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それは突然やって来た!

 ハローワークに通いつつ厳冬の北海道で暮らしていたある日、恩人さまから連絡が入った。かねてよりもう寒いのはゴリゴリだと思っていたので、雪の降らないところで働きたいと話していたことがあった。恩人さまはそれを覚えていてくれていた。しかし恩人さまの会社のスタッフ経由で入って来た求人情報に驚いた。場所は沖縄、しかも締切があと5日後…。それに今日はハローワークの認定日。これは動けと言うことだなと感じたので、年齢的にもダメ元で応募しようと早速ハローワークに出かけた。

 ハローワークでは求職活動なので、何事も親切に対応してくれた。しかし必要書類に『納税証明』とある。実は昨年の夏に隣町から引っ越して来たので、納税証明となると隣町に行かなければならない。しかしである。ただいま自家用車を所有していないので、JRで行かなければならないが、そんなに便数も多くない。しかも役所は17時を過ぎると閉まってしまう。ただいま14時…色々条件は良くないが、今日書類一式を投函しないと間に合わない。しかも速達でもきっとギリギリだろうと思うと、益々気を揉んでしまう。それでも気を取り直して、とことんチャレンジをしてみて間に合わなかったらそれは諦めようと思い直す。とにかく今できることを全てやり切ろう。そう思いJRの時刻を検索する。隣町での滞在時間は40分弱、何とか用を足すには大丈夫だろう。そう考えて、必要書類を送付できる様に準備をしながら列車を待つ事にした。

 隣町での手続きは順調に終わった。困ったのは役場が新しくなり、どこで手続きをするのか全くわからなかった事だ。それでも予定より早く駅に戻り帰宅の途に着いた。駅から自宅まで徒歩で戻るが、既に半分の距離で17時になってしまった。どうしよう、歩きながら考える。本当は今日投函した方が安心だ。でも自宅に戻り履歴書を手直ししないと使えない。今日投函しようにもコロナの関係で本局でさえ24時間対応はしていない。色々な考えが浮かんでは消える。焦っては事を仕損じる、そう思い明日の朝一番で投函する事に決め足早に帰宅した。

 家に着いたのは18時近かった。緊急事態の時は何故こんなに時間が早く経ってしまうのか。とにかく履歴書を完成させないと送付できない。前回作ったものを手直しすると時短できるだろうが、今回応募する職種と履歴の職種が違いすぎて、応用したらかなり役に立つ技を持っている体でスッキリと編集できるかが鍵だ。修正しつつまとめ直して明日朝一番で速達で出す、それしかできない。それでも締め切りに間に合うかは分からない。不安な思いと諦めたくない思いが交錯する中、粛々と履歴書を作り直した。途中恩人さまからも安否確認があり、経過報告をしつつ作業を進めた。大体まとまった時には夜中だった。一旦手を止め頭をリフレッシュしてから、最終確認として目を通してから印刷しよう。そう決めてその日は就寝した。

 翌朝、真冬の北海道は寒かった。石油ストーブで部屋を温めつつ、身支度りして履歴書の最終確認をした。どうしても職歴が長いと色々な役回りがあって、省略しようにも難しい事がある。私は一つの職場で長く働いたが、内部での異動が頻繁で、委員会も多い時で3つ掛け持ちしていた時期もあり、まとめるのは至難の業だった。自分のレジメをしみじみと見つめ、こんなに働いてきたんだな、かなり幅広い事をさせて貰ったんだなと感じた。時間を見ると朝一番の8時には間に合わない。早く出かけないと、途中でUSBからコピーをして書類を出力しなければならないし、写真を貼ったり、封筒に入れたり、投函できる体裁を整えなければならない。モタモタしていると時間はあっという間に経ってしまう。多分遅くとも9時くらいには投函しないと郵便物配送の最初の飛行機に間に合わない。送付する他の書類とUSB、ノリやマジック財布を持って家を出た。

 8時をすぎても外はまだ寒い。それでも酷く凍れた朝でない事が救いだった。厳冬期の2月ではあるが、日中は気温も上がる日もあり、根雪が徐々に溶け大きな水溜りも出来ている所がある。歩道は雪かきで道幅が狭くなっていたり、完全に雪除けされていず埋まっていたり、全体的に雪解けで水没していたりで、とにかく歩きづらかった。何とか郵便局本局に到着し、最終的な封書を作って投函できた。自分でできることは全力で行動を起こし「私、就職したいです」と言う意思表示はした。あとは書類が無事に到着し、結果を待つのみとなった。投函してからも気を揉んでいたが、役場の方から丁寧に「本日受け取りました、これから担当部署に渡しますので、結果が出るんで少しお時間を頂きます。」と言う旨の丁寧な連絡が来た。きちんと届いたんだ…書類が届いたことにほっと胸をなでおろした。

 書類が届いたという連絡から1週間が経過した。そして2週間が経過したころ、さすがに恩人さまも気になったようで合否の確認の連絡が入った。「実はまだ向こうから全く連絡がこなくて…4月から仕事が始まるのに私もどうしたものかと思っています。」とお伝えした。
 採用になったのか否か、果たして自分から連絡をしてよいものか迷ってしまう。先方には失礼なことはしたくないし、採用なら家財道具など全て篩にかけて処分しなければならない。住む場所も決めなければならず、行くための『足』の確保もしなければならない。特に2匹の猫と同伴なので何事も早目に手配しないと間に合わない。やらなければならないことが山積だ。

 だめだ、もう待てない‼︎ そう思い直接電話をして見た。すると、応募のきっかけなど何個か質問され、面接はどの様にするのか確認すると「あっ、これが面接です。」と返答が聞こえて来た。えっ?これ面接?えっ?じゃあ結果っていつ分かるの?私の頭の中は忙しく疑問が湧き出て来た。
そこで思い切って聞いてみた。「この面接の結果っていつ分かりますか?」すると驚きの返答があった。
「え?採用ですよ4月からよろしくお願いします。こちらで住むおうちは決まっていますか?」
えーーーっ!!即採用決定って、いいの?っていうか、年齢的にも採用されるのは厳しいと思っていただけにびっくり仰天で、その気持ちがそのまま声に出てしまっていた。そのあと現地でのおうちの話をして電話を切った。これからやらなければならないことが山積だ。4月1日から就業することになるが、もう1週間しかないサクサク進めないと全く間に合わない。一番の問題は飛行機のチケットだ。ここが保証されていなければ何も始まらない。また現地での住居も決まっていない。ペット同伴で住める所はあるのか? 現在は借家のため、家財道具をまとめて引っ越しをせねばならない。しかし家が決まっていないと引っ越しも何もできない。あぁー、行動しなければならない事ばかりだ。これからの1週間は1秒たりとも無駄にできない。1つ課題を乗り越えると次の課題が出てくる、本当に来る気があるのか試されている様な検問みたいだ。採用された喜びに浸る間もなく、慌ただしく一路沖縄へ向かう準備を開始した。


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