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「災害=自然現象×社会」コロナ禍における災害復興とは

2020年を通し、第5水曜日のある月だけ、朝7時からお送りしたローカルキャリア研究所オンラインラジオ。台本やテーマは一切なし。ゲストに稲垣文彦さんをお招きし、進行の山田崇さんとともに、その瞬間心に浮かんだことをざっくばらんに語り合いました。

第1回が開催された2020年4月29日は、初めての新型コロナウィルス感染防止に伴う緊急事態宣言が出され、世界全体が不安や混乱に陥っていた最中でした。未曽有の事態を目前に、考えていたこととは?対談の様子をお届けします。


登壇者プロフィール

稲垣 文彦(いながき ふみひろ)

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NPO法人ふるさと回帰支援センター副事務局長。前公益社団法人中越防災安全推進機構 業務執行理事統括本部長。2004年の新潟県中越地震以降、災害復興や市民協働によるまちづくりに携わる。主な著書として「震災復興が語る農山村再生 地域づくりの本質(2014)コモンズ」等。

山田 崇(やまだ たかし)

山田さんプロフィール写真

塩尻市役所官民連携推進課 課長補佐。空き家プロジェクトnanoda代表。内閣府地域活性化伝道師。著書として「日本一おかしな公務員(2019)日本経済新聞出版社」。

災害復興は元に戻すのではない、新しく変えていくのだ

山田:本題に入る前に、稲垣さんをゲストにお呼びした経緯をお話しさせてください。

2020年1月、CAREER FORプロジェクト(事務局:一般社団法人地域・人材共創機構)のメンバー16人と新潟県長岡市の旧山古志村に伺いました。2004年の新潟県中越地震で震源6強を観測した地域です。人口約2,100人の村は死者5人、負傷者25人、全壊622棟の被害を受け、村内では地滑り329か所が発生して道路は寸断。全村避難を余儀なくされました。2007年に全村帰村を果たしましたが、現在人口は1,000人を切っています。

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自分の意思ではなく、強制されて暮らしている場所を離れる。そして、戻るのか、新しい生活を歩むのかの選択を迫られる。恥ずかしながら私、そんな出来事があったなんて全然知らなかったんです。すごく衝撃を受けました。

現在、新型コロナウイルス感染症の話題が世間を賑わせています。一種の災害ですよね。このラジオで誰を呼ぼうかを考えたとき、旧山古志村で伺った稲垣さんの話が真っ先に思い浮かんだんです。

稲垣:旧山古志村に来ていただいたことが、山田さんの印象に残っているのがすごく不思議です。新潟県中越地震以降、いろんな取り組みを進めてきましたが、私からすると山田さんたちがやっている取り組みがすごく輝いて見えるんですよ。その日も(2020年1月)、皆さんにお伝えできることがこの山古志村にあるのかなって悩んでいました。

山田:いや、今でもあの衝撃は覚えています。改めて、そのときに伺った話をもう一度ご紹介いただけますか?

稲垣:災害とは、地震や津波などの自然現象のことを指すわけではないんです。その自然現象によって、周りの人たちが困っている状況のことをいいます。数式に表すと、「災害=自然現象×社会」。だから災害は、社会の課題を顕在化させるといわれているんですね。

さらに災害から一歩進んで、「災害復興」を考えるとき、災害が起こる前の状態に戻すという意味に捉える方が多いと思います。でも私は違うと思っていて。今や、もとに戻すのではなく、新しく変える必要があるのではないかと考えています。

これまで私たちは「ピリオド」と呼ばれる、一定の社会構造が維持されている時代を生きてきました。日本の高度経済成長期などは「ピリオド」ですね。しかし現代の日本では人口減少も進み、社会構造が崩れつつあります新たな社会構造に生まれ変わろうとする「エポック」の時代を、今私たちは生きているんです。

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「ピリオド」の時代であれば、災害が起きたらそのまま元に戻せばよかった。でも「エポック」の時代は社会構造が変化してきているので、元に戻しても、今の私たちに馴染まないんです。だから、新しく変えていく必要があるのではないかと考えています。

そういう意味で震災は、地面だけでなく社会や人間関係も揺らす。いろんなものが混とんとして、カオスな状況になるんです。そのカオスから新しい秩序が生まれていく。もちろん苦しむ人たちもいて、その人たちに寄り添うことは災害復興における大前提ですが、新しい秩序を生み出すことも同じくらい大事だと考えています。

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コロナ禍も、ウイルス自体は自然現象にすぎません。自然現象で社会の歪みや課題などが浮き彫りになり、「災害」となっているわけです。でも浮き彫りになったのは、悪いことだけではありません。良いところも見えてきている。それをどう伸ばすかの視点が、これから大事になってくるはずです。

山田:自然現象によって顕在化するのは、悪いところばかりじゃないんですよね。伸ばすべき、良いところだってある。その考え方にすごく共感しています。

2020年4月に新型コロナウイルス感染症のはじめての緊急事態宣言が発令されましたが、宣言が解除されたとしても、今まで通りの日常が完全に戻ることはないんと思うんですよ。それは悪い意味だけではなく、良い意味もあって。たとえば、もう満員電車に乗って通勤したりオフィスに集まったりする生活に、私は戻りたくない、という人も多いのではないでしょうか。それが稲垣さんのおっしゃっている、新しい秩序の形成なのだろうなと思います。

