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カプカプのつくりかた(鈴木励滋)
鈴木励滋

カプカプのつくりかた(鈴木励滋)

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「なんだか、ここ、いいですね」と言ってもらえるのは嬉しいこと。
たまにやってきて、なんだかいいなと感じてくれる人がいて、それでいいじゃないかとも思うのだけれど、最近「どうしたらカプカプみたいなところがつくれるんですか」と訊かれることも増えてきて、そのたびに応えに窮します。
はてさて、もったいぶっているのではなくて、そういうことって、ちゃんと体系的には考えていなかったなぁと。
そんなわけで、カプカプの〝レシピ〟を初めて公開してみようかと思ったわけです。

【空間をつくる】

 スペースは広い方がよいです。なぜなら空間を多様にするためには狭いと限度がありますからね。部屋が幾つかあったり、座敷なんかもあったり、一人用の机とか大勢で囲めるテーブルとか、ソファなんかもあるといいですよね(ちなみに、カプカプは横浜市旭区の西ひかりが丘商店街の中に二つ、そこから歩いて5分くらいの「横浜市ひかりが丘地域ケアプラザ」の中にもう一ケ所、というように三つの店舗を持っています)。その一角を店としましょう。居心地のよいお店にしたいので、喫茶店なんかいいんですよね。世の中にはきれいで整然とした店が多いですが、それって長居しちゃまずいなって雰囲気が醸し出されていません? 世の経営者は「回転率」(一定の時間内にお客さんがどれくらい入れ替わるか)なんてことを気にするから、サッと用を済ませてパッとお帰りいただけるような店をつくるのでしょう。それとは逆方向へ、保健所の許可が下りるギリギリを狙っていきましょう。汚くしろってことではありませんよ。目指すのは「雑然」です。 
 つぎに、その店内の空間に置くモノをご用意ください。「センスのよいもの」とか気張っちゃうと、その縛りが窮屈になるだけでなく、あとで思いもよらない弊害をもたらします。センスよりもほどほどの愛着があるといいですね。殺風景な空間にぼちぼち並べていきましょう。 
 カプカプも、さまざまな雑貨や本や、用途もよく判らない小物などで溢れています。外にあるものはたいてい献品、いただいたものでリサイクルバザーの売り物です。店内の棚にあるものは他の施設や作業所でつくられたもの、本は半分くらい所長の私物。カプカプメンバーの作品もあちこちに並んでいて、売り物だったり、そうでなかったり。カプカプの開店15周年の時に吊るした旗も、店内にたなびいています。最近では、いろんな花とさまざまな海の生き物のモビールが天井からぶら下げられました。そして一つひとつのモノたちには物語があったりもします。 
 雑然とした空間がもたらす安寧は、都会の高級レストランとか、一流デパートでの時間と正反対の効果だと思っていただければよいかしら。整然とした場所で、背伸びして、浮き足立って「立派な大人」を演ずるのって息苦しいですよね。「センスがよい」とか「オシャレな」モノだけを厳選して並べていくのって、それに似ていて息苦しさを漂わせます。また、セレクトを徹底していけばいくほど、その基準からこぼれるものを置きにくくなってしまいます。なんでもかんでも置ける余地はないにせよ、常連さんのお土産やメンバーの作品をほとんど置けない、想いに応じられない空間ってのは、友好的だとはいえないんじゃないかと思います。 
 とはいえ雑然としていれば、必ず居心地がよいのかというと、そう単純な話ではないのでしょうけど。

 「星子が暮らせる条件は、世間が単純にならないこと、思い詰めて一つの方向へ走り出さないことである。/星子の居場所には静謐でない穏やかさ、騒然ではなく雑然、熱気ではなく澱まぬ活気が求められる」

