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音楽エッセー#7 ふと、立ち止まらされたもの

良い天気歩いていて、ふと、目の端に鋭い光が差し込んだ。

光の方を見やると、正体は歩いている橋の下のお堀の水面の太陽の反映だった。私の視線がその光を捉えた瞬間に、光は消えた。雲に隠れたのだ。

いつもは藻や泥で緑色に濁っているお堀の水が、その日は綺麗に磨いた鏡のようにフラットで、空に浮かぶ雲と光が作り出すダイナミックな造形を静かに湛えていた。水面にはさざ波が立っていて、映った雲の輪郭が、特殊なフィルターをかけたようにギザギザになっていた。どうやら、さざ波は、風が吹き付けて起こるものと、沼から湧き上がって来る泡が水面で弾けで広がっていく波紋によって起こるものと2種類あるようだった。

瞬間的に、これは写真を取っておくべきだと直感した。

なぜそう行動したのか、後で思い巡らして一人納得したのだが、どうやら私は生来、たくさんの細かいものが一斉にさざめくとか、光り煌めくものが好きなのである。竹林の道などを思い浮かべると、無性に胸が掻き毟られるような、目の周りがすっとひらけるような心地がする。

橋の上の通行の流れの中、私は立ち止まり欄干に凭れて、雲に隠れた太陽が再び顔を出すのを待った。他の通行人は、誰も足を止めはしない。ただ私だけ独り、お堀を覗き込んで、カメラを構えてシャッターチャンスを狙っていた。

曇天の向こうに居る太陽を睨みながら待つこと数分、ふいに雲間にちょこっとだけ太陽が顔を出したか…!?と思うやいなや、光は四方に飛び散り、辺りを明るく照らし出した。そしてその全ては、さざ波によるフィルターがかかった状態で見えている。なんという見事な自然のスペクタル!私はとても満ち足りた気分になった。


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