カムル

元・理学療法士のカムルです。退職後も人の運動変化に興味を持っています。世間では脳をコンピュータにたとえて、「脳が運動を変化させる」と説明されますが、多くの疑問があります。何とか腑に落ちる説明をしたい(^^;)

カムル

元・理学療法士のカムルです。退職後も人の運動変化に興味を持っています。世間では脳をコンピュータにたとえて、「脳が運動を変化させる」と説明されますが、多くの疑問があります。何とか腑に落ちる説明をしたい(^^;)

最近の記事

君たちはどう生きるか-リハビリのセラピストへ(その1)

 私たちが学校で習う脳性運動障害の見方は、今から90数年前の神経生理学者のジャクソンが提案した階層型理論を基にしています。  しかし階層型理論の矛盾が、新しい発見や実験を通して指摘されています。当然90数年前に作られた理論なので、そんなことは当たり前、普通のことです。  しかしながら、日本のリハビリは未だにこの階層型理論を中心に回っています。  この現状をどう思いますか?私たちには新しい理論が必要です。  君たちはどう生きるか?(その2に続く) ※今回の記事は、Fa

    • 状況変化の技法(中編)

       「人(患者さん)は状況変化に応じて自ら適応を図る」というのが前回言いたかったことだ。そして運動システムも同じである。  片麻痺になると半身に広範囲の弛緩性の麻痺が起こる。身体の弛緩状態というのは、可動性のある骨格が水の袋に入っているようなものだ。水の入った袋をテーブルの上に置くと重力によって安定するまで広がってテープルに押しつけられる。  患者さんも床に寝ると、同様に半身は重力によって床に押しつけられて動きにくくなる。座っても麻痺側は重力に従って垂れ下がるので健側の体を患

      • 状況変化の技法(前編)

         ある日、老健の介護主任とユニット担当の理学療法士が相談に来た。  2人が言うには、入所者の北川ウタエさん(仮名)は認知症で入所された。そして入所初日から「私は何でここにおるん?家に帰りたいがどうしたら良い?」とスタッフ、入所者構わずみんなに聞いて回るとのこと。それで入所者はともかくスタッフまで嫌がって次第に敬遠しだしたという。  みんなが避けて逃げるもんだから、北川さんはますますみんなを追いかけて、「なんで逃げるんね!なんで私を嫌うの!私を家に帰して!」とますます興奮気味に

        • CAMRの流儀 その8(最終回)

           リハビリ現場では、「脳はコンピュータ」のように考えられてきた。たとえば従来行われてきた運動学習では、「健常者の運動を学習するために、セラピストが他動的に健常者の姿勢や動きをとらせて、それが運動感覚として脳に入力され、運動プログラムとなる」といったイメージが語られてきた。  それはキーボードからプログラムを入力するプログラマーと同じようにセラピストを考えているようだ。そしてまさしく脳をコンピュータとして理解している訳だ。  「脳って機械のように受身の存在なの?」と言いたくなる

          CAMRの流儀 その7

           さて、人の運動システムの三つ目の作動の特徴は、「自律的問題解決」だ。  人の運動システムはその人にとって必要な運動課題を意識的に、あるいは自律的に達成しようとする性質を持っている。常に必要な課題達成が運動システムの基本的な目的である。  しかし、もし課題達成に問題が起こると自律的に問題を解決して課題達成しようとする作動が起こる。たとえば腓骨神経麻痺が起こると下垂足になって、つま先が床に引っかかって転倒や転倒しそうになる。これでは安全に歩けないので問題だ。そこで膝を高く挙げて

          CAMRの流儀 その7

          CAMRの流儀 その6

             前回までで、リハビリ訓練に用いられる運動課題は「患者さんにとって意味や価値が感じられる」ことと「工夫すればなんとか達成可能である」という二つの条件を満たすことが大事でした。  一方でセラピストの一方的な価値観で運動課題を設定してしまうことがあります。上手くいくこともありますが、重大な問題を引き起こすこともあります。  このような運動課題は、「誤導課題(misleading task)」と呼ばれます。 その代表的なものは、「健常者の様にまっすぐに座りなさい、健常者の様に

          CAMRの流儀 その6

          CAMRの流儀 その5

           さて前回は、必要な課題達成のための運動スキルの生成は「意味や価値のある、工夫すればなんとか達成可能な運動課題の設定」を通して行われると説明しました。なんだか難しそうな印象を持たれたかもしれません。でも実際にはコツさえつかめばそれほど難しくはありません。  今回は具体的に「課題設定の」のポイントを説明します。  これまでも説明したように、人の運動システムは常にその人にとって必要な運動課題を達成しようとします。しかし脳卒中などになると半身に麻痺が現れて弛緩状態になります。弛緩し

          CAMRの流儀 その5

          CAMRの流儀 その4

           前回までは運動システムの「状況性」という作動上の特徴とそれによって分かるリハビリの内容について説明しました。今回は「運動は必要とされる課題によって生まれる-課題特定性」という作動上の特徴について説明します。  人の運動はどのように生まれてくるのでしょうか。  まずは人の運動システムはその人にとって必要な運動課題を達成するために作動します。当たり前と言えば、当たり前ですね(^^;)そしてその人がどのような状況と環境に置かれているかが重要です。(CAMRでは通常「状況」と言うと

          CAMRの流儀 その4

          今年の上田法治療の学術集会 覗いて見ませんか?無料でオンライン視聴!

