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コートダジュールで魔法が解けた(ニース)

南仏…フランスの海、フランスの田舎、南フランス…
コートダジュール、プロヴァンス、バカンス、玉砂利のヌーディストビーチ、アンリ・マティスにフランソワーズ・サガン……

なんとなく南仏にあこがれていて、ニースに行ったら人生が変わる気がしていた。人生を変えてしまうのが怖かったので、22歳になるまで「旅行しにいこう」とすら思わなかったのですが。南仏の、けだるい午後、海上がりの冷たい朝、生ぬるく乾燥した午後、ぱさぱさしたパンと重たいワイン、白いホテルの四角い窓から吹く海風、風が揺らす白いカーテン、そこで昼寝を…。そういうのを実際に体験したら、人生がすべて変わってしまうと思っていた。

で、実際に行くことになった。

夢の中にしか、頭の中にしか存在しない「南仏」に実際おとずれることになってしまった。コートダジュール空港で降りた。「南仏」って本当にこの世に存在した。飛行機でいけた。
コートダジュール空港からすごく大きい高速バスに乗って、海沿いを走った。頭の中にしか存在しないはずだった、真っ白い、窓のたくさんついたシンプルな外観のホテルが海沿いにいくつも建っていた。あの一室で誰かが「四角い窓から吹く海風、風が揺らす白いカーテン、そこで昼寝を…。」しているのだろうか。そう思うと興奮した。

ロマンチックに興奮したのはだいたいそこまで。
そのバスで「脳内の南仏」と「リアル南仏」は急激に、糸つむぎのように複雑に結びつき、バスを降りる頃にはほぼ一体となっていた。不思議で貴重な体験だった。振り返ると、そのときの体験が今の人生に大きく影響を与えている
バスから降りてホテルに向かう。私たちのホテルの外装は白ではなくてサンセットみたいなオレンジだった。

結果的に、南仏旅行はとても実り多いものだった。
ピカソが滞在していたアンティーブにもフィッツジェラルドがバカンスしていた海岸、ジュアンレパンにも行った。マティスの作品もたくさん見れたし、なんといっても、コートダジュールの海は最高だった。海辺は朝も昼も夜も美しく、とても静かだった。冷たく透明度が高く、濃度の高い波。ロゼワインも悪酔いしないし美味しいし。海の後ろには山があって、朝の空気は想像よりも気持ちいいし。

でもやっぱり、私を変えてしまったのはバスで海沿いを走り抜けたあの時間だった。「夢の中の南仏」がそのまま眼前に登場することで人生が変わったわけではなかったけれど、「夢」と「現実」の急速な結びつきの経験が、人生を大きく変えたのだと思う。

私は自分の夢を壊すのが怖かったし、人生を変えちゃうのがとても不安だった。だけど意外と大丈夫。今も夢を見ることは大好き、でも答え合わせするとさらに豊かになるらしいから。大人になると夢より豊かなものが手に入るらしいから。ラッキー!って感じだ。できることはなんでもやってみようね、思いついたことは体験してみようね、とこの旅行以降さらに行動的になれた気がする。チャンスがあれば飛び込む勇気って大切。

フランソワーズ・サガンの作品に出てくるような、アンニュイな女性にはなれなかったけど、ニースに行ってよかったな。

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