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《写真の保存修復を考えてみた vol.4》~写真の種類と特徴3~ by タケウチリョウコ

今日8月18日の誕生花は「トルコキキョウ」です。花言葉は「優美」「すがすがしい美しさ」だそうです。
高温多湿に負けず、清々しく生きていきたいです。
こんにちは。タケウチリョウコです。

本日も前回記事に続き「写真の種類と特徴3」の【プラチナプリントとサイアノタイプ】編です。

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どちらの写真技法も現在ではあまり制作されておらず、古典技法と言って良いと思います。
しかし写真家の中には今でも、これらの技法で作品を制作している人もいます。
プラチナプリントは名前の通り、材料にプラチナを使用するため高価です。一方サイアノタイプは塩化第二鉄が画像形成の主な材料であるため安価です。
サイアノタイプは「青写真」として最近まで建築図面などに広く使用された技法でもあり、身近で目にされた方も多いのではないでしょうか。


プラチナプリントの色調は灰色から黒色で濃度域が広く細かな粒状性で表現された画像は、非常に美しいです。

スクリーンショット 2020-07-14 14.11.21


サイアノタイプ標本建築図面そして芸術表現としての写真など、幅広く使用されてきた技法です。青の美しさに目を奪われます。

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◾️プラチナプリント Platinum print (1880年代~1920年代)

ウィリアム・ウィリス(英)が1873年に考案しました。画像がプラチナで形成されているので変退色しにくく、格調高い深みのある豊かな階調で再現できるという特徴があります。光に感じる鉄の化合物を紙に塗り、ネガを密着させ太陽の光で焼き付けます。現像をする中で鉄の化合物をプラチナに置き 換えて画像とします。一度はすたれてしまいましたが、現代写真家がその特徴に注目し、今日の印画法として使われるようになりました。
*東京都写真美術館『写真の技法解説』引用

技法説明はGeorge Eastman Museumが公開しているYouTubeチャンネルを。

【主な劣化】
支持体の黄変:悪い環境下での保管または残留化合物により、紙が黄色や茶褐色に変色する現象。

プラチナは貴金属の一つで金属としての状態では化学的に安定しています。そのため画像の変色や退色といった劣化傾向は見られません。
しかし画像を保持する支持体の紙に黄変が見られる事が多々あります。制作の過程で、水洗不足による残留化合物が紙の繊維(セルロース)を汚染し黄変が生じる事があります。
またプラチナ自体が紙の繊維(セルロース)の劣化を促進させ、長い時間接触していた紙(合い紙や包装材料など)を変色させる事例も多く見られます。

*参考資料:
『The Atlas of Analytical Signatures of Photographic Processes PLATINOTYPE』, Dusan C. Stulik, The Getty Conservation Institute, 2013


◾️サイアノタイプ Cyanotype (1842年~1920年代)

ジョン・フレデリック・ハーシェル(英)が1842年に、自分の書いたものを簡単にコピーする方法として発明しました。青いきれいな画像が特徴で、日本では「青写真」と称していました。光に感じる鉄の化合物を紙や布に塗り、乾かしたあとネガを密着させて太陽の光で焼き付け、水で現像します。
*東京都写真美術館『写真の技法解説』引用

技法説明はGeorge Eastman Museumが公開しているYouTubeチャンネルを。

【主な劣化】
退色:画像の濃度が低下する現象。

サイアノタイプの特徴である青の顔料は、アルカリの環境において退色します。保管の際にはアルカリ緩衝剤が含まれていない紙や包装材料の使用が推奨されます。
また暗所で保管された場合は安定していますが、太陽光や紫外線を含む光に長時間照射された場合は画像に変化が生じることもあります。

*参考資料:
『The Atlas of Analytical Signatures of Photographic Processes CYANOTYPE』, Dusan C. Stulik, The Getty Conservation Institute, 2013
『A BLUEPRINT FOR CONSERVING CYANOTYPES』, Mike Ware, AIC, 2003

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今回注目した2つの技法はどちらも画像を形成する材料が金属であるため、写真画像そのものはとても安定しており劣化の症例も少ないです。
しかし、その材料に依存して特有の劣化を生じるため、それぞれの技法に合わせた取り扱いが必要です。
どちらも基本的には紙を支持体としていますが、布地や木片などにも焼き付ける事が可能です。
そのため支持体の材料も考慮しながら保存方法を検討する必要があります。

次回も「写真の種類と特徴」の続きです。【ゴム印画とカーボン印画】編です。
「写真の種類と特徴」コーナーが長く続きますが、本題の「写真の保存修復」にとても密接に繋がる大事なトピックなので、どうぞ引き続きお付き合いのほどお願いいたします。


タケウチ蛇足memo

トップ画像の写真はサイアノタイプです。学生の時、自身が作成しました。
比較的、簡単に作成する事が可能です。支持体となる紙の選択そして支持体に感光材料を塗る時に使用する刷毛の選択が出来栄えに大きく影響します。

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