 カプカプの運営委員のひとり、最首悟さんの言葉です。星子さんは最首さんの三女で、カプカプのメンバーです。
 この感覚はかなりカプカプの根幹だと思います。いろんな違いをもったもの(者/物)が一緒に居る/在る、ということを形にするのはカプカプの目指しているところでしょう。さらには、「整然」とした立派な人間像みたいなものが自明にあるという人間観までも揺さぶっていきたいと考えています。
 さて、雑然とした空間を育んでいきましょう。その際に、大切なのは、やはり人なのではないでしょうか。雑然としていれば衝突も生じます。雑然としているのだから放っておけば、人々がつながってもよさそうなものですが、そうなるわけでもないのが不思議です。
 雑然とした空間の中で、誰もが各々の最も欲する居心地のよさを獲得できるかといえば、そうはならないです。自分と異なる人と共有する空間ですからね。それでも、「誰も排除されることなく、それぞれがまあまあ心地よい」というのが、頭の中でつくってみた「自分にとっての最上に心地よい」という仮想なんかよりも、ずっとあなたにとって心地よいのだということは、いずれ気づくかもしれませんし、気づかぬままにその空間に浸っているというのでも、まあいいんでしょう。
 何が言いたいのかというと、メンバーやお客さんがそれぞれの個性を遺憾なく表現してくれることが、雑然とした空間にとって肝心なことなのですが、いろんな人が居てもよい空間を成り立たせるのには、さまざまな気遣いが不可欠だということ。そんな、ときに触媒、ときに緩衝材のように在るスタッフについては、またのちほどお話します。
(初出:「ザツゼンに生きる 障害福祉から世界を変える」)

「ザツゼンに生きる」は、2016年にクラウドファンディングで、100名を超す方たちのご支援によってつくられた冊子です。その冒頭にわたしが書いた文章の最初の部分をごあいさつ代わりに転載しました。この後、【カネをつくる】、【しごとをつくる】、【雰囲気をつくる】、【関係をつくる】、【つながりをつくる】、【ひとをつくる】、【世界をつくりなおす】とつづきます。
 そしてわたし以外にもなかなか濃いメンツが、他では読めない内容の文章や絵や写真を寄せてくれています。

・[常連さんが語る] カプカプはどんなところですか?
・[コラム] カプカプという空気 新井英夫
・[コラム] 雑感:「カプカプスタッフ」としてここに居ること。 すずきまほ
・カプカプーズ・タレント名鑑 似顔絵:黒瀧 勝
・ミロコマチコと絵を描くの図 絵と文:ミロコマチコ
・カプカプのあるところ 地図:武山剛士、土屋美緒
・カプカプ祭り 写真:齋藤陽道
・「カプカプ音頭2014」の踊り方 出演:カプカプ-ズ
・[カプカプひかりが丘喫喫茶開店16周年記念トーク] 
生きづらさ、からはじまる未来 鈴木励滋、伊藤英樹、菅原直樹 司会:藤原ちから
・[劇評] OiBokkeShi『老人ハイスクール』を見て 落 雅季子
・[コラム] 演劇とロックンロールと認知症 菅原直樹
・[コラム] 開放し、抵抗する「そこ」なる世界へ 最首 悟
・カプカプ喫茶メニューご紹介
・カプカプグッズカタログ
・[コラム] カプカプから世界は変わるのか? 藤原ちから
・[井戸端げんき訪問記] 
未来に向かう社会の「裂け目」を探しに 伊藤英樹、鈴木励滋、藤原ちから、大谷薫子

興味を持たれた方は、まだまだ山のように在庫がありますので、カプカプにてお買い求めください。または、カプカプのネットショップでもお買い求めになれます。
https://kapukapu.theshop.jp/
カプカプのフェイスブックページもありますので、そちらもぜひ。
https://www.facebook.com/kapuhikari/

来月からは公益社団法人 日本発達障害連盟の機関誌「JLニュース」(http://www.jldd.jp/info01-cat/jlnews/ )に寄稿した文章を、連盟のご厚意により、数回にわたり転載いたします。よろしくお願いします。

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