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ハントマン・ヴァーサス・マンハント

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逆噴射小説大賞に応募にしたパルプ小説と、その続きを思いつくまま書き殴っています。ヘッダー画像もそのうち自前で何とかしたいのですが予定は未定のままであります。
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2019年5月の記事一覧

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第69わ「死の恐怖は死そのものより」

(承前) 元の持ち主と視界を共有し、塞ごうとすると激痛を送り込んで来る忌まわしき新しい右目よ、こんな時ぐらいは役に立ってもらわねば困る。……自前の左目を閉じて、双眸を爛々させる相棒との眼力勝負に打って出る! 「……!?」 相棒の瞳には俺の姿が映っている。俺の瞳には相棒の姿が映っている。相棒の瞳には俺の姿が映っている。俺の瞳には……俺には……俺は……。 「もしもし?大丈夫ですか?」 冷たい何かが、頬にぺたぺたと触れている。そして相棒の声が聞こえる。俺の身体は闇の中に横

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第68わ「死の恐怖は死そのものより」

(承前) 相棒の眼光が更に強まる。俺の意思は恐怖に屈する寸前だ。呼吸もままならず、ぜえぜえ喘ぎながら言葉を繰り出す。……俺は、お前と同衾する約束など、しなかったはずだ。 「ええ、そうですね。この私としたことがダンナのペースに振り回されて同衾する約束は取り付けられませんでした。……ですが、こう考えることも出来ますよね?同衾しない約束はしていないのです!」 べらべらと相棒が喋り出すと、息苦しさが僅かに和らいだ。 「私は思い出したのですよ。この世界のシンプルなルールをね。即

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第67わ「コフィン・イン」

(承前) 五本、六本、七本、八本……。俺を掴む腕が一秒ごとに増えていくことなど問題ではない。一瞬ごとに剣呑さを増す相棒の眼光こそが恐ろしい。 「分かりますか?既にダンナも私と同類、夜の世界の住人なんですよ?明るいうちから外をほっつき歩くなんて……私が許しません」 このままだとまずい。……ハントマンの凝視!予選で同級生に化けたニセモノの瞳を覗き込んだときには身動きが一瞬とれなくなる程度で済んだが、そのニセモノを苦も無く仕留めた相棒の眼力は桁違いだ。意識が朦朧とする。抵抗し

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第66わ「帰還」

(承前) 静かになって運びやすくなった相棒と共に、俺は自宅へと戻って来ることが出来た。同級生や知り合いに遭遇したりしないかと不安もあったが、人通りの少ない経路を選んだ努力は正しく報われたと言えよう。 「む……無事に家までたどり着いたのですね」 俺は居間に鎮座する黒い棺(家を出るまでは俺の部屋にあった筈だが考えても仕方がない)の蓋を外すと、其処に眠そうにしている相棒の身体を横たえてやった。さて、俺は今日こそ学校に行かないと。今から急げば二時限目には間に合うだろう。 「ダ

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第65わ「背負う者と担う物」

(承前) 我々の戦い方は❝追従型❞と呼ばれているのか。確かに相棒は俺に従って何処にでもついてくる。危険を承知で例の教会にもついてきてくれた。 「私が言いたいのはですね。今のままの戦い方で構わないのか、その確認がしたいだけです。ダンナさえよければ……」 それ以上は言うな。❝陽動型❞にも一考の価値があるかもしれないが、それも強力な銃器を手に入れてからの話だろう。それこそ狙撃銃でもあれば……。 「私のオススメは」 それ以上は言わなくていい。 「でも」 言えば俺はお前を

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第64わ「老いる身体と死ぬ身体」

(承前) 吸血鬼にとって人間は単なる輸血袋か。分かっていたつもりではあったが認識が甘かったと言わざるを得まい。とんでもない怪物を背負い込んでしまったと改めて感じる。 「あれは❝強行型❞と呼ばれる戦闘スタイルです。ハントマン同士の戦いで足を引っ張るニンゲンの自由を予め制限しておく、最も合理的な戦略です」 確かに合理的ではある。だが相棒の言い方からすると、それが唯一絶対の最適解というワケでもなさそうだ。続く言葉に耳を傾ける。 「他には❝陽動型❞などがありますね。予選でぶつ

