IBLJ測定会で取得したデータと各項目の平均値 〜IPBLデータレポート(6月25日週号)
四国アイランドリーグplus全選手を対象にした測定会を実施
6月18日に愛媛県の東予運動公園内の屋内運動場(ビバ・スポルティアSAIJO)にて4球団約140名の全選手を対象にした測定会を実施しました。
週刊ベースボールで毎週連載されているOther League Weekly Reportにも今回の測定会実施の背景が紹介されていますので、野茂投手の表紙の号をぜひ手にとっていただければと思います。
オンラインでも記事が読めます。
実はユニフォーム姿で四国アイランドリーグplusの全球団の選手が揃うタイミングは珍しく、事務局や球団の方に聞いてもコロナ禍以降では初めてではないかとのことでした。
選手のSNSでも下記のコメントがあるなど、6/30からの後期の戦いに向けて選手が現在地を知り、士気を高める場となったと感じます。
せっかく様々なデータを取得しているので、今回は測定会でのテスト項目や平均値など基本的な統計量の紹介をしたいと思います。
※記事執筆前提となるリーグでの自分の役割は、次の記事をご覧ください。今年はIPBL(日本独立リーグ野球機構)全体のデータ活用もみているため、タイトルを昨年度から変更しています。
※四国アイランドリーグplus各選手の詳細なデータは下記公式サイトでご確認ください。
強みを活かし、持続的な事業を創るきっかけとしての測定会
まず、測定会を行った背景をご紹介します。
公開されている企画書にもある通り、四国アイランドリーグplusはここまでの歴史的な経緯を踏まえた強みを活かし「野球を通して、野球界を含めた社会全体に優秀な人材を供給できるリーグ」として事業開発とブランディングを行っていくことを発表しています。
今回はそのきっかけとなる取り組みとして、四国各球団および選手、さらにはNPB各球団の編成やデータ分析を担う方にお声がけし、測定会の場を作りました。
実際に今回はNPB12球団の担当者にお声がけをし、当日は現地に7球団の方がいらっしゃっいました。測定会の計測内容をまとめたレポートは各球団向けに販売を行い、すでに複数の球団から問い合わせを頂いている状況です。
いまのところデータレポートの販売はNPBの各球団やその他プロチームを対象としていますが、今回のデータはスカウティングだけでなく野球振興のためにも貴重なものと感じていますので、今後なにかの方法で一般に販売、および公開していくことも考えています。
もし、今回紹介したデータレポートの件についてより詳しく知りたいという話がありましたら、企画書に事務局の連絡先を記載していますので、お問い合わせいただければと思います。
また、6月から鹿屋体育大学と共同研究を始め、今回の測定会の内容の監修やデータ取得、分析は鹿屋体育大学の鈴木智晴特任助教との連携しています。年内に各選手の測定会の結果と試合での一球ごとの結果データをかけ合わせて分析し、複数の学会での研究発表の計画も進めています。
このように、リーグとしては今回の測定会を継続的な取り組みのきっかけの場として捉えています。
今後も継続的にデータを取得し、社会全般で活躍する選手を輩出していく取り組みを通して、様々なリーグ、球団、企業等との連携を深め、新たなパートナーシップの形やリーグが備えている社会的な役割を活かした事業の開発を目指しています。
「読解力」「身体組成」「運動体力」「運動技能」の測定を実施
さて、具体的な測定内容の話に入りましょう。今回の測定内容は下記の通りです。
1.読解力
基礎的な日本語の文章読解力に関するテストを行いました。オンラインで無料公開されている日本速読解力協会の「よみとくん」を実施しました。
2.身体組成:身体組成の計測
InBody270を使い、選手の身体組成を計測しました。
3.運動体力:スプリント、ジャンプ、メディシンボール投げによる各種筋力のテスト
スプリント(50m走を実施し10m、30m地点でのラップも計測)、ジャンプ(腕振りなしのCMJ)、メディシンボール(3kg)バックスローを実施しました。運動体力の測定内容や計測当日の運用の監修は株式会社S-CADE.に協力頂いています。
4_1.運動技能(野手):プルダウン、フロントティー打撃でのスイングと打球速度および軌道等の計測
野手は置きティーでの打撃とプルダウンを行いました。
打撃はRapsodoを設置した状況でバットにblastをつけてティー打撃(5球×2箇所)を行い、スイング速度や打球速度等を計測しました。
一部軽いバット(750g)で試技を行った選手もいましたが、基本的には試合で使うのと同等の木製バットで試技をしています。
プルダウンの計測の様子はこちらです。
