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ハントマン・ヴァーサス・マンハント

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逆噴射小説大賞に応募にしたパルプ小説と、その続きを思いつくまま書き殴っています。ヘッダー画像もそのうち自前で何とかしたいのですが予定は未定のままであります。
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2018年11月の記事一覧

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第13わ「アキレスの泣き所」

(承前) 掴まれた腕。凄まじい膂力で体を引き寄せられる。 吸血鬼の凝視。迫る犬歯。 事態を察した相棒が駆け出すのが見える。 佐々木に差し伸べる手に利き手を選ばなかったのは、こうなることを無意識に恐れていたのか。座り込んだ吸血鬼に覆いかぶさる形となる。 一秒後には俺の首筋に四つの牙が突き立てられるだろう。 「ARRRRRRRRGH!」 苦痛、或いは食事を取り上げられた獣の怒りか。 俺は突き飛ばされて自由の身となる。吸血鬼は側頭部を───、俺に撃たれた左耳を押さえている。

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第12わ「同窓」

(承前) うずくまる女性が恐る恐る顔を上げる。やはり見知った顔だった。 同じクラスの佐々木さんだ。佐々木さき。よく見るとコートの下に学校の制服を着ている。きっと塾の帰りに人間狩りに襲われたのだな。 「え、ええ?たたた、高遠くん……?さっきの青い人はどうしたの!?」 イエ~ス。マイネームイズ、タカトー。さっきの青い人は死滅した。相棒が責任を持って殺処分したぞ。 「相棒?その人は、その……大丈夫な人なの?」 大丈夫ではないし、人じゃない、と正直に言えば彼女は困るだろう。

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第11わ「速戦即決」

(承前) 俺を抱えてビルの屋上からダイブした相棒が音もなく着地する。衝撃は無かった。膝が笑う。悪寒が止まらない。生きている。一刻も早く自分の足で地面に立ちたい。頼む、下してくれ!離してくれない。そのまま相棒は急加速、あくまで現場に急行するつもりか。 「そこまでですよマンハント!いざ尋常に勝負です!!」 うずくまる女性と、街灯に照らされる❝人間狩り❞の後ろ姿が俺の視界に入って来る。そう思ったのも一瞬のこと。声高らかに、加速を活かした背後からの飛び蹴りがマンハントに命中する

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第10わ「いざ対峙する時」

(承前) 「……マンハントの気配が強くなりました。近いようです」 相棒の声で意識が現実に戻される。雑居ビルの屋上に立つ自分を認識する。無意識に時刻を確認する。0:11。現実逃避は数分で済んだらしい。人間狩りとの対面は近い。ここで待ち構えればいいのか?それとも気配とやらを探って打って出るべきなのか? 「気配を探るのは難しいですね。そういう技能に長けた同胞もいるのですが……」 おぞましい咆哮。そして耳を塞ぎたくなるような悲鳴。おそらくは、怪物と女性の。近隣住民がマンハント

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第9わ「待ち伏せ」

(承前) 雑居ビルの屋上。刺すように冷たい夜風、狂ったように赤い月。こんな夜は何が起きてもおかしくない。星の無い夜空、深夜零時。❝マンハント❞が目を覚ます時間だ。 「肩の力を抜いてください。❝ゲーム❞は早朝六時まで続きますので。ほらほら、紅茶でも飲んで落ち着きましょう?」 相棒の言うことも一理ある。水筒の蓋を受け取り、紅茶(※淹れたのは俺だ)が注がれるのを眺めながら深呼吸。一口すすって、更に深呼吸。緊張と弛緩の波が交互に訪れるのを自覚する。集中力は十分だ。 「このビル

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第8わ「ゲームの文法」

(承前) 「誰と競う点数か、ですか。当然、他のハントマンです。と言っても、点数で勝負が決まるわけではありませんが」 そう言って相棒は俺が寝る前に枕の下に敷いた銀玉鉄砲を指差す。 「その玩具みたいな銃も、点数次第で強力な銃器と換えて貰えます。ちなみに銀の弾丸も点数と交換で貰えますよ。他にも……私に使うことも出来ます」 それって「経験値」みたいに振り分けられるとか? 俺たち人間が遊ぶゲームみたいに。 「ええと……それもあるのですが。私の顔とか、体型とか、喋り方、髪の色と