それに私自身やCAREER FORのメンバーのことを考えてみると、普段なんとなく感じている課題感や違和感を、自然現象が顕在化してくれたのかもしれないなと。

2011年3月11日に、一つの自然現象が起こりましたよね。そのとき一般社団法人地域・人材共創機構の代表理事である石井くんは、何かしたいと衝動的に釜石に駆け付けたんです。一見、3.11をきっかけに行動しているように見えます。でも実は、3.11が起こる前から、言葉にできないまでも「エポック」を感じていたんじゃないか、自然現象が起こることでより解像度が高くなって、彼の中で課題が顕在化したんじゃないか、と思うわけです。

私も市役所の画一的なやり方に違和感があって、空き家を借りたり新規事業を立ち上げたりしました。それって私自身が自分自身を揺らして、「エポック」を感じようとしていたのかもしれないって、今改めて思いましたね。

明日は我が身。仲間と助け合い、良いところを伸ばしあう

山田:私は2020年10月から「市役所をハックする!」というオンラインの投資型サロンを進めているんですけれど、そのスタート直後に台風19号が襲ったんですね。プロジェクトメンバーの宮城県丸森町の八島さんが被災しました。

八島さんは私に、「申し訳ない、プロジェクトに関われそうにない」と言ったんです。それを聞いて私は、被災した仲間を放っておいて進めるなんてしたくないと思って。プロジェクトメンバーと、八島さんを助けようと決めました。

何をしようかと話し合っていると、プロジェクトメンバーの秋田大介さん(神戸市役所)がポツリと「きっと八島さんは市役所につきっきりになっている。奥さんが心配だ」と言ったんです。状況を確認すると、90センチくらい浸水してしまっている家に、奥さんと子どもが残されていて。

もし塩尻市で災害が起きたら、私も全く同じ状況になるなと思ったんです。子どもと奥さんを置いて、24時間市役所につきっきりになる。それなら私たちで八島さんの奥さんとお子さんを助けようと、支援を始めました。

今このプロジェクトは、「明日は我が身」という意味をこめて、一般社団法人アスミ―として動き出しています

なぜこんなことができたのか。それは「市役所をハックする!」の取り組みが、本業ではなく、自分たちの時間を使うものだったからです。プライベートだからこそ、自分の時間とお金を使って、研究をしたり、仲間と助けあったり、良いところを伸ばしたりすることができたんですね。

稲垣:なんだかすごく刺激的な話ですね。コミュニティならではの価値の生み出し方だと思います。私もCAREER FORの皆さんと対話して、さまざまな価値観に触れられるのがありがたいなと感じていて。

よく「今日より明日が良くなっていなければならない」「今日より明日の自分が成長しなきゃいけない」「今日より明日が便利になってないといけない」とか言いますよね。でも「良い」って何?と思うわけです。

「良い」自体、自分の物差しや社会の物差しに基づいていることが多いんですよね。見方を変えたら「良い」は異なる。新潟県中越地震のときに山古志村を支援したときにも、自分が知らず知らずのうちに掲げていた物差しに気づかされることが多くありました。

この3年間皆さんと活動して、お互いに気づいた価値観を言葉にして共有して、違った物差しを知ることができて。すごく素敵なコミュニティだなあと思いました。オンラインになっても変わらずに関係性があるのがいいね。

稲垣さん・山田さん_記事内画像

山田:そうですね。これって私たちがCAREER FORで3年間かけて築き上げてきた結果ですよね。だから今、物理的な距離が離れていても成り立つ。

地域の防災でも同じことが言われますよね。普段からお祭りや消防団で関わりがあると、自然現象が起こったときに、ぱっと動ける。我々CAREER FORも似ているなと思いました。

稲垣:関係性があると、即興ができるんだよね。

山田:それと物差しという意味では、山古志村に最初に住み始めた1人目がいるわけじゃないですか。それが凄いなと思うんです。その人は独自の物差しで、山古志の地に魅力を感じたわけなんですよね。

山古志村の名産である錦鯉だってはじめは食用で飼っていたものが、突然変異が起きて赤くなって、観賞用に変化しましたよね。もともとあった物差しが変化して、新しい価値が生まれたんです。物差し次第だよなあと、改めて思いました。

生活者全員が、災害の専門家。一人ひとりができることを

山田:コロナ禍の今、私たちはどんなことができるのでしょうか。

稲垣:一人ひとりにできることってあると思うんです。

災害復興という言葉を聞くと、災害の専門家たちが出てくるイメージがあるかもしれません。でも「災害=自然現象×社会」だから、社会に住む生活者全員の問題なんです。つまり、誰もが皆、専門家です。全員が知恵や経験を活かしながら、次の社会を立て直していくことが大事です。

コロナ禍も、政府や専門家が動かなければならないと思われがちだけど、実は私たち一人ひとりにもできることがある。ちょっとでも行動すれば、社会は変わってくると思います。

私自身、そういったことをもっと社会に広めていきたいですね。

山田:なんだか私も、すごく元気がもらえた一時間でした。稲垣さん、ありがとうございました。

本ラジオはYoutubeで動画が公開されています。
ご興味のある方は以下からぜひご覧ください。


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