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真昼の豆乳坦々うどん

気軽に外に出られる時分から、そもそも引きこもりがちであった。
必要最低限の外出以外は極力省エネで生きてきたが故に、ランチも凝ったものは食さない。
ところが家族と終日共に過ごす期間が長引くと、食事だけは曖昧には済まされない。誰もが昼食を圧倒的指標として、気怠い午前中をやり過ごすのだ。

会社員時代は地域のわりあい中心地に出勤していたため、ランチ場所の選択肢は多かった。とは言え大半は隣のセブンで調達したネギ塩豚丼などをデスクでかっくらっていたのだが、その様が先輩に見つかるとミーティングスペースに連れ出され、結果的にワイのワイの言いながら食べることも多かった。タレント性のある先輩で、いまだに話すと半分以上はお腹を抱えて笑い倒れてしまう。

一転してフリーランス生活、笑い転げることもなく基本的に仕事のペースを優先しがちなため、ここまでやっておきたい!というタイミングまではいかり肩で粘ってしまう。なかなか時間通りきっかり切り替えられない(そもそも会社員時代も然程切り替えていない)ので、ランチの時間帯はまちまちなのだ。

だがこの絶賛自粛時代、家族はそれを許さない。容赦なき「今日はなあに?」の声に追いやられ、むくんだふくらはぎに鞭打ってキッチンに立つ。
買い出し直前、静かな冷蔵庫。何もない…食材が何もないじゃないの!
ひとまず冷凍ひき肉と、項垂れたほうれん草を確保。あとはもう、奥に追いやられたあの日のメンマと怪しい豆乳くらいだろう。なんとか形になりそうだ。

刻みニンニクと練り生姜をごま油で炒め、香りがしてきたら解凍したひき肉に塩胡椒、ジャーッと炒める。その間にほうれん草をクタクタと茹で、慌てふためきながらなんとか色を保ちザルにあげ、水にさらす。
無意識下で加熱中のひき肉に砂糖やらみりんやら味噌やら豆板醤やらを投げ入れてさらに炒め、取り出しておく。匂いがたまらない。
酒を温め、鶏がらスープとお醤油と、なんとなくオイスターソースを垂らしてみる。うまく混ざってフツフツしてきたら火を止め、静かに豆乳を。とろ火を再開させ、思う存分すりごまを参入させる。
加熱しすぎると豆乳が嘘みたいにモロモロになってしまうため、ここでも大慌てで消火する。

待機させておいたうどんに豆乳スープをかけ、ひき肉にほうれん草、おまけでメンマ、そしてご褒美に茹で卵。大人はラー油をひとまわし。
豆乳坦々うどん。

やれやれ、これで2時間くらいはご飯に関するプレッシャーも軽減されるだろう。
そんな期待も虚しく、うどんは瞬殺されたためデザートからおやつ、流れるように夕食へと促され、キッチンべたづきの日々は過ぎていく。
先輩たちとあーでもないこーでもないと騒いでいた時代に思いを馳せながら、ひたすら目の前の食器を洗う。これが人生だ。

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