4_2.運動技能(投手):ブルペンでの投球での球速、軌道等の計測
投手はRapsodo PRO 3.0を用いてブルペンで投球データを計測しています。最初の3球はファストボール(FB)。その後は自身の申告した球種で最大15球程度計測しました。
主な項目の平均値
主な項目の平均値はこちらです。
高校以上で野球をやっていて、下記の測定結果のレベルに達している人、もしくは何かの項目でなら大きく上回っている人は独立リーグの球団が興味を持つ可能性の高い選手と言えます。
今後独立リーグを目指す選手の一つの参考になればと思います。
平均だけでなく、InBody270で測定した選手ごとの筋肉量(SLM)のヒストグラムは下記となります。
手元には今年のデータしかないですが、独立リーグの先にNPBを見据えたときに、各NPB球団のスカウトが注目している選手の多くはこのヒストグラムの右半分に位置する選手、もしくは右半分の筋肉量を今後獲得できる余地がある選手の中にいて、そこからNPBで通用する技術を体得できる可能性のある選手が選ばれるように思います。
今回の測定でも筋肉量が多い投手や打者のほうが球速や打球速度は速い傾向にあり、高いレベルで野球を続けるうえで必要な要素だと考えられます。
ただし、パフォーマンス向上につなげるためには身体組成を変えたときに身体をイメージでき、思ったように身体を動かせることがとても重要だという帝京大学・大川靖晃先生の記事がちょうど出ていましたので、こちらもシェアしておきます。
読解力と個人、チームパフォーマンスの関係に関する研究はこれから
今回の測定会はデータレポートの販売を視野に入れたものなので基本的にはオーソドックスな内容を行いましたが、唯一、読解力を入れた点のみオリジナルでした。
実施の背景としては「野球界でも一般社会でも情報を活用する力が求められていること」「情報を活用する上では何が書いてあるのかを、伝え手の意図通りに読み取る能力が重要」だろうという意識から、それに沿った簡易的なテストができないかと考えた結果、先程も紹介した公開テストの「よみとくん」にたどり着きました。
2択、4択の各6問中、前半の5問を対象にした計10問の回答結果が下記です。選手の大学在籍経験の有無で棒グラフを分けています。
このグラフを見ると、最頻値は10問(全問正解)だが、選手によってだいぶ差があること、大学進学経験者とそれ以外で結果が違うことがわかります。
「よみとくん」を実際にやっていただくと良いと思いますが、このnoteをここまで読み進めている知的好奇心と気力のある人は、おそらく2択も4択も全問正解か1問間違い程度の方が多いのではないでしょうか?
独立リーグに所属する選手は圧倒的な野球の能力を持っている訳ではなく、NPBの球団に指名されて入団したとしてもすぐNPBで活躍できるということは稀です。NPBの球団への入団がゴールではないと考えると、上のレベルで壁にぶつかった際に様々な情報を正しく理解し、主体的に取捨選択できる能力は重要でしょう。
読解力を含めた知的な能力がどのように野球のパフォーマンスに影響を与えるのかはまだ分かりませんが、独立リーガーが今後の様々なキャリアのために備えておくべき能力ではあるはずで、SPIのような一般的なテストも含めて今後どのような知的能力を計測すべきか、育成施策を打つべきかなども含めて検討していきます。
地域を支えるリーダー候補としての独立リーガー
以上、今回は測定会の取り組みや基本的な統計量を紹介しました。
独立リーグに挑戦した選手は、若くして自身の強みを活かして個人事業主になった起業家という見方もできます。
独立リーガーの経験を通し、地域に暮らす様々な人とのつながりを実体験として感じることができた彼らは、その後野球産業に長く在籍するにせよ、そうでないにせよ、地域のリーダーとして社会を引っ張っていく存在としてのポテンシャルは高いはずです。
特に、生成AIが全盛になっていく中で「問題を解決するための方法論の知識量」よりも「何が問題なのかを認識して言語化できる能力」が評価される時代になっています。
問題を正しく捉えて様々な方法論を理解し、素早く最適な意思決定を行う人材が求められる世の中で、独立リーガーが目標を定め、自身のパフォーマンスを客観的なデータを使いながら改善していく経験は、図らずもいま社会が求めている人材へのトレーニングとなっていると思われます。
「野球を通して、野球界を含めた社会全体に優秀な人材を供給できるリーグ」の意味はまさにここにあり、四国アイランドリーグplusは地域を軸としたプロ野球リーグだからこその人材輩出事業と社会貢献ができるのではないかと考えています。
今後も興味を持っていただける様々な組織や方々と連携を取りながら施策を打っていく予定ですので、ぜひ注目いただければと思います。