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ベル・フックス『フェミニズムはみんなのもの 情熱の政治学』(エトセトラブックス)

フェミニズムの初期衝動

自信に満ちていて、堂々とした本だった。フェミニズムという思想の可能性を理解し、すべての人を幸福にする有意義な考え方だと確信している人でなければ書けない本だと思った。フェミニズムへの全幅の信頼がまぶしく輝いていて、読んでいて圧倒されてしまう。まだ十代であった著者がフェミニズムに衝撃を受け、自分の進んで行く方向を照らしてくれるものだと感じた、その興奮と初期衝動が伝わってくるようである。読みながら、私が高校時代にニュー・ウェイヴと出会い、この音楽ジャンルには自分が求めている表現がある! と夢中になった記憶がよみがえった。高校時代の私は、ニュー・ウェイヴこそ世界でいちばんカッコいい音楽だと信じていた。そしてティーンエイジャーだったベル・フックスは、フェミニズムがもっとも先進的でパワフルな思想だと直感していたはずである。そこがなによりすばらしかった。

わたしたちはみな「生まれながらに平等である」という真理に生きることは、可能なのだ。さあ、近くへ来なさい。そうして、フェミニズムがどんなに、あなたの人生やわたしたちみんなの人生に影響を与え、変えることができるかを、ごらんなさい。近くに来て、まずフェミニズムはなんのかを知りなさい。さあ、もっと近くへ。そうすれば、あなたにはわかるはずだ。フェミニズムはみんなのものだと。

子ども時代のベル・フックスさん

フェミニズムを選ぶことは、愛を選ぶこと

この燃えるような前書きから始まる『フェミニズムはみんなのもの』に、私は感動した。フェミニズムを、十代の少女を魅了し、その後の人生を決定づけるほどに衝撃的で、力強い思想として提示するのがすばらしいと思うのだ。ベル・フックスの宣言には、なにしろ迷いがない。「相互の思いやりと助け合いの倫理を強調することによって、フェミニズムは、不平等の結果もたらされた現実を変え、支配をなくす方法をわたしたちに教えてくれる」と解き、「フェミニズムを選ぶことは、愛を選ぶこと」だと言い切るのが、本書の説得力につながっている。本書で扱われるテーマは多岐に及ぶ。対話する(コンシャス・レイジング)、連帯する(シスターフッド)、教育する、性と生殖に関する権利を主張する、作られた女性美から自由になる、経済的に自活する、暴力を否定する、パートナーとのよき関係を継続させる、未来への希望を持つ。どのようにフェミニズム運動が始まり、いかにしてみずからの弱点を克服し、さまざまな変化を遂げてきたかを解説し、コンパクトな1冊でありながら明確なビジョンを示している。

「性差別をなくし、性差別的な搾取や抑圧をなくす運動」であるフェミニズムは、あらゆる人を幸福にする。性別にかかわらず、誰もがしあわせになれるのだ。「男性たちがフェミニズム運動に見いだすのは、自分自身が家父長制の束縛から解き放たれる希望なのだ」と著者は言う。家父長制という重い荷物を背負わされている男性をラクにしてくれるのが、フェミニズムなのである。私自身、男らしさや家父長制の仕組みのなかで、いつも怖い思いをしていたし、怯えていた。どうしてこのように不安であり続けなくてはならないのかと疑問に感じ、半ばあきらめていたのだ。だからこそ、ベル・フックスが「少年たちに必要なのは愛である。知恵と愛情にあふれたフェミニズムこそが、男の子たちの命を救うための唯一の土台となることができる」と書くとき、心から賛同するのである。性別を問わずにフェミニズムを知る必要があるし、フェミニズムには世の中の人びとが揃って幸福になるための方法が満載であると伝えてくれる本が『フェミニズムはみんなのもの』なのだ。

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