見出し画像

降りつもる秋に


生きていることが最高の贅沢だって思うとき、湯気をみることさえ幸せに満ちている。
仕事前に飲み物を買って、公園で詩集を開くひととき。
周りのものがすべて芸術作品に見える瞬間は、神様との約束が果たされたようで、無性に感謝したくなる。
まどろみながら、わたしは風とともに呼吸している。
葉っぱが落ちてくる、ひらひら、言葉となって降りつもる。
生きていると感じる、そのことが尊くて、何度も確かめたくなってしまう。
つめたい手すりの感触、吹き抜ける風のすずしさ、アスファルトを踏みしめる足。
葉っぱが一枚いちまい、色づきはじめている。
何も変わらない気がして、でも確実に変わっていると知らされて、わたしはハッピーバースデーをうたう。
どうして寂しいかも分からずに、恋をするんだろう。またひとつ失うんだね。
欠落は、たからものだよ。大事にしまって、忘れていてね。
胸の奥がじんわりとあたたかい。
降りつもった好きは、ひとりをあたためてくれるから、過ごしやすい季節。
また、雨が降るね。日々を洗い流してくれるよ。ひかりを見つけられるよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?