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ハントマン・ヴァーサス・マンハント

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逆噴射小説大賞に応募にしたパルプ小説と、その続きを思いつくまま書き殴っています。ヘッダー画像もそのうち自前で何とかしたいのですが予定は未定のままであります。
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2019年11月の記事一覧

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第111わ「待ち構える者」

(承前) それよりも我々は本当に戦いに勝ったと思っていいのか?氷漬けになった敵が復活する危険性は無いのか?一刻も早くトドメを刺した方がいいのでは?そう思ったときである。何処からともなくファンファーレが鳴り響き、景気よく紙吹雪が吹き荒れたのは。 「気を強く持ってください。今から恐ろしいことが起きるので」 何が、とは言葉にならなかった。氷漬けになった襤褸切れの魔女が、見えざる何者かの手によって一秒ごとにシャリ、シャリ、シャリと抉られているからだ。 「ごちそうさま。……おい

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第110わ「チは❝地に満ちよ❞のチ」

(承前) 魔女の氷像は死んだように動かない。何も語らない。……自分が何故こんな場所にいるのか?こいつらのは正体は何なのか?どうして戦っているのか?自分は何故パンツ一丁で戦っていたのか?分からないことばかりだったが、少なくとも急場は凌いだと思っていいのだろうか。 「ダンナ!お怪我はありませんか!?いくらなんでもニンゲンがハントマンと格闘するなんて無茶苦茶ですよ……!」 見るからに寒そうな青い宝石を先端に付けた恐ろしい杖……現在進行形で肌を刺す冷気を周囲にまき散らしている…

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第109わ「チは❝チルド室❞のチ」

(承前) 僕の脳が海綿みたいとは随分な言い種じゃないか。文句の一つでも言ってやろうと思ったが、両手が塞がった相手を一方的に殴りつける方が楽しいので断念した。 「舐めるな!お前の相棒は既に死に体なんだ!お前らの相手なんか片手ずつで十分なんだよ!!」 襤褸切れの魔女は巨大な杭を片手で抑えて、片手で僕の腕を掴んで抵抗する。しかし僕の左腕は自由なままだ。ここで切り札、半裸になっても肌身離さず持っていた銀色に輝く拳銃を取り出した。銃の扱い方は分からないので、銃身を掴んでグリップで

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第108わ「チは畜生のチ」

(承前) 「何が未来だ!アンタも、アンタの赤ん坊も、今夜ここで死ぬんだからね!!このまま膠着状態が続けばアタシの判定勝ちは決まりさ!!!!」 状況は芳しくないようだ。いつまでも赤子のままでいたかったが仕方がない。立ち上がる時が来た。静かに、ゆっくり、気配を殺して襤褸切れの魔女に接近する。怪物同士の力比べに全身全霊を傾けているせいか、僕が立ち上がったことにすら気付いている様子はない。チャンス到来。 「感じるだろ!?敗者の命を収穫に来た、あの方の気ぐぶべごぁッ!?」 さっ

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第107わ「チは致命傷のチ」

(承前) 「何が『全てを捨てた』ですか?ただ能力値を❝白木武器❞の扱いに一点特化させただけでしょう!何百年前の流行だと思ってるんですか!?」 「だから古株ほど対策を怠っているとアタシは踏んだのさ!事実、アンタは今こうやって格下のアタシを相手に手こずっているじゃないか!?」 「ちッ!」 依然として白い背中は俺を守りながらの戦いを強いられている。互いに両腕が塞がっている状況だ。互いに手詰まりか?しかし白い背中の衰弱ぶりは凄まじいの一語に尽きる。力比べは不利と見たか、足技の

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第106わ「チは血祭りのチ」

(承前) 襤褸切れの魔女が巨大な丸太を構えている。その先端は鋭い。大の大人が数人がかりで構えて城塞を攻撃するのに使うような巨大な杭だ。 「……その武器は!」 「そうさ!こいつは白木の破城槌!マンハントなら掠っただけでも死ぬけどアンタはどうかな!?」 白い背中が動揺したのは一瞬のことだった。その一瞬を好機と見たか、杭を抱えた魔女が突撃を敢行する。まずい。立たないと。立って逃げないと。 「……何のこれしき!!」 「受けて立ったか!そうだろうね!この杭を動いて躱すのは簡

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第105わ「戦端」

(承前) 「見てたよ。そこなニンゲンが、いきなり服を脱ぎだすのは!傑作だ!」 その声は恐ろしかった。声の持ち主の容貌も恐ろしかった。稲妻と竜巻を伴って、襤褸切れを纏った乱れ髪の女が虚空から現れたのだ。その頭には何らかの大型動物(きっと恐竜だ)の頭蓋骨を被っていた。 「なるほど。ダンナの異常行動は、あなたの仕業でしたか」 「ヒヒッ!折角の❝インセンス❞を使わないのは勿体ないだろう?もっと酷い仲間割れを見せてくれるかと思っていたけど、❝魔王の翼❞を剥ぎ取れたなら十分さね。

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第104わ「真夜中に訪れる者は」

(承前) 相棒のマントに包まれて地面に横たわる。俺は幸せだった。少しも寒くはなかった。全ての不安が消え失せて、幼少期の記憶が呼び覚まされてゆく。物心がつくまでの記憶さえ思い出せそうだった。次第に自分が何の為にここに来たのか、何もかもどうでもよくなりつつあった。たった今、そうなった。 「よしよし、そのまま良い子にしていてくださいね。……いよいよ敵のハントマンが接近中です。サクッと片付けて来ますから」 ハントマン。その言葉、ずっと昔に聞いたことがあるような気がする。恐怖と苦

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第103わ「罪も罰も越えて」

(承前) 実力では敵わず、倫理面に於いても人類は吸血鬼の所業を非難できる立場には無かったと思い知る。我々は同じことをやっているからだ。しかし人間は間違いを正すことが出来る生き物だ。今この瞬間より、清く正しく生きればいいのだ。 「ギャーッ!何ですか!?急に服を脱ぎだしてどういうつもりですか!?」 決まっている。俺は今から不必要な殺生はしないし、生き物の命を奪ってまで暖かさを求める人類とも吸血鬼とも一線を引く為に全裸となるのだ。 「もうすぐ日付が変わって戦闘に突入するんで

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第102わ「個人/群体」

(承前) 生きる為に人間を殺して血を啜るだけならば、納得は出来ないが理解は出来る。いくらなんでも暖を取る為に人間を殺して血を浴びるというのは……と言いかけて思いとどまった。相棒の反論が来ることが火を見るよりも明らかだからだ。人間も動物の毛皮を羽織る。更に歴史を遡れば動物の油を灯火用の燃料にしていた。蝋燭の材料にしていた。我々も他者の命で暖を取っていたのだ。 「あの、もしもし?どうしちゃったんですか?ニンゲンを食べ物にも慰み者にもする邪悪な怪物が目の前にいるんですけど?こう