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ハントマン・ヴァーサス・マンハント

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逆噴射小説大賞に応募にしたパルプ小説と、その続きを思いつくまま書き殴っています。ヘッダー画像もそのうち自前で何とかしたいのですが予定は未定のままであります。
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2019年7月の記事一覧

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第94わ「ここには空白を入れるものとする」

(承前) そして俺は一人で家に残された。❝ゲーム❞が始まるまでの数時間、久しぶりに一人だけの時間が戻って来た。それでも俺にプライバシーなどは無い。今この瞬間にも❝ゲーム❞に参加していないハントマンどもは、俺や他の参加者の暮らしぶりを高みの見物と決め込んでいる。……そうだろう、画面の前のみんな?何処にあるのか分からないカメラを意識して、喜劇役者を気取ってわざとらしく肩をすくめてみたりする。戦いが始まる前に風呂に入って体を綺麗にしておこうと思った瞬間、恐ろしいリスクに思い至った

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第93わ「気炎万丈/才気煥発」

(承前) 「嗚呼!こうしてはいられません!早く同胞の血を浴びたい!あわよくばニンゲンの血を啜りたい!!」 相棒がブリッジの態勢で叫びながら部屋を這い回っている。大声は近所迷惑だからやめろ。俺はともかく両親は出張で家を空けている設定だろうが。怪しまれたらどうする。やめろ!俺にスープレックスをかけようとするな! 「そうは言っても、今の私は誰かの血を見るまでは収まりがつきそうにありません……!」 息を荒くした相棒に背後から抱きすくめられている。率直に言って❝ゲーム❞が始まっ

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第92わ「駆り立てる者」

(承前) 俺が相棒の足を引っ張るだって?返す言葉も無い。俺は普通の高校生で、特別な能力なんて何も無くて、怪物との戦いに際してのノウハウも無い。しかし主体的に戦う役目を担うハントマンとやらが戦意を喪失しているようでは……。 「ひっく、ひっく……。くっ。くくく……」 相棒の様子がおかしい。肩の震えが激しくなっている。体育座りのまま横に転がると、自由な方の片腕で床をばしばしと叩き始めた。泣いた吸血鬼が、もう嗤っている。 「ふっ、くくっ。脱落したハントマンが死ぬということは…

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第91わ「長い前置き」

(承前) これで俺も死ぬときは一人じゃなくなる?……くだらない。死んだ後には何もあるまい。つまりゼロだ。だから何があっても生き残らなきゃ嘘だ。 「勇ましいプレイヤーは大歓迎さ。頑張って❝ゲーム❞を盛り上げてほしい。もっとも……今回はハントマンの皆も死に物狂いだからね」 そして俺の相棒は勇ましくも死に物狂いにもなれずに体育座りで泣き続けている。そろそろ立ち直れよ。吸血鬼の貴族なんだろ?と言いかけて、思いとどまった。その貴族が家畜と見下す人間と同じ立場……負ければ死ぬ……に

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第90わ「魔王(エルケーニヒ)」

(承前) ハントマンを喰うハントマンは消え失せた。俺も相棒も五体満足だ。これにて戦闘終了、いや強制イベントは終了といったところだろう。だが。 「……」 相棒は膝を抱えて震えて座り込んだままだ。おい、嵐は過ぎ去ったぞ……と言いたいところだが、未だに事態は収束していないらしい。 「見えないんですか、貴方には」 相棒が指し示す方向に目を凝らす。俺には何も見えない。左目を閉じて右目に意識を集中する。俺の新しい右目が……虚空に浮かぶ……眼球を捕捉する。……何だ、こいつ? 「

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第89わ「アンバランス」

(承前) ハントマンを食べるハントマンをどうにかして追い払わねばならない。最上位ハントマンの前では人間である俺など、料理にたかるハエのようなものだろう。そこに勝機がある。俺を潰したところで何も面白くはあるまいて。 ……きみ、そいつからはなれろ。 わたしはそやつをたべる。 いますぐにでもたべたいのだ。 どっこい離さぬ。相棒を死なせれば俺は❝ゲーム❞の敗者、即ち死が待つばかりである。その状態で後に残されるのは辛い。どうせ死ぬなら先に死にたい。……俺が死んだところで相棒には次

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第88わ「只人」

(承前) そうか。トラブルは既に解決していたか。私の出る幕は無かったな。 怪物を食う怪物、理不尽な捕食者が瞬く間に姿と声を変じていた。相棒にそっくりだ。……本当に見分ける術が無いぐらいに。怯える相棒に近寄ると肩を掴んで無理矢理に立ち上がらせた。……何だ?何をする気だ? よく育って美味そうなハントマンだな。 こいつは君を守る為に私を呼んだワケだが。 当然、私に喰われる覚悟は出来ていた筈。そうだな? 相棒は震えながら何度も頷いている。否、そう振る舞うことを強制されているだ

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第87わ「規格の外側」

(承前) 恐怖のあまりに座り込んだ相棒が啜り泣いている。その様子を見て不覚にも使命感が湧いてきた。つまり独力で、この難局を打開せねばならないということである。意を決して背後で膨らみ続ける存在感に向き直る。 よんだのはきみ? 異形。他に言葉が見つからない。一見すると二足歩行。俺と同じ身長。俺と似たような服。その顔は餃子の皮のような肌質。干し葡萄のような双眸。ぞんざいに穿たれた不揃いな鼻の穴。質量を持った暗黒が内部で渦巻いているのが窺える。もしかして俺の姿を真似しているつも