見出し画像

CancerX Story ~金 そよん編~

CancerXメンバーがリレー方式で綴る「CancerX Story」
第17回は、CancerXメンバーの金そよんです。
(冒頭写真:Cue!のメンバー 左:本人 センター:鈴木美穂)


わたしのCancer Story

大学から日本に留学し、大学の先生を目指していたので大学院に進学。学部と院では日本語の歴史を専攻しておりました。院に進学した本当の理由は「就職が怖かったから」。社会人になるのを一年でも遅らせたかったというのが本音です。
そして院に進学するも、修士課程・博士課程を終えるまでの道のりは、道がないと言っても過言ではないほど険しいもので。これまた「大学教員になるのが怖い」という弱気な自分が現れたのです。

 ・・・やばい。
 ・・・どうしよう。

スマホがまだない時代(2000年代前半)だったので、学内の掲示板に貼られているポスターは貴重な情報源でした。部活の勧誘、バイトの募集、インターンシップの合同説明会の告知も貼られておりました。

いきなり就職するのはハードル高そうだけども、インターンシップから始めるなら私でもいけるかも!と思い、合同説明会の会場に向かいました。名前を知ってる会社も知らない会社もたくさん参加していて、かなり賑わっておりました。採用の場ではないこともあり、和気藹々、社員と学生がカジュアルに話していることが印象的でした。

「わたしでも、インターンシップならいけるかも」

変な自信をもらい(笑)面白そうだった2社の資料を持ち帰ることになります。1社は、のちに新卒で入社することになる「博報堂」。そして、もう一社は「ぴあ総研」というエンタテインメントに特化した調査や分析を行う会社の資料です。

エンタメにも調査にも分析にも、知識も経験も能力もないわたしなのですが、(なぜか)「ぴあ総研」のインターンシップに選ばれました。同じチームは4名。1週間べそかきながら課題に取り組んだのですが、結果は出せず、、、。自分のできなさっぷりに涙しながらも、その後の人生に大きな影響を与える人物との出会いがありました。

「鈴木美穂」
名前にカギカッコをつけてしまうほど、彼女との出会いから、すべてが始まったと言っても過言ではありません。

美穂は、20代前半でがんを経験し、自分の病気と向き合いながらも、自分と同じような思い、困っている人がいるはずだから、その人たちのためにアクションしたい。「いつかやりたい!」ではなく「今やる!」。有言実行タイプです。周りの人をぐんぐん巻き込みながら、大きなうねりをつくっていきました。

彼女が罹患していることを友人づてには聞いておりましたが、本人に直接連絡を取ることをためらっていた時期があります。どう声をかければいいか。わたしにできることなんて、あるのだろうか。うじうじしているうちに、時間だけが過ぎていきました。

「そよん、ひさしぶりー。ランチでもしない?オフィスの近くまでいくよ」

社会人になって、8年目ぐらいの頃。美穂から突然メッセージが来ました。仕事の相談かなー、ぐらいの心づもりで出かけたのですが、彼女のやりたいことを聞いて「え、そこまでやっちゃうの!?」と驚いたことを覚えています。

がんという特別な経験をした人たちが、生きやすく、働きやすい世の中をつくるために。みんなが気兼ねなく集まれて、好きなことを学べたり、話せたりする場を作りたい。「もう自分で物件借りちゃったほうが早いかなと思ってるぐらいなの!」と。(実際にはレンタルスペースを借りて、さまざまなワークショップや交流会を行いました。美穂の「場」へのこだわりは、後述するアクションにもつながります)

このアクションの名前は、Cue!。美穂がテレビ局勤めだったということもあり、「キュー出しをする」(始まりの合図のようなものです)の「キュー」から。また、「Congratulations on your Unique Experience」という意味も込めています。

Cue! の活動も順調に進めている中、ある日、突然美穂からメッセージが来ました。「ちょっと話したいことがあるの」と。(おお、なんだなんだ!?また何かが始まるのか?)

