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【コロナウイルス】全国封鎖から20日目のイタリア。都市部からの帰省者を受け入れる側のカラブリア州での状況まとめと日本のみなさまへ。

イタリアでは2月18日(火)に北のロンバルディア州で最初の感染者(後に国内2人目の感染者であったことが判明)が発生しました。
その後、北伊各州を中心に感染・犠牲になる方が増え続け、記事を書いている現在(3月28日)、イタリア国内の総感染者数66414名、犠牲になられた方は9134名です。
イタリアの総人口は日本の半分の約6000万人。概報のように日本に継いで高齢者の多い国でもあります。

現在、犠牲者はイタリア全土に及んでいて、殆どの人にとって【友達の友達】ぐらいの間柄で重症で入院している方や犠牲になられた方がいる状況です。私の周辺でも、親族・友人の親戚などで入院している人たちがいます。

私は都市部へ就学・就労のために人が出ていく、過疎化の進む田舎の州に住んでいて、当地では3月7日に初めて感染者が発生しました。イタリアで最初の感染者が発生してから18日目のことでした。
感染者は、移動禁止区域・レッドゾーンから緊急帰省した方でした。
当地ではなんとか爆発的な感染者数増加を抑え込んでいますが、都市部から緊急帰省した人が多い地域とその近郊エリアで感染者が増加中で、高齢者用施設内での集団感染も発生(3/27)しています。

カラブリア州内のコロナウイルス感染者数の動向とそれに付随して発生した小さなエリアでの感染者数激増や集団感染・公共サービス従事者の感染は、就学・就労の為に主に若手が大都市部へ出ざるを得ない地域(大抵は医療環境が脆弱で、経済基盤も弱いのでその他もろもろも問題あり)であれば日本でも発生しうる事。
東京でも感染者が増えているとの報道を受け、カラブリア州で今日まで何が起こったのか、コセンツァ県での出来事を中心にまとめておこうと思います。

目次

1.結論! 在伊の私が思う事
2.カラブリア州の概要
3.現在までのカラブリア州内でのコロナウイルス関連動向概要
4.北伊からの緊急帰省者と感染者増加地域の関連性
5.家庭内感染・集団感染に関して
6.全土レッドゾーン化に伴う州の経済損失

7.移動制限される生活で便利な事/気を付けて頂きたい事
8.最後に。日本のみなさまへ


1.結論! 在伊の私が思う事

記事を書いている3月28日の段階でコロナウイルス関連事案について在伊の私が思うのは、以下の5点です。

・都市部からの帰省者は国が強く禁止しない限り絶対に減らない。
・集団感染は発生する。
・国の対応は悲しくなるほど遅い。
・ローカルサービスの充実が必要。
・個人でできる事は、今、自分が感染しないようにする事。

それでは、イタリアの片隅でひっそり起こっていることをご報告しつつ、上記の様に考えるに至った経緯をまとめます。

2.カラブリア州の概要

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イタリアで最初に感染者が発生したロンバルディア州とカラブリア州の位置関係です。直線距離で約1000㎞離れています。
イタリア経済の中心であるロンバルディア州は、日本でいう所の大都市部にあたり、カラブリア州は過疎に悩む都市圏から遠い県、と考えて頂ければほぼ間違いありません。
カラブリア州内には約300万人が暮らしていて、私は北部コセンツァ県コセンツァ市在住。人口約7万人の中規模地方都市です。

3.現在までの州内コロナウイルス関連動向概要 

1月末:中国(武漢)でのウイルス感染問題は遠い地域での事。

1月24日にコセンツァ市では3月中旬に予定されていたお祭り出店希望者への募集締め切り日が広報に載りました。
中国での騒動は「あの中国だからw」といった感覚。

2月1日(土):イタリア厚生省からカラブリア州へのありがたい発表。

イタリア厚生省から「カラブリア州は、感染者が発生してしまったら無理だから!」とのありがたい声明が発表されました。

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高い失業率に悩むカラブリア州は、EUの財政緊縮策も相まって医療環境が脆弱と言われています。
国策として病床数の削減・医療関係者数削減を強いられ、ここ数年のうちでも数軒の国立病院が泣く泣く閉院。救急外来はいつも人でいっぱいな状況は州の人間が一番よくわかっている事。

ここで改めて国から「カラブリアはやばいよ?」と言われ、噴飯な関係者が多数発生。

2月16日(日):ウイルス感染を恐れた北伊居住者の帰省が増える。

この週末、北伊からの帰省者(主に学生)が目立って増えました。
北伊各地で就学中の子息を「念のため」一時帰省させる判断をした保護者が私の周りだけで何人かいます。春休みを前倒しする感覚です。
自宅検疫期間とか何それ? な時期でした。