           今年の上田法学術集会は11月9日(土)午後から11月10日(日)午前にかけて沖縄で開催されます。  特に2日目午前は、医療従事者・福祉関係者・障害児者当事者・ご家族であれば、無料でオンライン視聴できます。  詳しくは以下のパンフレットをご覧ください。

          今年の上田法治療の学術集会 覗いて見ませんか?無料でオンライン視聴!

          CAMRの流儀 その3

           平らな床面しか歩けないロボットが緩やかな斜面という状況変化に対応して歩くためにはどうするか、と考えて見ましょう。  まず次に脚を置く床面が重力に対してどの方向へどの程度の角度の面かを知るためのセンサーが必要でしょう。そして前方への推進力が働いている状態でどのような姿勢でそこに足を置くかを決める計算式も必要です。ついでに言うならそのまた次の一歩を置く場所も予想して決めなければなりません。その一歩を接地するためにたくさんの計算式の追加が必要です。また体の柔軟性で斜面の傾きを吸収

          CAMRの流儀 その3

          CAMRの流儀 その2

           前回、CAMRでは人の運動システムを構造や器官の働きではなく、運動システムの作動の特徴から理解すると説明しました。今回はこのことを少し詳しく説明します。  人の運動システムには,運動を生み出すときにいくつかの作動上の特徴が見られます。ざっと以下に簡単に説明します。 ①課題達成の方法は状況に応じて適切に変化する  オモチャのロボットの歩行を見ると,基本的に同じ運動の形で歩行します。そして平らなテーブルの上では「歩いている」と表現できますが、床面が傾いたりデコボコがあったりする

          CAMRの流儀 その2

          第2回 CAMRベーシック 無料勉強会のお知らせ

          広島市第2回 CAMRベーシック 無料勉強会が開催されます! テーマ:「脳卒中後遺症のリハビリ-もう一つの選択肢を!」 「人の運動システムをどう理解するか?」  この理解の仕方によって、その後のリハビリは随分と変わってきます。  医療的リハビリの学校では、人の運動システムを構造と器官・組織の働きから理解します。たとえば「骨・関節は力に支持と方向を与えます。筋肉は力を生み出し、末梢神経は身体や外部の状態を脳に伝え、脳などの中枢神経系がその感覚から情報を生み出し、状況を判断し、

          第2回 CAMRベーシック 無料勉強会のお知らせ

          CAMRの流儀 その1

           従来学校で教えられる人の運動システムは身体の構造と各部位の働きから理解されます。  たとえば「脳で命令し、神経がその命令を伝えて、筋肉を収縮させ、関節が動く」と理解します。もし腕が動かなくなったら、筋肉か関節か、神経か、脳のどれかが悪いのではないかと考え、悪い部分を探し、それを治す訳です。  この「構造と各部位の働き」から理解するやり方は機械の理解の仕方と同じです。まあ、基本的に人の体を機械のように理解します。もし機械に問題が起きれば、どこの部分が悪いのか探して、その悪

          CAMRの流儀 その1

          患者さんに怒られた!

           昔まだ僕が理学療法士になる前の実習時代の経験です。  ある片麻痺のおじいちゃんを担当することになりました。  その当時学校で何を習っていたかというと、「理学療法士は運動の専門家だから、正しい運動を患者さんに教え、指導しなければならない」ということでした。その頃は僕もかなり素直だったので(^^;)、学校で教えられたとおり「正しい運動である健常者の運動を指導する」という使命で頭が一杯でした。  さてそのおじいちゃんを見るとまさに学校で教えられるような分回し歩行で歩かれています。

          患者さんに怒られた!

          「脚が動かんぞ!」患者さんからの訴え

           片麻痺患者さんが杖を持って立つようになられたので、すぐに歩行を勧めます。「歩いてみましょう!」  初めての一歩を踏み出します。まず悪い方の脚をなんとかかんとか振り出さそうとされます。「ありゃ、脚が全然動かんぞ!どうした?」と言われます。麻痺があるため、脚自体は動きにくくなってます。   「まずは体全体を動かして脚が動くかどうかを試してみましょう。どうやっても良いです。絶対にこけないように僕が助けますから」と答えます。患者さんは最初恐る恐る、次第に色々に大きく体を動かされ

          「脚が動かんぞ!」患者さんからの訴え

          「なんで硬くなる?」片麻痺患者さんからの疑問

           ある日、片麻痺の男性患者さんを担当することになったその初日。   いきなり、「この腕はなんでこんなに硬くなったか?硬くなって動かなくなってしまった」と言われます。「思うようにならん、この腕はもう自分のものじゃない。硬くなって動かんけん、あってもしょうがない。切ってあんたにあげよう」と言って寂しそうに笑われます。  麻痺のある腕は肘が曲がって硬くなり体の前にあります。その腕をさすりながら「なんでこんなに硬くなるんかのう?」と静かに呟かれます。  僕も初対面でいきなりそん

          「なんで硬くなる?」片麻痺患者さんからの疑問