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第7わ「死の顎」

(承前) 死にたくない。吸血鬼どものゲーム───、率直に言えば人間狩りに巻き込まれたのだ。そう遠くない未来、「さっさと死んだ方がマシだった」と思うような酷い目に遭わされるかもしれないが……少なくとも今は、まだ死にたくはない。すると溜息とともに両腕が離れる。 「……わかりました。及第点の回答と言ったところですね。ちなみに私たちハントマンがパートナーである人間の血を強引に吸うようなことは致しませんのでご安心ください。ルール違反で、マナー違反でもありますので」 それを聞いて少

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第6わ「娯楽と落伍」

(承前) 「どうして❝食事❞と❝ゲーム❞を両立させようなどと考えたか、ですか。理由は単純です。どちらも我々が生き延びるのに必要だからです」 ナニソレ。お前らは退屈で死ぬの?とは訊けなかった。 肯定されそうで怖かった。 「我々の寿命はあまりにも長いのです。血を飲んで、寝て、また血を飲むだけの暮らしに倦んだ父祖は退屈しのぎにゲームを企てました。領土、領民、財産を賭けた、貴族が貴族として存在するための権利書を賭けた貴族同士の決闘を。そして全ての権利書を失った貴族は……闇に紛れ

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第5わ「質疑」

(承前) さぁ、ゲームの始まりだ。 我々は常に君を監視しているからね。 相棒、頼むから起きてくれ。そして俺の質問に答えてくれ。この世界が吸血鬼の支配するゲームの❝卓❞で、人間はゲームの❝駒❞でしかないことは百歩譲って信じてやってもいい。だが分からないことがある。 「分からないこと?」 ベッドの下から黒塗りの棺が滑るように飛び出してきた。 ぎぎぃ、と音を立てて半開きになった棺からは我が相棒が眩しそうに顔をのぞかせている。 ……聞きたいことは二つ。第一に、GMはハントマン

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第4わ「大いなるゲーム」

(承前) 終わりの見えない悪夢が始まった。夜は明けても俺の心に光が差すことは無かった。両親が書き置きを残したまま家に戻らない。文面からは「出張」「関西方面」「支社のヘルプ」の単語が拾えたが───、今の俺には状況が呑み込めそうにない。床に落ちたままの携帯電話がやかましく鳴動しているのを感じて意識が現実に引き戻される。ゲームマスターからのメッセージ。 おはよう!良い朝だね!気分はどうかな?ご両親のことなら心配いらない! 君の❝ゲーム❞に巻き込まれないように手は打ってある。説明

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第3わ「物語は始まる」

(承前) やれやれ。僕は相棒に的確な指示を出して、襲い掛かる怪物を返り討ちにした。相棒の繰り出すキックに次ぐキック、そしてダッシュからのジャンプそしてキックを喰らって怪物が倒れると、ソレは青い炎に包まれた。……フンイキ出てるじゃないの。 おめでとう!これでチュートリアルは突破だ。明日の夜からは町に潜むマンハントは容赦なく君を狙うようになる。本当の❝ゲーム❞はここからさ。 青い炎。消し炭も残らない怪物の死骸。 ハントマンが、相棒の吸血鬼が小走りで駆け寄って来る。誇らしげに

ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第2わ「闇のゲームと闇のチュートリアル」

(承前) ……状況は相変わらずだ。二匹の怪物が俺を凝視している。 マンハントに「銀の弾丸」をお見舞いしてやろうとも思ったが───、弾丸が怪物に有効な特別製でも銃の方は正真正銘、文字通りの銀玉鉄砲だ。つまりオモチャだ。 おおっと!マンハントが飛び掛かって来たぞ!でも心配いらない、ハントマンはオートで君を守るように立ち回る。特に指示を出さなくてもね。当然じゃないか! 怪物の長い爪を相棒のミドルキックが迎撃した。 足が長いのは羨ましい。 お次は俺の首筋を狙う牙をハイキックで迎