【短編小説】政治改革、たった1つの具体案(経過報告)
《あらすじ》
とある星の、とある国の、国政選挙。一人の候補者が異例の人気を集めていた。支援者は彼を救世主であるかのように吹聴し、熱狂した。「どこがいいのか?」「どんな政治をめざしているのか?」「具体的な改革点は?」。これらの問いに、支援者たちは口をそろえる。「今の政治を否定するところ!」「政策なんて関係ない!」「意欲がすべて!」
これらの問いかけに対し、返答をはぐらかすのは、候補者も同じだった。
《本文》
「お前、嫌っていたじゃん。それなのに引き受けたってことは、また金のため?」
「そうだよ。仕事を選べる身分のライターじゃないもん。来た仕事は何でもありがたくやらせてもらうよ」
「来たって、どこからの依頼?」
「支援者。次の選挙のために、具体的な改革策を募集してるんだよ」
「この前の選挙、補選だったかな、出てたよな。話題になってたからちょっと聞いてみたんだが、何をどうしたいんだか、どこを変えたいのか、さっぱりわからなかったもんな」
「あれで当選していたら、ますます政治への不信感が増してしまうよ」
「アイドル選挙じゃないんだからな。人気だけあればいいってもんじゃないもんな」
「金のためなら何でもやるお前が言うな! って気もしないでもない」
「まぁな。否定のしようもないが、金のための仕事でも、ちゃんと中身はまじめに考えることにはしてるよ」
「で、今回のまじめに考えた中身って、どんなこと? 具体的な政策があるんだろう?」
「まだ途中だけど、読んでみるかい」
田舎者、経験・実績がない、態度が大きい、生意気……。前回の選挙で数限りない批判を頂戴しました。
こんな批判はすべてスルー。何もわからない連中が勝手なことを言っているにすぎず、考慮したい批判など何一つなかったのだから。
一つだけ頭を離れない批判がある。
政策がない。
反省しない政治家という異名を持つ私が、汚名、いや異名返上しなければならないのが少々残念ではありますが。
私が掲げる政策は、ただ一つ。
選挙制度改革。
選挙区割りがどうとか、街宣活動は夜8時までとかではありません。選挙の位置づけです。
政治活動のプライオリティのトップ、いや全部といっていいほど選挙しか頭にない政治家が多すぎます。マスコミも選挙上手の政治家をほめそやす傾向が強すぎる気がします。
いくら選挙が上手でも、国民の生活には何らの影響もありません。政治家の生活と職場を守るだけです。
政策秘書として雇われている秘書のうち、何人が政策にタッチしているでしょう。政治には金がかかるとよく耳にするが、政治家が使う経費のうち選挙関連はどのくらいの割合に上るのでしょうか。有名な選挙コンサルタントに依頼すれば、どれくらいの報酬が必要なのでしょうか。
選挙コンサルは、選挙はできても政治はできない。政策を口にしても、選挙で得票につながるかどうかの視点しかありません。
選挙屋、政治屋、政治家。
政治家を、選挙から取り戻し、政治の仕事をしてもらう。
ここまでは見えてきたのだが、これを具体的な政策としてどう盛り込んでいけばいいのか。
政治家の経費を、選挙関連と政策関連に区別して税務報告する。
選挙コンサルタントを使用した場合は、そのことを明記する。
……。
残念ながら、まだ明確なところまでは見えていない。
本日は、たった1つの政策。その方向性が決まったことを報告させていただきます。
「不完全燃焼な気がするが、政策が1つってのは気に入ったな。いくら多く掲げたところで、どの政治家も言ってることは同じだもんな。本気が伝わってこない」
「まさか少子化放置、高齢者福祉反対、教育・給食費補助禁止、差別推進なんて掲げられるわけにもいかないしな」
「なんか、ウソっぽいよな」
「ところでさ、彼、本気で政治家を選挙から取り戻して、政治をさせようっって考えているのかなぁ」
「さぁ、わかんない。とりあえず俺の考えていることを書いただけだもん」
「これ、本気でやってくれたら、彼を見直すけどな」
「無理っぽい」