投資家対談 かんぽNEXTパートナーズ 【前編】「ベテラン投資家が見出したFinTechスタートアップ400Fの可能性」
プロセスを通じて、全CxOと会った
鵜月) 初回面談時の当社に対する印象について教えていただけますか?
鈴木) 中村さんと初めてお会いしたときに、約2万局ある郵便局に人々の生活導線が組み込まれており、郵便局を基点に展開しているかんぽ生命がいかに保険業界を活性化しうるかを力説いただきました。400Fさんはオンライン主体ですが、オフラインの方が効率的な場面も当然ある。その逆もまた然りということで、相互補完的なパートナーになれる可能性を追求したいという中村さんの意思に個人的に共感しました。
鵜月)ちなみに今回のラウンドではリードを取っていただくことが決まる前から、CxO全員と面談したいとご要望を頂いていました。当初はフォロー投資前提だったことを考えるとかなり珍しいのではと思いますが、どういった背景だったのでしょうか?
鈴木)以前中村さんと酒席をご一緒した際に、「過去の失敗から権限委譲の重要性を学んだからこそ、一定部分までCxOに任せて伴走するスタンスをとっている」というお話を伺いました。中村さんだけで物事を決めることは比較的少ない状況だと感じたので、CxOおひとりおひとりに話を聞きたかったというのがあります。
鵜月)事業解像度を上げるという意味も当然あったわけですよね?
鈴木)はい、400Fさんの事業はTo C/To Bという2サイドのビジネスなので、よくも悪くも複雑なモデルです。そのため1人のCxOが関与している取り組みが、A事業に影響しているのか、B事業に影響してるのか、または両方なのかという予測が難しい。そこで可能な限り責任者の方とお会いするのが肝要だと思い、依頼しました。
鵜月)実際当社のCxO全員とお会いいただいての印象はどうでしたか?
鈴木)中村さんは野村で鍛え上げられた突破力と確固たる強い信念をお持ちの一方で、冷静なバランス感覚をお持ちだと思います。昔の中村さんは先程の権限移譲とは真逆の性格だったのではないかと推察しているのですが、何度かコミュニケーションを取るなかでそこにはすごく気を付けているんだろうなと感じました。 鵜月さんは事業への高い理解と合理的な判断力を兼ね備えており、「話の分かるCFO(笑)」という印象です。
鵜月)私への評価は気になるところですが、それは後段のファイナンスパートに譲るとして他のCxOはいかがでしょうか?
鈴木)お話しさせていただいた中でもよかったと思ったのがCOOの関さんとCGOの林さん。その2人からのお話は検討の中でも役立ちました。
鵜月)どういったところが良かったと感じられましたか?
鈴木) 貴社はオカネコ事業で培ったプラットフォームのノウハウや知見をエンプラ事業に転用されていますが、その流れが言葉通りできているのかを確認したかったのです。関さんは金融機関への提案やプロジェクト推進をご担当されていますが、金融機関のペインに対する洞察も深く、オカネコ事業がどう活かされているのかも解像度高く理解することができました。
鵜月)なるほど。林はいかがでしょうか?
鈴木)オカネコ保険比較のローンチがちょうど3~4月だったと思うのですが、オカネコ診断だけではなく、保険比較サイトからもユーザー導線をつくるのは合理的な戦略だと感じたため、その動きが重要だと思っていました。その立ち上がりがスムーズに行きそうか、難しいのであれば何がボトルネックなのかをお聞きしたいと思いました。結果、お話しできてよかったです。
社長がいいのは絶対条件
鵜月)ありがとうございます。とはいうものの、スタートアップって結局ファウンダー次第というところも大きいと思っています。シード・アーリーステージの投資であればそれこそ経営者しか見ないといっても過言ではないかと思うのですが、実際に投資の意思決定において社長が占める割合はどれくらいでしょうか?
鈴木)社長の良し悪しは絶対条件です。そこは担保されている前提でビジネスモデルという話があるのですが、それ以上にどのステージにおいても注視しているのが、「何を解決したいのか」、「どういうプロダクトで、どういう価値をお客さんに届けて、どういうペインを解消しようとしているのか」です。ステージを問わない普遍的な理屈だと思います。そこを自分がきちんと腹落ちして理解できるのかを重視しています。誰がやるのかももちろん重要ですが、それ以上に何を解決しようとしているのかを見ています。
鵜月) WhoやWhat、Howはもちろん大事なのだけれど、Whyこそが一番重要ということですね。
鈴木) そうですね。先日、お付き合いのあるスタートアップの代表の方がSNS上で「誰がやろうとしているかはよく見られるけど、 何を解決しようとしてるのかは全然聞かれない。そういう部分で投資家に対しては不信感を感じる」と書かれていましたが、私もまさにそうだなと思いました。
鵜月)シリアルアントレプレナーであれば資金調達環境が追い風になるのは否めないですもんね。それ自体は決して間違っているとは思いませんが、鈴木さんからすると必ずしもそれが唯一解ではないということですね。
鈴木)そうですね。成功して連続起業していくことももちろん素晴らしいですが、失敗から学ぶことも多いと思います。中村さんご自身もMBO前の段階で色々とご苦労されていたとは思いますが、そういった苦労や失敗から得られるものの方が実は大きいのではないかと思い、その辺りの話は中村さんに何度か伺いました。
鵜月)確かにDDQの冒頭にも創業やMBOの背景に関するご質問が来ていたと記憶しています。実は私が当社に入社したのも、まさにその中村の苦労や失敗談を聞いていたことが大きいです。投資家の方々にはお金を投じて頂きますが、我々は時間と労働力を提供する立場です。その意味では、入社という投資行動をとっているといえ、見るべき点は共通しているのかもしれません。
