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幸せでありますように

本棚の整頓をしていたら
古い新聞の切り抜きが二編出てきた

見覚えがあった

いつだったか、私が息子に読ませたいと思って
切り抜いていたものだ

いずれも読者からの投稿記事

ひとつは、
心を患って自死した息子さんのことが
お母さまによって書かれてあった

そのお母さまが、
ある時電車に乗っていた際のこと

向かいの座席に若いお父さんと小さなお子さんが
並んで座っていたそうだ
見ると、若いお父さんが
亡くなられた息子さんに良く似ておられたために
ハッとされたとのこと

その親子はとても幸せそうで
見ていたら涙が出たと書いてある

天国で結婚され、
お子さんができて、
今こうして自分に見せに来てくれたのだと
そう思って
涙が止まらなかったそうだ

読んでいたら
私も胸がいっぱいになった

私も
亡くなった友人によく似た人にすれ違って
その人を振り返って
見えなくなるまでいたことがある
寂しさがあふれてきてどうしようもなかった

その時の気持ちを思い出して切なかった


もうひとつは
両方の目を失明されている
ご高齢のお母さまについて娘さんが書いたもの

目の不自由なお母さまは
お独り暮らしをされていて
いつもは移動販売の食材を買っているそうだった
代金はお財布ごと渡し
必要な分を抜いてもらうという

ある日、娘さんが訪ねていくと
買ったばかりという食材があったのだが
何と賞味期限が切れていたそうだ

目が見えないから騙したんじゃないかと
哀しくなった娘さんに
お母さんは
『わざとじゃない、売った人はうっかりしたのだろう』
と、何でもないように答えたそうだ

でも
玄関に置いてあった野菜の入った袋について
娘さんが尋ねたとき
お母さんは、しまった!と声を出し
自分が情けないと言って
泣いてしまったそうだ

それは、ご近所のかたが来たとき
これどうぞ持っていって食べて、
と手渡ししたはずの
野菜の袋であったから。

そして、
お母さまが涙してしまったのは
渡してしまったのが
畑の雑草を入れた袋の方だったことに
気づいたからだった

渡された方も気持ちはわかっていたに違いない

でも、お母さまの気持ちを思うと
胸が締め付けられる
どんなにか悔しかったことだろう
読みながら涙が出た

同時に
離れて暮らす、老いた両親の顔を思い出し
なにか不便を感じていることはないだろうか、
と心配にもなる


この二編ともが
私の心にしっとりと入り込み
周りに対する優しさを忘れずにいたい、
と、強く思わされるエピソードであった

街中でいつもすれ違うだけの人々
だけど誰もが小さなドラマを持っている

そんなことを再認識し
自分も、周りも
同じように大切にしたいと思う 

切り抜きは
読み終えて、またそっと戻しておいた
何年かして、
私はまたこの切り抜きにいつか出会うだろう

もしかすると
私ではなくて
息子が見つけてくれるかもしれない

いずれにしても
きっと胸に染みるはずである

息子さんを失ったお母さま
両眼の不自由なお母さま
お二人がどうか今も幸せでありますように

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