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ハントマン・ヴァーサス・マンハント

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逆噴射小説大賞に応募にしたパルプ小説と、その続きを思いつくまま書き殴っています。ヘッダー画像もそのうち自前で何とかしたいのですが予定は未定のままであります。
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2020年1月の記事一覧

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第122わ「実力を行使せんとす」

(承前) 万事休す。眼球摘出、待ったなし。それにしても不思議だ。さっきまでは尊厳の為に死を選ぼうとしていた、この俺が片目を抉り取られるだけでパニック寸前にまで追い込まれるとは。 「今から移植する新しい左目には素晴らしい特典が付いてますよ!まず、私の姿が視界に入る度に快楽中枢が刺激されるようなります!」 刺激されると、どうなる? 「少しだけ気分が良くなります」 それだけ? 「そうそう、それだけです。それが何百回も繰り返されればダンナ中で私の存在は絶対的なものになりま

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第121わ「戦術的勝利」

(承前) 相棒に抱えられた俺が降り立ったのは、いつもの雑居ビルの屋上であった。❝いつもの場所❞だと理解するのに時間がかかってしまった。ここに来るのは、いつも日付が変わる真夜中のことであったから。 「はい、到着です!それにしてもダンナの手腕には驚かされるばかりです。まさか❝ゲーム❞とは関わりのないところで私に冷や汗をかかせるとは!家畜の分際で!ニンゲン風情が!」 吸血鬼の貴族様にお褒め頂き光栄だね。それはそれとして俺を簀巻きから解放しろ。そろそろ自分の両足で立たせてくれ。

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第120わ「自由意志」

(承前) 「ダンナ、騙されちゃいけませんよ。ゲームマスターは信頼できる、姿を見ていると安心する、彼女は自分の理解者だ……なんて思っているとしたら間違いなく彼女の能力によるものだと思っていいでしょう」 完全に相棒に指摘された通りだった。横目でゲームマスターを見ていると、ほんの一瞬だったが、明らかに動揺していた。正鵠か。 「それがどうしたね?彼が粗暴な君に愛想を尽かして、私を頼って教会を訪れたのは事実だろう!」 「ホラ!見てくださいよダンナ!目の前にエサがあるのに邪魔が入

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第119わ「審判の日」

(承前) 「一部始終は聞かせてもらったよ。そこなニンゲンは『自分が自分であるうちに死ぬこと』と『パートナーの助命』を願いに来た、ということかな」 さすが❝四ツ星❞は話が早い。そういうことだから俺の気が変わらないうちにササッと手早く済ませてくれ。 「君のようなパートナー想いのニンゲンは滅多にいるものじゃない。ハントマンとして長生きしている私が言うんだから間違いない、信じてくれていい。辛いことがあっても自分に出来る最善を尽くそうとする……。なんて献身的なんだ。これこそハント

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第118わ「茶番」

(承前) 納得は出来ないが状況は理解できた。つまり、相棒は投身自殺を図る女性の役を演じ、俺はその場に居合わせた青年の役を演じなければいけないのだ。よし、まずは自殺を止める為には其処に至る経緯を聞きださねばなるまい。 「え?」 人間は理由も無いのに自分で自分の命を絶とうとは思わないんだよ。お前ら吸血鬼は違うのかもしれないけどさ。まず目の前の相手の苦しみを理解できなきゃ説得なんか出来る筈もないだろうに。 「ええと、そうですね。失恋しました。悲しくて辛いので死にます」 相

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第117わ「練習は本番のように」

(承前) 「ちょっと待って。落ち着いてください。いいですか?ぶっつけ本番で、それもゲームマスターを相手に十代そこそこのニンゲン幼体、しかも貝殻野郎のダンナが交渉を持ちかけるって?死にに行くようなものです!」 だから死にたいって言っているだろう。お前と心中することに関しては嫌なんだけど、本当に嫌だし心の底から嫌なのだけれど最悪の場合は止むを得まい。それよりも❝インセンス❞で自分が自分でなくなることの方が辛い。俺が俺でなくなる、それは死よりも厭わしいことだ。それから貝殻野郎と

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第116わ「生き方も、死に方も」

(承前) 家を飛び出した俺が向かうのは近所の教会だった。神の家に逃げたところで吸血鬼の魔の手から逃れられるわけではないことは身に沁みて理解しているつもりだった。その建物は既に上位吸血鬼の寝床になっているのだから。 「ダンナ!まだ外は危のうございますよ!早くお家にお戻りください!」 しばらく経つと相棒の声が背後から聞こえた。右目の視界が共有されなくなったのか、俺の居場所を把握するのに手間取っているようだ。今のうちに少しでも距離を稼がねばなるまい。問題は教会に入った後だ。本

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第115わ「今までも、これからも」

(承前) ……究極の選択。理性、本能、記憶のどれか一つを手放せと相棒は俺に言う。 「ささ、どれか一つを選んでください。ちなみに全部イヤだなんておっしゃるなら、本当に何もかも失うことになりますからね」 万事休す。否、この❝ゲーム❞に巻き込まれた時点で俺は既に終わっていたのだ。否、否、吸血鬼どもの上層部どもの采配によって、それとは知らずにツガイになった男女の間に生まれた時点で俺の破滅は定められていたと言っても過言ではない。俺は生贄になるべくして生まれた家畜だったのだから。悔

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第114わ「選ぶべき道は」

(承前) ❝インセンス❞はパートナーに対する切り札らしい。確かに❝ゲーム❞が進行すれば強力な銃火器を手にするプレイヤーも続出するだろう。吸血鬼でも戦力としての人間を無視できなくなるということか。 「そういうことではないです。パートナーと言うのは敵性ハントマンのパートナーのことではありません。私にとってのダンナのことですとも」 また相棒が要領の得ないことを言い出した。仮に俺が幼児退行したり発狂したり、もしくは判断力を麻痺させたりして、何か相棒にメリットがあるのだろうか?…