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ハントマン・ヴァーサス・マンハント

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逆噴射小説大賞に応募にしたパルプ小説と、その続きを思いつくまま書き殴っています。ヘッダー画像もそのうち自前で何とかしたいのですが予定は未定のままであります。
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2019年6月の記事一覧

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第86わ「永遠の日蝕」

(承前) 「❝四ツ星❞の上には❝五ツ星❞の方々がおられます。と言っても、私のような❝三ツ星❞の立場ではお顔とお名前が一致するのは、ただ一人ですが……」 そうか。さっき相棒が口にした言葉は、更なる高位ハントマンの名前だったということか。何だか発音するのに難儀しそうな名前だったが。 「ギャーッ!!ダメ!!その名をみだりに口にしてはいけません!!」 相棒が酷い顔と声で制止するので思わず飛び上がってしまった。 「❝五ツ星❞の方々はまさしく頂点に君臨するハントマン!貴族ならぬ

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第85わ「結審」

(承前) 相棒が俺の前に躍り出て、いつかのように鮮やかな飛び蹴りを披露してくれた。しかし❝三ツ星❞と❝四ツ星❞の間には埋められない実力差がある筈だが。 「!!」 ゲームマスターの反応が遅れた。というか、我に返ったように見えた。相棒は構わず空中キックからの着地そして四段、いや五段蹴りを繰り出すと何やら大声で叫び出した。……俺の知らない言語。表情の見えない表情。 「―――!いけない、私としたことが」 態勢を立て直したゲームマスターが服を叩いて埃を落とす。一触即発。このま

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第84わ「以心伝心」

(承前) 「銀の弾丸は喰われる側が喰う側に対抗する為の特別なアイテムさ。だから喰う側が運営する❝ゲーム❞の通貨とは交換させられない。欲しければ……」 仕方がない、潔く銀の弾丸は諦めよう。 「最後まで聞きたまえ」 ゲームマスターが悠然と距離を詰めて来た。一歩ごとに身体のあちこちが、ゆさゆさと揺れている。俺の相棒とは大違いだ。 「銀の弾丸が欲しければ、我々に対する貢献が必要だということさ。誰にも一度も血を吸わせていない今の君は、いわば未開封のワインボトルさ」 ゲームマ

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第83わ「代償」

(承前) 遂に、まともな銃火器を手に入れることが出来た。問題が二つある。一つ、それは自分だけの優位性ではないという点。二つ、既に手持ちの弾丸は全て使い切ってしまっているという点である。 「安心したまえ!本選が始まる前に、君の銀の弾丸を補充させてあげる!」 そう、❝ゲーム❞の戦果によって獲得したポイントを消費して次の戦闘を有利にする装備や消耗品を買えるのだが……銃火器と銀の弾丸だけは、目の前のゲームマスターが厳重に管理しているのである。さて、手持ちの点数で弾丸をどれだけ補

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第82わ「銀の射手」

(承前) 臆すれば付け込まれる。あるいは、それさえも相手の思惑通りかもしれないが。考えても仕方がない。……前進あるのみ。 「おお、勇気あるニンゲン!まさに勇者!それも、とびきり愚かな……いやいや、冗談だよ、冗談!君に渡したいものというのは……コレさ!!」 ゲームマスターが自分の全身を、あちこちまさぐっている。まるで尻ポケットに入れたはずの家の鍵を探すみたいに。訝しむ暇もあればこそ、彼女の右手には手品のように、あるいは悪夢のように、鈍色の輝きが唐突に出現する。銀玉鉄砲か。

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第81わ「恩寵」

(承前) 「二人で棺桶に入ったまま出てこないものだからハントマンとパートナーが絆を深めているのかと思ったけど……違ったみたいだね、つまらないな」 ゲームマスターは心底つまらなそうにぼやいている。 「四ツ星ハントマンが覗き屋の真似事ですか?ゲームマスターが❝ゲーム❞に介入するからには何らかの用件があって来たのでしょう?早く済ませてくださいな」 対照的に相棒のワンダは心底イライラしているように見える。余程ゲームマスターとソリが合わないらしい。二人は同期だと聞いていたのだが

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第80わ「おれたちの❝ゲーム❞」

(承前) 「分かりました。今後、ボスといえばダンナのことだと判断しますね。それにしてもボスって名前というか……いえ、いいでしょう。そして私の名前はワンダですか?時間をかけずに出した名前の割りには悪くない命名です。どこから引用されたんですか?」 ❝ゲーム❞が終わるまでに当ててみればいい。宿題にしておこう。さて、これで用事は済んだ。棺桶を這い出て外の空気を吸おう。シャワーを浴びて自分のベッドで寝よう。そう思った矢先のことである。 「やあ、二人とも。お楽しみは済んだかい?」