2月18日(火):ロンバルディア州でイタリア最初の感染者(後に2人目と判明)が発生。

経済の中心であるロンバルディア州は中華系の移住者も旅行者も多く「ああ、それでウイルスを置いて行かれちゃったんだろう」という認識の人が多かったように思います。
観光客の多いローマで感染者が出ていないから大丈夫だろうという感覚は、この時点の南伊各州の共通認識でした。

いま改めて考えると、当地で感染者が発生したら大変だ!という潜在的な危機感から、ウイルス問題を直視できずにいた感があります。

2月21日(金):イタリア国内で初めての犠牲者発生。

イタリア国内(ヴェネト州)で、コロナウイルスによる初めての犠牲者が発生したとの報道がありました。

州都・カタンツァーロ市と州内各地の国立病院救急外来に、コロナウイルス対策としてトリアージが行える臨時専門外来が設置されました。

※イタリアでは基本的に国立病院がコロナウイルス対策にあたっています。カラブリア州では病床数30以上の私営病院から協力の申し出が複数ありました。ありましたが国にお金がないから・・お願いできないのです・・。

2月22日(土)・23日(日):北伊からの帰省者増加。州内で初めての感染の疑い。

この週末だけで、北伊から約1万人が緊急帰省との報道がありました。
関係者の間で移動する人を取り締まれない北伊各州と国に対して溜まるフラストレーション。
空港や主要駅での検査強化の為、州知事は国に軍の出動を要請。

州の空の玄関・ラメッツィアテルメ空港では、仕事の為北伊に滞在し帰宅した人が発熱→要検査となりました。(結果陰性)
同時期、北伊の感染者が多い自治体が移動が制限されるレッドゾーンとなりました。

2月24日(月):コセンツァ市、独自にすべての教育機関閉鎖

この日、国から許可されず州全体での実施はできませんでしたが、コセンツァ市は市長権限ですべての教育機関をとりあえず3月1日まで閉鎖としました。
この決定に、他の多くの市町村が追随。
感染者は北伊を中心に229名。

2月28日(金):州内初めての感染者発生

移動が厳しく制限されているレッドゾーンから緊急に帰省した人が、州内初めての感染者と診断されました。
レッドゾーンと言っても移動の制限・監視体制はさほど強くなかったため、
レッドゾーン内居住地→近くの都市部に移動→高速バスで帰省
という方法でカラブリア州入りされました。
同じバスを利用した28名全員に対して、追跡調査とウイルス検査が行われました。

その後、北伊のレッドゾーンからスキー休暇に行った人がいることなどが判明し、意外とザルな移動禁止策自覚のない感染者による感染地域拡大が強く懸念されるように。
感染者は、イタリア全土で821名。

2月29日(土):

州内の動向とは全く関係ないですが・・私が最後に買い物に外出したのはこの日です。今のところ、約1か月買い物には外出していません。(所用で外出はしています)
仕事も2月中旬には在宅勤務となりました。
外出していないで生活で来ている理由は、この後の「7.移動が厳しく制限される生活で便利な事」で述べます。

3月2日(月):北伊からの帰省者の波、止まらず。

州は北伊からの緊急帰省者に対し、帰省した旨の申告と自宅での自主検疫期間を要請する政令を発表。
公共交通の込み具合と届け出数からの概算では、帰省者のおよそ3割程度しか申告していないことが問題になりました。

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移動の禁止を全国的に発令できない国に対する苛立ちから、市町村長令として独自に帰省者への自宅検疫を義務付ける声明を発表する自治体が増え、コセンツァ市では中央バスステーションでのチェック強化も開始します。

3月7日(土):コセンツァ市内で初めての感染者発生

コセンツァ市での最初の感染者(県内2人目)は、レッドゾーンとなった地域の会議(もちろんレッドゾーン指定前に開催)に出席した薬剤メーカーの方。
この方の感染は、後に重大な集団感染を誘引します。
感染者は、イタリア全土で5061名(前日6日は3916名)

3月8日(日):首長令により、北部4州14県が移動が厳しく制限されるレッドゾーンに。同時に緊急帰省者の大波が訪れる。理由は情報漏洩‼

首長令発令は2時頃。それに先駆け、7日夕方ごろ政府関係者から情報が漏洩しネット上では記事も出回りました。

移動禁止令発令後に居住地から出られなくなるのではないか、と慌てた人たちが大挙して拠点駅に集まる様子が全世界に報道されました。深夜の駅階段を駆け足する人たちの画像を見たことがある方もいるのでは。

