物流はいつから始まったのか 後編
前編で我々の祖先が物流をしていたところからロジスティクスの始まりまでを記載して、そこで得られた手がかりであったジョミニさん。まずはそのジョミニさんが何者であるかを紐解くところから後編をスタートさせたい。
アントワーヌ・アンリ・ジョミニ
1779年スイス生まれ。(スイスの人だったのか!)19歳でスイス軍入隊。1804年に書いた「大軍作戦論」がフランスのネイ将軍に認められ1805年にフランス軍入隊。後にナポレオンに見いだされて皇帝側近となり数々の重要な作戦計画に関わる。その後ロシア軍に入隊し、最後はパリで生涯を閉じた。1869年没(90歳)
という人らしい。
グローバル人材すぎる!
スイス→フランス→ロシアで活躍したとかやばい。いきなりかましてくるやん。ジョミニ。
そしてジョミニについて調べていると、すぐに彼が著した戦いを体系立てて纏めた歴史的名著「戦争術概論」に行き着いたので早速ポチって読んでみた。これでジョミニが何を考えていたのかを少しでも知ることができるかも知れない。心が躍るじゃないか。
そしてジョミニ、男前。
目元がなんかめっちゃエロい。色気があるぞ。そんな目で物流を見てたのか。
さておき、彼が残した戦争術概論は勝利の法則を求め、その成果として戦略原則論とその実践方法が記されている。ジョミニは当時から戦略と戦術を明確に分けて考えていた。かなり早熟である。
一方でジョミニの強力なライバルが敵側にいて、プロイセン王国(現ドイツ)のクラウゼヴィッツ。クラウゼヴィッツはこれまた後の歴史的名著「戦争論」を残した。実践的な内容のジョミニの戦争術概論に対してクラウゼヴィッツの戦争論は哲学的なアプローチにより戦争の本質に迫った内容で、日本には森鴎外がその概念を広めたらしい。面白い。日本の戦い方は基本的にこのクラウゼヴィッツの戦争論をベースにしている。
クラウゼヴィッツ
ジョミニの戦争術概論に話を戻そう。
ロジスティクスの語源がフランス語であり、それを提唱したのがジョミニであるならばきっと戦争術概論にもロジスティクスのことがもりもりと書かれているはずである。目を皿にするとはまさにこのこと、ロジスティクスの記述を片っ端から探してみた。
まず戦争術概論の構成は以下のようになっている。
第一章:戦争と政略
第二章:軍事政策
第三章:戦略一般
第四章:大戦術と戦略
第五章:戦略戦術の双方にまたがる作戦
第六章:兵站 部隊移動の実技
第七章:諸兵連合部隊
六章で一章をわざわざ割いてロジスティクスについて論じているのである。この理由をジョミニは
ロジスティクス項目の著述が永続的に関連する戦略に関わるので、重視するロジスティクスを独立的に記述することが良いと考えた
と言ってるのだ。
ロジスティクスが戦略に大きく影響を与えることを既に見抜いていたというその慧眼は恐ろしい。そういうところ、好きやで。
その六章を読んでいくと、まずロジスティクスの語源についてが書かれていた。
ロジスティクスという用語は、われわれの知るとおり、兵站監(major general des logis, ドイツ語のQuartiermeisterの訳)の職名から由来している。
なるほどー、ロジスティクスの概念には更にその元があって、それはドイツのクォーターマスター(兵士に食料や住居、輸送手段を分配し与える役)から転じているのだった。勉強なるわ。
そしてジョミニはロジスティクスについてこう喝破している。
元来クォーターマスター(兵站司令官)の仕事とは、戦地まで部隊を移動させ、宿営させ、縦隊の行軍を指示し、陣取らせることであったが、戦争がテントなしで遂行される様になった時、軍の移動は一層複雑なものになり、司令官の仕事は従来以上に広汎な機能を果たすようになった。司令官の機能が最重要の戦略と密に結びついていることに合意するなら、これまでの司令官の仕事が本来のロジスティクスの機能のごく一部でしかないことに気づくだろう。有能な司令官であるためには総司令官(いわば社長)の業務内容までに立ち入るほど、その重要性が拡大かつ発展していることに注意しなければならない。
すごすぎる!さすがジョミニ。200年以上前にロジスティクスの本質を突いたコメントを残しているのだ。
その他にもジョミニが兵站を重視していた事が分かる記述がいくつも見られた。
そして現代においてジョミニの言う通りにビジネスを展開したのがAmazonだ。Amazonはまさにロジスティクスで天下を獲ったと言っても過言ではないだろう。
そしてまたふとこんな疑問が浮かぶ。
ジョミニとアメリカの接点はあったのだろうか?
もう一度最初から注意深く読み返してみると、なんとこんな記述が見つかった。
ジョミニの「戦争術概論」の影響を最も大きく受けたのはアメリカである。南北戦争で「右手に剣を、左手にジョミニの「戦争術概論」を」携えて戦闘したという伝説が伝えられているが、実際、ウインフィールド・スコットは戦場にジョミニの本を携行していた。
あった。これだ。
右手に剣を、左手にジョミニの戦争術概論を、って。すごい戦い方やな。ハンターハンターのクロロ的な戦い方やん。
ここで今のアメリカのロジスティクス重視の経営の礎ができたんだ。
これが1800年の出来事。
1800年というと日本は江戸時代。伊能忠敬が全国を測量していた時代だ。こうして見ると随分とその歴史の厚みが違うよなーと改めて実感してしまう。日本もっと盛り返していこうぜ!
ということで、ジョミニの歴史とロジスティクスの関連がなんとなく紐解けたところで自分の中ではちょっと満足したので今回はここで終了。物流の歴史は前半、後半なんて分け方で語れるほど簡単なものではなかった。もっと深くて複雑な歴史があるし、物流は人の想いや文化をも運んできているのだ。これからも色んな視点で物流を紐解いていこう。
次は何にしようかなーと考えながらジョミニの本を読んでいたら気になる記述を見つけた。
なんと、ジョミニの親父は郵便業務を行っていたらしい。物流家系ではないか!サラブレッド!
郵便といえばかなり原初から存在しているだろう人が想いを伝えるための手段。うん悪くないぞ。
よし分かった、次は郵便についての歴史を紐解いてみよう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?