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あの施設もそうだったの!?意外と知らない『指定管理者制度』

日本全国に約4000近くもあるキャンプ場。場所によっては管理人がおらず無料だったり、グランピングができる豪華施設など設備も料金も様々です。ちなみにみなさんは自分のお気に入りのキャンプ場が、どんな人に運営されているか知っていますか?

なんとなく「あそこは行政がやってるから安いよ!」「ここはアウトドアメーカーの直営だからいい値段するんだ。」などの理解はあるかも知れません。キャンプ場には都道府県や市町村など行政が運営しているものや、企業やオーナー個人が運営しているものなど様々な運営形態があります。

その運営形態の1つに『指定管理者制度』があります。行政の施設を効率的に運営するために民間に任せる制度なのですが、この制度について色々思う所があるので少しまとめてみます。

指定管理者制度とは

そもそも『指定管理者制度』とは2003年小泉内閣の時に導入された「公の施設を民間に運営してもらう」ための制度です。「官から民へ!」と小泉さんがよく叫んでました。

指定管理者制度(地方自治法改正)の概要
地方自治法の一部改正(平成 15 年 9 月 2 日施行)により、公の施設の管理について、指定管理者制度が導入された。また、改正前の規定により管理委託している施設については、施行日から 3 年間の経過措置期間中に指定管理者制度に移行することが必要となった。

改正趣旨
公の施設のより効果的・効率的な管理を行うため、その管理に民間の能力を活用するとともに、その適正な管理を確保する仕組を整備し、住民サービスの向上や経費の節減等を図ることを目的とする。

https://www.town.shari.hokkaido.jp/03admini/20machizukuri/files/siteikanriseidogaiyou.pdf

「公の施設」とは公園や道路、図書館や温泉など、住民の福祉を目的として自治体が設置する施設をいいます。公の施設はこれまで原則として自治体の管理、または自治体が出資する法人や公共団体に限られていました。小さな政府を目指していた小泉内閣はそうした施設の運営をノウハウを持った民間企業やNPOへ解放することでサービスが向上し、結果的に住民や利用者にメリットを提供できると考え『指定管理者制度』を導入しました。

指定管理者の選定

公の施設を管理運営する指定管理者はどのように選ばれるのでしょうか?多くの場合は行政の「公募」という形になります。指定管理者の情報は基本的にオープンで、自治体のHPに指定管理者制度が適用されている施設や管理者が記載されています。指定管理者の期間は3年~5年程度で期間満了時にHPに管理者募集の案内が掲載されます。

基本的な選定の流れは下記の通りです。

①募集の案内
②現地説明会&募集に関する質疑
③申請書提出
④選定委員会による面談
⑤指定管理者の決定

募集中の案件がある場合には募集要項や直近の収支情報なども掲載されており、それを見て指定管理者として申請するかどうか各団体・事業者が判断します。リンク先の資料を見てもらえば分かるのですが、選考結果や委員会からのコメントもオープンにされています。

お金の流れ

めでたく指定管理者として選定された場合、施設運営を通じて得たお金はどのようになるのでしょう?お金の流れについても確認しましょう。

まず施設が採用している制度によって管理者がお客さんから受け取ったお金の帰属先が変わります。

利用料金制

管理者が利用者から受け取ったお金はそのまま管理者のものになります。

メリット:管理者が利用者を増やそうと努力する
デメリット:収入が一定ではないので提供サービスが不安定になる可能性がある


収受代行制

管理者が利用者から受け取ったお金は行政のものとなり、管理者は行政から受け取る「指定管理料」により運営します。

メリット:行政の意図するサービスレベルを維持できる
デメリット:営業努力をするインセンティブが働かない

割合としては利用料金制を取っている事業の方が多いです。いくら「民間の力を活かす」と言っても公共の側面が強いサービスもあるため収受代行制が適しているケースもあるのです。

指定管理者制度にまつわるお金

指定管理者制度では「利用料金」「指定管理料」の他にもいくつかお金の動きが発生します。

利用料金:利用者から事業者が受け取るお金。これがサービスの対価になります。
指定管理料:行政から事業者へ支払うお金。事業者はこの管理料をもとに経費をまかない事業を行います。施設によってはメンテナンスや修復が必要な場合もありその費用も含まれることがあります。
納付金:事業者から行政へ支払うお金。固定の金額だったり利益に連動するケースがあります。
自主事業による収入:指定管理事業以外で事業者が自主的に行って得た収入。基本的に全額事業者に帰属します。