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これは翌日の記事ですが、お隣のプーリア州に週末だけで約1万人の帰省者があったものの「帰省しました申告」している人が少ない!という報道。
カラブリア州も1日で約80台の長距離バスが満員で到着するなど、約1万人が週末に帰省しました。州知事からの再三の要請にもかかわらず、この際も約3割のみが自己申告をしたと言われています。
感染者は、イタリア全土で6387名。

3月9日(月):イタリア全土レッドゾーン化。コセンツァ県では医療関係者の大量現場離脱事案発生。

コセンツァ県内の家庭医、約60名が7日に発覚した感染者(薬品メーカーの方)と濃厚接触の疑いがあるため14日間の自宅検疫と全員検査の必要、との報道。
検査結果が陰性でも14日間の自宅検疫が強く推奨されたため、県内の約7万人が家庭医の無い状態に。さらに家庭医からの2次感染の可能性もあり、大規模な一斉検査が行われました。

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コセンツァ市長までもが感染者と濃厚接触があったので自主的な自宅検疫をすると発表。グッバイ、市長。。(軽症でお元気に政務されています)

私はこの日の午前中に所用で外出しましたが、コセンツァ市内でマスクをつけている人が大多数というイタリア的には異様な光景に逆に驚きました。外出している人はマスクと使い捨てのビニール手袋をつけ、他人との間隔に気を付けている。そんな様子をイタリアで見るなんて。
※家庭医:処方箋を発行したり専門医への紹介をするかかりつけ医。
感染者は、イタリア全土で7985名。

3月12日(木):一部空港の閉鎖・市内消毒。

イタリア全土で一部空港の閉鎖が発表され、カラブリア州内は3か所ある空港のうちラメッツィアテルメ空港のみ運行されることに。

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コセンツァ市は、独自に市内消毒を5日かけて行うと発表。翌日から隣接するレンデ市など他自治体も追随します。

このような消毒は県レベル・州レベルで一斉に行うべきではないか、という批判も出ましたが、自治体で出来る範囲のことを精一杯行う市長の姿勢に共感を覚える有権者は多かったと思います。

この日、カラブリア州の状況についてブログで記事にしました。
感染者は、イタリア全土で12839名。

3月14日(土):州内初の犠牲者発生。夜行列車の廃止等、移動の制限が始まる。

まだやっていなかったんかーい! の感がある夜行列車の廃止。合わせて、長距離電車や長距離バスの減便が国によって発表されました。

移動禁止とは言うものの移動を認められている「それなりの理由」がある人たちの為に、国鉄をはじめ市内バスなど公共交通機関は減便しながら稼働しさせていますが、まぎれてこっそり帰省してくる人が多かったのも事実。

カラブリア州内でも特にこの「こっそり帰省者」が多いエリアからは、自覚のない感染者なのではないかという恐怖感から、主にソーシャル上で怒りの声が上がっていました。

カラブリア州内で入院治療中の重症者が1名が亡くなりました。
感染者は、イタリア全土で17750名。

3月17日(火):北伊からの帰省者が原因の集団感染。

カラブリア州内で、北伊から友達がせっかく戻ってきたからと皆で楽しくBBQしたグループから10名ほどの陽性反応者が出たとの報道。(後に感染者がピンポイントで激増し、村ごと閉鎖になる地域です)

若くても野外活動でも感染する!家にいろ! と州内の「バカ予備軍」に向けて州知事が怒りの公報を出す事態に。

この日を境に、目に見えて市内を巡回する警察車両の数が増えました。
コセンツァ市内では、交通量が多かった場所でも1台、2台と数えるほどの車しか通行しないようになりました。
夜でも人で賑わうバーも休業し、街全体がしんと静まっているような異様な雰囲気。
カラブリア州内検査数:1165 陽性:114 死亡:1

3月19日(木):医療関係者間の集団感染の疑い。

北伊からの帰省者Aの親族Bの知人Cを診察した総合病院勤務の医師が陽性反応。後にAもBも陽性。
Cは、Bの親族に北伊からの帰省者がいること・濃厚接触をしている事を知らなかったというケースです。

