で言うところの四月一日のことだったと伝わっています。その知らせは