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【短編(連載)小説】三日月工場の日常 #1

ほぼ日刊で綴りたい、架空の工場の架空の動物型の従業員の日常。なんてことないお話です。

彼女は株式会社クレセントムーンに勤めるアヒル型従業員のエミ。クレセントムーンというのは三日月のこと。夜空の三日月を作る会社なのだ。
会社では広報部で仕事をしている。三日月工場で製作された三日月は夜空へと出荷されるのだが、その夜空に出荷されるまでの宣伝やらなにやらを受け持つ部署だ。
世界にはたくさんの”月”を製作する会社と工場がある。株式会社クレセントムーンはその一つ。クレセントムーンの”三日月”を世界に認知してもらいたい、そう思い日々業務をしている真面目なアヒル型従業員。
エミは今度出荷される三日月のPR映像を確認していた。あれこれチェックしていたらすっかり時間が経ち、終業時間を過ぎていた。
「いけない、もう帰らないと。」残業はできない。昨今の労働環境の改善という国の指令により、この会社でも定時で帰ることを推奨していた。
事務所を見回すと周囲の従業員たちは「おつかれ」と言って帰る支度をしていた。隣に座っているネコ型従業員のさっちの椅子にはもう誰もいなかった。
「あの娘は相変わらず素早いわね」とエミはパソコンの蓋を閉じながらつぶやいた。仕事にもそれくらいの素早さを発揮してほしいところだ。
ふと机の上を見ると、雑多に置かれている可愛らしい文房具と一緒に一冊の本が置いてあった。タイトルは「大川ぶくぶのお日記させていただく。」
エミはふとさっちの顔を浮かべた。そういえばあたしは活字派なの、って話していたような。活字って、これ漫画よね。「何よ!漫画も活字でしょ!」とぷぅっと頬をふくらまして文句を言うさっちの姿を思い出す。
エミはそっとその本を手に取り、少しの間眺めてそっと机の上に戻した。
「帰ろう」
エミは帰りのバスを待ちながら、「”お”日記って、」と思い出し笑いした。

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