これにより、地域中核病院でコロナウイルス検査・感染者専門病棟もある総合病院の、約半数の医療関係者がこの医師と直接・間接的に接触の疑い→自宅検疫→全員検査に。

検査結果が陰性でも安全の為14日間の自宅検疫期間を設けることになり、病院は全ての外来を閉め、予定されていた医療ケアは全て延期の上、入院患者のケアとウイルス対策だけに絞っての運営を余儀なくされました。
知らずに医療関係者が集団感染し、医療制度が崩壊しかかった州内初めてのケースです。
感染者は、イタリア全土で33190名。
カラブリア州内検査数:1769 陽性:169 回復:2 死亡:3

3月20日(金):コセンツァ県内消防士集団感染

北伊での任務から帰宅、その後通常業務についていた消防士から、県内の消防士57名が集団感染の疑い→自宅検疫中との報道。

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これは21日の記事ですが、発生は20日。コセンツァ県外から応援を呼び、なんとか14日間「消防」としての形を保つことに。
感染者は、イタリア全土で37860名。
カラブリア州内検査数:2141 陽性:207 回復:2 死亡:4

3月22日(日):カラブリア州全域をレッドゾーン化

州知事令で、州全域がレッドゾーン化。カラブリア州への出入りを厳しく制限することがやっと可能になりました。

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州知事令が出たことで重要な理由なく州内に立ち入りことが出来なくなり、これでやっとやっと北伊からの緊急帰省者を厳しく取り締まることが可能に。
感染者は、イタリア全土で46638名。
カラブリア州内検査数:2872 陽性:273 回復:5 死亡:8←後日7に訂正

3月23日(月):独自に人の出入りを監視する自治体の増加。

首長令で不要不急の外出がさらに厳しく取り締まられることになりました。

州内では、3月18日から増加傾向だった自治体の入り口にバリケードを築き、人の出入りを厳しく監視する町村が増えました。
人口3000名程度の村域でも、感染者が2名程度発生すると「ピンポイントでの感染爆発の恐れ」と判断、村の入り口にバリケードを置くなどして村自体をクローズし人の出入りを厳しく管理。感染の拡大を抑え込む最大限の努力をするように。

同時に、感染者・感染者との濃厚接触の疑いがある人が一切いない山間部の過疎地域では、感染の疑いのある人を村域に入れない為に村全体をクローズするところも。

カラブリア州では、かなり早いうちから自治体の長が可能な限りの権限を使って住民保護・ウイルス対策に乗り出しました。
コセンツァ市の独自学校閉鎖の判断、市内消毒の判断などはその最たるものだったと思います。

国のポンコツぶりと州政府の動きの遅さは、もちろん国や州のだけの責任ではありませんが、地元の経済活動を無視した村域完全クローズの判断には、自治体の身軽さが特に印象に残りました。

感染者数は、イタリア全土で50418名。
カラブリア州内検査数:3144 陽性:292 回復:5 死亡:7

3月27日(土):高齢者用施設で集団感染発生。全員検査の実施。

州内でウイルス検査を開始後初めて1日の感染者数増加が前日から+100名を超えました。

このうち、州内の2軒の高齢者用施設で約60名が陽性と診断され、閉鎖空間内での集団感染が初めて観測されました。(4/1にその後について以下に追記しました)
これを受けて州知事は、医療従事者・医療関係者・養護施設の児童や高齢者用施設利用者を含めた集団生活をしているすべての人・入院患者に対し全員検査を実施することを決定。
入院中の方は、重症になりやすいとされる疾患のある方から順に検査を行うと発表しました。

感染者は、イタリア全土で66414名。
カラブリア州内検査数:5385 陽性:494(内344名は自宅療養) 回復:7 死亡:18

4/1 高齢者用施設内集団感染について追記
3/27:約60名の集団感染発覚と報道
3/30:入居者・職員のの93%(74名)が陽性、51名が入院待ち。そのうち30名が発熱し、9名が重症のため緊急に入院が必要、2名がベッドで亡くなっている状況で発見されました。
3/31:さらに7名死亡。46名がまだ入院待ち。午後から順次入院先へ搬送
4/1:全員の入院手続きを完了

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4.北伊からの緊急帰省者と感染者増加地域の関連性

・帰省者について。

都市部からの帰省者には以下の3パターンしかないと思います。

・パニックの人
・帰省せざるを得なかった人
・とりあえず帰省しておくか、の人

カラブリア州の最初の感染者は、北イタリアからの帰省者でした。
帰省者を受け入れる自治体がどれだけ自宅検疫期間を徹底させることが出来るか、が感染者数爆発を防ぐ鍵なのではないかと思います。