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第63わ「天秤の均衡」

(承前) 自分で歩けると強弁する相棒の抵抗は弱々しく、俺に背負われる身体は羽毛布団のように軽い。 「その、この態勢は良くないと思うんですよ」 喋る元気は残っているらしい。それでも❝本選❞とやらが始まるまでに少しでも体力を取り戻してもらわないと困る。 「無防備なダンナの首筋が視界いっぱいに広がるとですね、こう……」 心理戦を仕掛けて来たか。確かに吸血鬼の牙は恐ろしい。しかし自分で決めたことだ。やると言ったら最後までやるのだ。 「……さっきのハントマン、薄汚いズタ袋を

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第62わ「物種」

(承前) 肺の中の空気が全て排出されるような途轍もない衝撃と激痛。覚悟があっても痛いものは痛い。そして激痛は続いている。つまり、俺は生きているということだ。少なくとも、今のところは。 「だ、ダンナ、ご無事ですか……?」 地面から声が聞こえる。相棒の声だ。まさか大地と一体化したのだろうか。恐る恐る瞼を開くと、どうやら相棒の身体は俺の下敷きになっているようだ。冷たくて薄くて硬いから分からなかった。 「ぐぐ……すみません。十全な状態ならばダンナを背負って自宅まで一足飛び出来

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第61わ「地面のベッド」

(承前) 俺と相棒は県庁の屋上から地面に向かって自由落下していた。殺すつもりの全力で抱きしめる。離れる時は、死ぬ時だ。 「嗚呼!もう!本当にどうしたら……」 相棒のブラウスを破って背中から黒い翼が生えてきた。コウモリのソレを人間大サイズにしたような立派な翼であった。いかにも吸血鬼の翼である。 「あなたって人は……いつもいつも!」 無論、背中から翼を生やすだけで空を自由に飛べるようならライト兄弟の名前も歴史に残ることは無かったであろう。瞬く間に、相棒の四肢が同じように

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第60わ「終盤戦」

(承前) 「あと二秒です!いいんですか!?あと二秒しか猶予はありません!」 そんなことを言っている間に十秒はとうに過ぎているのだが。相棒の顔に僅かな焦りが窺える。付け入る隙はある。この駆け引きの主導権は俺にある。 「残り一秒です!私が一人で先に帰ったらどうなると思いますか?取り残されて、ここで働いているニンゲンに捕まれば親御さんにも学校にも連絡が行きます!警察も動くかもしれません!非常に面倒なことになると思います!いいですか!?今すぐ直ちに即座にこの場で首を縦に振らない

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第59わ「駆け引きの妙味」

(承前) 「十」 秒読みが始まった。同衾と言うと、アレだろう。同じ布団で寝ることだろう。夏目漱石の「吾輩は猫である」を読んだから分かる。 「九」 問題は布団ではなく、棺桶で眠らなければならないことか。 「八」 いや、本当の問題は寝具のことではない。相手のことである。 「七」 見た目は良くても吸血鬼と言えば怪物の代名詞だ。分類としてはゾンビとかミイラとか、狼男とか、そちら側の存在だ。 「六」 ヘビに睨まれるカエルの気持ちが、ネコに捕まったネズミの気持ちが今の

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第58わ「仕切り直し」

(承前) 相棒のペナルティ、即ち胸と右肩に刺さった杭は、それぞれ生命力と攻撃力を万全な状態から半減させる効果があるらしい。それは大変だな。 「そうです、大変なんです!本選が始まる前に何としても解消しないと!」 東の空が明るくなりつつある。闇夜に蠢く人間狩りの気配も消え失せた、ような気がする。家路を急ぐことにしよう。 「……そうです!ダンナはどうやって家までたどり着くつもりなんですか?この屋上から自力で脱出できますか?それとも職員と監視カメラの目を掻い潜って玄関から出ら