鈴木)共通していると思いますね。私自身もこれまでのキャリアは失敗から学んできました(笑)
投資の決定打
鵜月)初回面談から投資に至るまで、特に重要なのは決断に至ったポイントではないかと思いますが、どのような検討があったのかお伺いできればと思います。
鈴木) 貴社の金融オンライン・アドバイザー(以下、金融OA)によるサービスを体感したのが大きかったです。私自身、若いころに親が加入してくれていた保険に入ったままで、金融OAの有用性には当初懐疑的でした。 金融OAが今後求められる世界観が訪れるのかどうかの予測をするために、自ら実験台になるのはやってみて良かったと思います。
鵜月) 先程出てきたミッションにも通ずる部分ですね。何を解決したいのか、それを体験していただくこともそうですし、それをどう実践しているのかもご理解頂けたということでしょうか。
鈴木)そうですね。資産運用でもこれからは富裕層や準富裕層だけではなく、マス層にもスポットが当たってくると思います。ただ、そこにはどうしても情報の非対称性が生じてしまうので、貴社のようにフラットな立場でアドバイスができるプレイヤーが幅広い世代の資産を集めて、それを金融機関が運用するという世界観を作る必要があります。そのためには大手の金融機関だけではうまくいかない。これは顧客ヒアリングでも感じたところです。
顧客ヒアリングを通してみえてきた課題
鵜月)顧客ヒアリングも重厚に実施いただきましたね。
鈴木)はい、強固なユーザー基盤をお持ちの大手数社に実施させていただきました。共通していえるのは、最適なマス層へのアプローチは誰にも分からないということです。マス層に対するアプローチをデジタル、効率化していくというのは、言うが易しで、実際にリテール事業を行っていらっしゃる企業でもご苦労されているのであれば、大手といえどもすぐには参入できない障壁の高さを感じました。
鵜月)逆に課題も見つかりましたか?
鈴木) 元々顧客ヒアリングを実施した背景として、貴社のエンプラ事業の売上が急速に伸びてきていることがあります。一方、プロダクト売りというよりは、プロジェクト売りの色彩も強く、性質としてはまだフロービジネスだと思います。そこから今後どの程度粘着性のあるストック売上にしていけるのか、ここが評価しきれませんでした。
鵜月)重要なテーマですね。今回のラウンドでも他の投資家も含めて最も重視された点だと思っています。その他の課題はいかがでしょうか?
鈴木) 一つの法人企業との取引規模が大きくなればなるほど、そこはリスクポイントになってくるので、顧客ポートフォリオの分散は重要なテーマですね。だからこそ貴社も足元では地域金融機関とのお取引を拡大されようとしていると理解しています。一方で、プロジェクトが増えるとより担当人員の頭数が必要になってくるので、先述のストック売上の確立に加えて、1)人員が獲得できるのか、2)プロジェクトマネジメント品質を担保できるのか、 3)金融機関のカスタマイズされたオーダーにどこまで応えていくのか、の3つが今後貴社の課題になってくると睨んでいます。
鵜月)そうですね。一方で当社としても当然、単純な人月ビジネスにしたいわけではないので、どれだけプロダクトをベースにオペレーションを共通化していけるかがテーマです。それができるとストック性も自ずとついてくると考えています。ただ、それだけでこの領域を戦っていくのは厳しいので、いかにコンサル的な付加価値をつけていくのか、そのバランスが大切ですね。コンサルだけだと本当に人月ビジネスになってしまうし、プロダクトだけでもカスタマーサクセスが実現できない、そのバランスです。
鈴木)そうですね、本当の意味で顧客課題を解決しようとすると、個々の会社の課題を深掘りして真の課題に対してプロダクトを当てていく売り方が求められるため、コンサル的な要素は取り入れていった方がいいと思います。 ただ、そうすると人材要件が高くなってくるので、人的資本への投資額は上がります。貴社の場合、いかにしてそこを資本効率性の高い形でやっていくかが問われる時期になってきたという認識です。
鵜月)当社はCAPEXが殆どなく、人件費と広告宣伝費が二大コスト項目で、これはPLでみるとそのままエクスペンスとしてヒットしてしまうわけですが、この辺りの事業モデルはどう評価されていますか?
鈴木)プロダクトが発展途上であることは間違いありません。ただ、毎月数万人のユーザー登録があり、累計で100万人のユーザーを抱えているのは揺るぎない事実です。そこからの示唆をどうプロダクトの価値に転換して、オカネコとしてより効率的なマネタイズに導いていくか、プロダクトの再開発が求められていると思います。そこからさらにエンプラ事業における顧客分散に繋げていけるか、知恵の勝負ですね。
鵜月)一方、発展途上のプロダクトでありながらも、 ステージでいうとミドル~レイターの評価をつけていただけたのはなぜでしょうか?
鈴木)オカネコ事業だけではここまでの評価はつかなかったかもしれません。顧客ヒアリングにおいて、必要に迫られているエンタープライズの企業各社が「400Fさんにしか頼めない、400Fさんしかいない」という評価を下していることが大きかったと思っています。また中村さんのケイパビリティも大きいと思いますが、それぞれのエンプラ案件において貴社が関与している範囲も広く、オペレーションの深くまで入り込んでいることを高く評価させていただきました。オカネコ事業と、エンプラ事業という2軸が評価ポイントでした。
鵜月)ありがとうございます。続いて、今回のファイナンスに関するパートに移れればと思います。
以降、後編に続く
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