イギリス発祥のマギーズセンターを東京に誘致したい。「マギーズ東京」を作りたい。それが、美穂の思いでした。マギーズセンターは、がん専門病院の近くにあり、病院での治療やケアを補完するような役割をします。プロからのアドバイスを無料で受けられる場。

「がん患者が自分の力を取り戻すための場」として、クラウドファンディングを実施。1100人の方に支援していただき、着工することができました。2016年に、豊洲に無事オープン。がんを経験している人とその家族や友人や医療者など、がんに影響を受ける人たちにとって心地よい居場所として、8年目を迎えています。


CancerXに参加したきっかけ

 マギーズ東京を立ち上げるためのプロセスで感じたことがあります。「当事者以外のあらゆる人が関わることの強さ」です。

(マギーズ東京準備室の皆様と。夜な夜な会議をしていた「暮らしの保健室」にて)
(マギーズ東京準備室の皆様と。浜離宮での撮影)

マギーズ東京の共同代表でもある秋山正子訪問看護師率いる「暮らしの保健室チーム」、美穂率いる「Cue!チーム」(NPOやファンドレージング、クリエイティブのプロが集まっていました)、青山加奈、佐藤由巳子率いる建築チーム。さまざまな角度からプロジェクトを見直し、人脈と経験を活かして夢を現実に変えていく。他人を尊重しながらも妥協しない。今思うとCancerXが掲げているコレクティブインパクトを実践していました。

医療関係者ではない私でもできることがあるかも。できることがあるなら、やってやろうじゃないか。という変な自信がついた頃。今度は、鈴木美穂と半澤絵里奈(CancerX共同発起人)からメッセージが来ました。

「ちょっと時間もらえる?お願いしたいことがあるんだけどー」
「ネーミングとコピーを考えて欲しくて」 
「糸井重里さんにお願いしようか、そよんにお願いしようか、悩んだんだけど」
「そよんにお願いしたいね!!!ってなったの!」

あのまっすぐな2人からのお願いを断れる人がいるのでしょうか(笑)それが、わたしがのちにCancerXという名付けられた活動にジョインしたきっかけです。(糸井重里さんにお願いしたい、というのは、2人が勝手に思っていたことなので。ご本人はまったく知らない話だと思います(汗))

今後の展望

美穂と出会うまでは、がんという病は、わたしにとって「単語」でした。そういう病気があるらしい。それぐらいの知識しかありませんでした。

人の想像力には限界があると思っています。その人がどれぐらいの経験値と知識があるかによって、見える世界も変わってくる。他人への配慮も変わってくる。

コレクティブインパクト。

文字面だけをみると、なんだか意識高そうなワードではありますが。「ちょっとはみ出して、おせっかいになって、関わってみる」ことだと思います。いつもの世界、自分が心地いい世界はそのままに、もう少し興味の輪や活動範囲を広げてみる。そうすることで、出会うひと、こと、ものも、驚くほど増えていくはずです。
ぜひ、CancerXのメンバーと出会ってみてください。WCWの気になるセッションにアクセスしてみてください。「私でもできることがあるかも」「もっと知りたいかも」と、私があの頃感じたような感覚をきっとつかめると思います。

プロフィール

金そよん  Soyon Kim

韓国ソウル生まれ。ソウル、大阪、東京育ち。
東京大学文学部 日本語日本文学(国語学)専修課程卒業
同大学院人文科学研究科 日本語日本文学専門分野 修士課程修了

2006年 博報堂入社。以来、コピーライター、CMプラナー、クリエイティブディレクターとして活躍。
2022年 CLOUDYおよびNPO CLOUDYのCCO(チーフクリエイティブオフィサー)として在籍。
2024年7月 [キキテ]コピーライター/クリエイティブディレクター/ソーシャルクリエイターとして独立。

いいなと思ったら応援しよう!