見出し画像

VTuber 批評誌【VXY】を読んで

VTuber 批評誌 Vol.1 VXY


今年5月の文学フリマで購入後積まれていたのを、やっと読みました。
予想以上に内容が深く示唆に富んでいました。

私はYouTubeすら見ないのでVTuberを見たことはなく(知っているのはキズナアイくらい)、多分今後も見ることはないでしょう。
それで何故この本を手にとったかと言えば、一つには娘がVTuber好きで、時々VTuberやその界隈のイラストを描く仕事をしているので、娘の好きなものを知りたいという親心です。

ちなみに娘に「こんな本買ったんだけど読む?」とLINEしたところ「気が向いたら読むかもしれない」というので「読み終わったら送るね」というと「そこまで気になるわけじゃないから、送らなくていいよ。」という塩反応でした。そんなものです。

もう一つの理由は、VTuberという存在への純粋な興味です。見たことも見るつもりもないですが、今この社会に現実に存在してその周辺に集まる人々がいるVTuberというものについて知りたいと思いました。

VXW Vol.1 目次

特集:
ストリーミング・メルティングポット


バーチャル美少女ねむインタビュー
VRは人類進化のワクチンである

山野弘 公開インタビュー
VTuberと哲学の融合点

阿部由延(saldra)
AITuber は VTuberを駆逐しうるか

銀こんにゃく
VTuberを育てることはできるか
ーー代々木アニメーション学院 VTuber 科入学説明会ルポ

古月
VTuber とロボットの関係性
ーー VTuber ロボットの実用性と運用

ペシミ
おりコウにとって「ポエム」とは何か

宮﨑悠暢
攪乱するパロールの現前
ーー鈴鹿詩子における現象と外部性の問題についての一試論ーー

犬派のねこ。
【初寄稿】はじめまして、天使です!【ニートライブ/新人 VTuber】

編集後期

VXW Vol.1 目次


どの記事も面白かったのですが、特に印象的だった部分を記しておきます。


人間の根源的な要求

「バーチャル美少女ねむインタビュー
VRは人類進化のワクチンである」より

バーチャル美少女ねむさんはメタバース文化エバンジェリストという肩書きでメタバース世界の先駆者、案内人として普及、研究活動をされています。

コロナ禍で人の行動が制限された時、制限なくどこへでも瞬間移動できるVRchatの世界で何が起こったか。それが実は「みんなで集まって飲み会をするだけ」だったというのです。

超能力や魔法が使えるようになった時に人間が何をするのか、答えは意外と単純なんだと思っています。宇宙を変化させる力を得たとしても人間の根源的な要求は変化しない。可愛くなりたい、飲み会がしたい、触れ合いたい、というのが人間の望みだった。

バーチャル美少女ねむインタビューより

人間の三大欲として食欲、性欲、睡眠欲などといいますが、これらは生物として生命維持と種の存続のために必要なことであってとは違うと思います。
欲とは、生きていくのに必要ではないけれど欲しい、と思うことではないでしょうか。

その人間の根源的な要求が、可愛くなりたい、飲み会がしたい、触れ合いたいということであると。
今これを読んで「いや、別に」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、現状の自分ではなく、すべての願いが叶った理想の自分になれるメタバースの世界であったなら、心の奥底に眠っていたこれらの欲が起き出してくるかもしれません。

可愛くなりたい、とは日本のメタバースに於いて特徴的な「バ美肉」現象に表れています。
「バ美肉」とは男性が美少女のアバターを着て活動することです。

日本人男性が使用するアバターの性別は78.3%が女性なんだそうです。(男性15.2%、その他6.5%)


日本の男性ユーザー1,294名の回答
回答条件:VRヘッドマウントディスプレイを用いてソーシャルVRを直近1年以内に5回以上使ったユーザー
質問の原文:最もよく使うアバターの外見上の性別を教えてください(当てはまるものがない場合は「その他」で回答ください)
ソーシャルVRライフスタイル調査2023(Nem✕Mila)

ただこの「バ美肉」現象は海外ではあまり一般的ではないそうです。
「バーチャル世界での姿は、もっと自由でいいのではないか」という思想は、海外では抵抗があるかもしれないということです。

今ハリウッドでは、黒人のキャラクターは黒人の俳優が演じないといけないのではないか、といった議論がありますよね。私は全然理解できないんですが、このような議論の延長線上として、アメリカのバーチャル世界の表現規制については日本と全く違う世界線に行ってしまう可能性もあると思っています。極端な話、現実の性別、年齢、人種に即したアバター以外は使用禁止になる、といった極端な事態も起こりうると考えています。

バーチャル美少女ねむインタビューより

宗教上の理由や民族的なことなど、海外のメタバース事情は日本とはまた違うのだなということを知りました。

AITuberは永遠か

「阿部由延(saldra)
AITuber は VTuberを駆逐しうるか」
より

Vtuberはバーチャルな存在だけれど、(中身の人間部分)だけはバーチャルにならないがゆえ、やる気がなくなったら終わり、などの限界があるわけです。
そこでAITuberなら永遠か、というのがこの論考です。

ここで面白いと思ったのは、AITuberとして例えば一人の女の子をプロデュースしていく時、色々な性格づけをしていくわけですが、その結果、その女の子の性格として配信をやり続けるモチベーションがあるか?という問題に突き当たるというのです。
「人間と違って人間故のトラブルがないし、限界もない」と思われたAITuberも、人間に近づければ当然人間としての問題が出てくるというのがなるほどと思いました。

突如詩について語る

「ペシミ
おりコウにとって「ポエム」とは何か」
より

「にじさんじ」に所属する卯月コウ魔界ノりりむという二人の詩人についての話。
私は「にじさんじ」も「卯月コウ」も「魔界ノりりむ」も知らないのですが、気になったところをピックアップします。

りりむちゃんのポエムは、ポエムというよりポエティックなんです。これだけ言いたかった。喋る言葉にポエム性が宿るっていうのであって、正確には「ポエティック」なんですよ。

卯月コウの発言

魔界ノりりむは喋る言葉が全部ポエムであると、卓越した言語センスを賞賛されているのだそうです。
例えば「いつから朝でどこから友達なの?」「おはぽえ……あれ?いっしょに寝てたはずの朝がいない……」など。それを周りがポエムと呼ぶことに対しての卯月コウの上の発言だそうです。

「詩」と「詩情」は違うと、私もどこかで目にして、そのことはずっと頭の片隅にあります。詩は作るもの、詩情はそこにあるもの、そしてそれを捉えられる感性のこと、魔界ノりりむは単に言葉がポエムということではなく、その感性から紡がれる言葉がポエティックということなのでしょう。

孤独に満ちた世界。それは自意識の世界と言っても良い。そこに、一筋の光が差す。萩原にとっては「感傷」だったが、卯月にとってそれは完全なる他者の言葉、すなわち魔界ノりりむという存在だった。なぜなら、否定性に囚われた者の強い言葉は、それに囚われない者の言葉に勝てないからだ。

ペシミ「おりコウにとって「ポエム」とは何か」より
(萩原=萩原朔太郎)

否定性に囚われない天然だからこそ、魔界ノりりむの言葉は卯月コウにとって光となったんですね。



以上、見たこともないVTuberについて語らせていただきました。

#なんのはなしですか


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?