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第79わ「珈琲党(コーヒー・パーティ)」

(承前) 血の気が引く感覚。我が妹まで❝ゲーム❞に巻き込まれたら。俺の血液に価値がある以上、俺の親族に累が及ぶのは当然の帰結であった。人質にも食料にもなり得るのだから。 「そこまで思いつめなくても。そもそもニンゲンは古来より我々の家畜であるからして……いえ、何でもありません。ですから!ね?ダンナと私と選手としての名前、お願いしますね?本選が始まるまでに決めなければゲームマスターに不本意な名前を押し付けられることになりますから」 不本意な名前?❝うんこ❞とか❝ちんちん❞と

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第78わ「名前とは命」

(承前) 語るべきことは語り終えた。秘密の作戦会議は終わりだ。四肢の力を振り絞って棺の蓋を開けようとするが、それは相棒の腕によって妨げられた。 「まだ用は済んでいません。ここからが本題です。私、名前を貰っていません。ダンナの名前も」 言われてみれば、その通りだ。俺も相棒も、これから二人三脚で長い戦いに身を投じることになるというのに自己紹介を済ませていなかったのを失念していた。俺の名前は……。 「いえ、ご両親からいただいた名前ならとっくに存じておりますとも。それともアレ

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第77わ「煉瓦の家」

(承前) 「生物としての願い……つまり本能的なものということですね?」 そういうことになる。 「分かりましたよ!人間には三大欲求というものがあるそうですね?」 そうだ。俺は安全な縄張りが欲しい。枕を高くして眠れる家。吸血鬼に怯えて暮らさなくてもいい街に住みたいと思う。それに勝る望みは無い。 「セッ……あぁ、はい。分かりました。分かってましたとも、ええ」 まぁ、人間の欲望なんて際限の無いものであるし。安全が確保された実感があれば次から次へと欲しいものが湧いてくるのも

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第76わ「二人で一つの」

(承前) 最後まで❝ゲーム❞に勝ち残る。俺も相棒も欲しいものを手に入れる。やることは決まりだ。目指すゴールは変わらない。他の道は無いことを改めて確認しただけだ。……ただ、配られた手札を並べ直しただけのこと。 「それで、話は戻りますけど。結局ダンナの欲しいものって何でしょ?」 つまるところ、本当に熟慮に値するのは、その一点に尽きるのである。 「爵位?それとも領土?」 いらない。 「自分の城塞とか?」 いらない。 「一国一城の主とやらになりたくないんですか?最近の

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第75わ「狡兎・ヴァーサス・走狗」

(承前) 人間の世界には獲物となる兎が死ねば猟犬も殺されて食われる、みたいな諺もあるのは事実だが……少なくとも俺はそこまで非情にはなれない。 「ぐすっ。本当ですか?信じていいんですか?」 相棒がメソメソと泣いている。ウソ泣きだとは思わない。ただ、涙を自由に出し入れ出来るだけなのだ。それよりも問題は俺の方だ。❝ゲーム❞が終われば相棒は俺を守る必要も義務も無くなることは分かっている。 「❝ゲーム❞が終わった途端に用済みとばかりに襲われるのが怖いのですか?しません、そんなこ

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第74わ「却下そして不許可」

(承前) 覚悟は、出来ない。何故ならば、全てのハントマンを狩り尽くすなど不可能だと分かっているからだ。 「何故ですか?私の力が信じられませんか?それとも、裏切りを恐れているのでしょうか?」 簡単な話だ。相棒が全てのハントマンを殺したあと、最後には相棒が残るからだ。そうなれば相棒に立ち向かえる存在は既に亡い。 「え……?ええええ!?そんな、❝全てのハントマンの死❞って私も例外じゃないってことですか!?そんなのあんまりじゃないですか!!酷い!ひど過ぎますよそんなの!!全て

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第73わ「その道を往かば」

(承前) ……あのシスターを始末する。そして闇に潜む吸血鬼どもを残らず狩り立てる。それで人類は本当の自由を取り戻す。嗚呼、最高のシナリオだと思う。 「私の実力なら今回の❝ゲーム❞に勝ち残ることは難しくないと考えています。ですが、その後は……先んじて❝四ツ星❞ハントマンになっているゲームマスターに勝てるかどうかは……ダンナの協力次第です」 そこで俺の血液が必要なんだな。 「ええ、❝一ツ星の血❞は単なる食事、❝二ツ星の血❞には致命傷のハントマンを一瞬で快癒させる効果があり