ちなみに最後の「自主事業による収入」が曲者で、本来の指定管理事業そっちのけで自主事業に走るケースもあるとかないとか。。そうならないよう、指定管理者に選定された事業者は事業年度毎にモニタリングを受け適切な運営がされているか常にチェックされています。

「赤字になった場合はどうなるの?」と思うかも知れませんが、案件によって対応が異なります。赤字分を補填してくれるケースもあれば、事業者側が穴埋めしなくてはならないケースもあります。指定管理者に応募する際はよく調べておきましょう。

指定管理者制度の課題

一見、指定管理者制度は事業者にとっては行政の設備を利用しながらビジネスを行うことのできる魅力的な制度です。ところが当初の目的とは裏腹に様々な課題も指摘されています。

指定期間の短さ
指定期間は3年~7年と施設によって異なるのですが、事業者の取り組みがたった3年で成果に繋がるかというと難しいものがあります。通常企業はもっと長いスパンでの施策を打っているはずです。指定期間中に想定していた結果が出せなかった場合には次期管理者に選ばれない可能性もあるため、事業者がノウハウを持っていたとしても積極的な施策を打ちづらくなってしまいます。

人材の質
指定期間に付随しますが次期管理者になるかどうか分からない以上、事業者は正規職員を雇用することを躊躇してしまいます。民間のサービスレベルを活かすことが目的の制度でしたが、経済的合理性から人材の教育にお金を掛けられず結局非正規職員が中心となってしまい、顧客満足度も低くとどまるケースが多くあります。(もちろん「非正規=質が悪い」わけではないです。)

設備の修繕
設備のメンテナンスや軽微な修繕も事業者の管轄です。大規模な修繕については行政側が負担するケースが大半で、契約書に「20万円以上の修繕費は市が負担する」など記載されています。そのレベルの修繕であれば運営に何かしらの支障があり事業者からもすぐに指摘があるのですが、直ちに運営に支障はないが数年後に大きな破損に繋がる状態の際に事業者がきちんと対応してくれるか?という問題があります。指定管理者に選定された初年度であれば自身の指定期間中にトラブルになる可能性もあり対応するでしょうが、最終年度の場合はそのまま対応も報告もされない場合があります。

利用料金
これが一番の課題です。指定管理者制度では事業者は利用料金を自由に設定することができません。正確には利用料金の上限が設定されており、上限を超えた料金を受け取ることができないのです。民間事業者のノウハウを活用するのであれば、サービスを向上してもらい値段も上げるのが当然ですが指定管理者制度ではそれができません。一応定期的に利用料金の見直しはあるのですが、料金変更の説明責任が発生してしまうため頻繁に行われることはありません。利用者から受け取れる料金に上限がある以上、数を増やすしかありませんがこの人口減少時代にはとても期待できません。

これらの課題により行政施設に指定管理者制度を導入したものの思った成果を出せなかったり、「行政が運営していた時よりサービスが下がった」と言われる事業も出ているのが実際です。

手を挙げる事業者がゼロになる施設

前述の内容から容易に想像できるように「指定管理者制度で立ち行かなくなる施設」というのが全国的に増えています。キャンプ場や温泉など様々な施設で応募が集まらずに休止・廃止となっています。最近ではスキー場の指定管理者制度に応募する事業者がいなくなり、廃止となるニュースがいくつも出てきました。(スキー場は指定管理者制度が問題なのかと言うと別な要因の方が大きそうですが、、)

「指定管理者」以外の方法へ

そんな中、指定管理者制度以外の形で廃止となった施設を活用する動きが出てきました。「おふろcafe」で有名な温泉道場では指定管理者制度で維持管理ができなくなった温泉施設を、賃貸借契約で再生しています。

余談ですが指定管理者制度が導入されている施設が「行政財産」という括りでなのすが、これを賃貸借契約で一般の事業者に貸す場合には議会を経て「普通財産」に変更しなくてはなりません。これを嫌がらずにやりきる行政は少なく、その点でも越生町の機動力はすごいなーと感心します。

他にも温泉施設を民間に無償譲渡(+土地は賃貸)し、再建するニュースがありました。

指定管理者制度では建物は基本的に現状回復する必要があり、利用者満足度向上のためと言えど大掛かりな改装をすることができません。仮に行政が許可したとしても、指定期間中に投資を回収できるわけがないので事業者側も提案しません。これでは民間の力を存分に活かすことができないのは明らかです。

公共の不動産が遊休状態になってしまった場合に、こうした活用事例・スキームがあるということが全国の行政に認識されればより民間企業もチャレンジしやすくなるはずです。行政から情報発信と民間からの提案で活用事例が増えていくことを期待しています。

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このnoteは代表の個人noteを加筆修正したものの転載です。

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