パニックにろ帰省せざるを得なかったにしろ、国が人の移動を禁止しているのでなければ帰省者は受け入れられるべきです。
受け入れる側の自治体は、帰省者に対するいわれのない差別や誹謗中傷が発生しないよう努力する義務があると考えます。
同時に、帰省者に向けて地元での感染爆発を誘引してしまう恐れがある事を周知し、自己申告や自宅検疫間を設けるよう徹底させる何らかの方法を発案する必要があります。

イタリアに関していえば、感染者が短期間に激増したロンバルディア州は、州知事が国に何度もエリアのレッドゾーン化や集中病棟設置を働きかけていましたが、国の対応が遅れました。
結果、自覚のない感染者たちが自治体を跨ぐ生活をし、あちこちに感染者を増やしました。
さらに、厳しい移動制限を伴う全土レッドゾーン化の情報が洩れ、実家に戻れなくなるかも!とパニックになった人たちが、北伊からの緊急帰省者と言う形でイタリア各地に散らばりました。

カラブリア州はこの帰省者を受け入れる立場でしたが、州知事による「戻ってくるな」の公報も意味がなく、主要駅や空港などでの検疫(それも資金が無くて結構ザル)が精いっぱいの防衛策でした。

・北伊からの帰省者と感染者発生地域の関連性

カラブリア州内に北伊各州からの緊急帰省者が目立って増えたのは2月16日以降です。
その後3月22日の州完全クローズまで、毎週末それぞれ5000人~1万人が帰省したと言われています。

州内最初の感染者となったのは北伊からの帰省者で、2月28日に感染が確認されました。その後、現在(3/28)までに州内の以下の村が感染者急増を理由に州知事によりクローズになっています。
※()内は所属県名と人口、クローズになった日。太字は自治体の長も感染の村。

Montebello Jonico (RC・約6100人・3/16)・San Lucido (CS・約6100人・3/17)・ Serra San Bruno (VV・約6500人)・Cutro (KR・約1万人・3/21)・ Rogliano (CS・約5800人) ・Santo Stefano di Rogliano (CS・約1700人・3/20)・Bocchigliero (CS・約1300人・3/24)・27日にはCZ県内5村(Chiaravalle Centrale, Soverato, Cenadi, Torre di Ruggero, Valle Fiorita)が追加されました。

3月8日、国内移動禁止になることを恐れた人たちで北伊の主要駅が溢れかえりました。その約1週間後(3/16)から、小さな村域というピンポイントで感染者急増が発生し村全体がクローズと言う事態が州内で発生し始めています。(州全域のクローズは3/22)

リストにある地域は在住者での感覚で、どこも「ああ、貧しいな」という印象の場所です。大きな産業は無く農業か観光に頼るしかない過疎の村。
普段、外との交流が少ない過疎の村だけに感染者が集中し、職種に関係なく・一族郎党すべてが感染者になるケースもあるのに周辺の地域ではほとんど感染者が発生していないのは、その村に/その家族のところに外から感染者がやってきたとしか考えられない状況です。

カラブリア州では感染者が発生すると、居住地と性別・年齢も公表されます。(場合によっては氏名も公表)
このような村から出る感染者は、その多くが60歳以上。高齢者(60歳以上は高齢者らしいですよ)は重症化しやすい、と言われているウイルスだけに、帰省を考える方には今一度帰省する理由を熟考いただきたいです。

そして繰り返しますが、国が移動を禁止していない以上、地方自治体と居住者は、帰省する方を暖かく迎える準備をお願いします。
同様に帰省者も、地元感情と地元民の安心・安全に配慮した行動をお願いいたします。

5.家庭内感染・集団感染に関して

・家庭内感染について

カラブリア州の3月27日の段階でのコロナウイルス感染者状況は以下のとおりです。

検査数:5385 陽性:494(内344名は自宅療養) 回復:7 死亡:18

陽性と診断された方のうち、約7割が重症者でなく自宅療養をしています。
イタリアにおいて自宅療養とは、バスルーム付きの客間で上げ膳据え膳の生活を指しますが、この環境が準備できない家庭の場合、高い確率で家庭内感染が発生していると考えられていて、この家庭内感染者が外に買い物に出る→他の人にうつる、というのがカラブリア州内での感染パターンのうちの1つです。

他州では、スーパーのレジ係が感染してしまった、というニュースもありました。
なので、州内の一般的な考え方として「他人はみんな感染の疑いのある人」というものがあります。他人は信用ならん! のです。

繰り返しになりますが、医療環境脆弱なカラブリア州ですので、病院に行ったらヤバイわけです。故に感染しないためには家から出ない。他人に会わない。これが最も大事であることは広く周知されていて、全体的におこもり生活が限りなく遵守されていると思います。

・集団感染について

カラブリア州では2月28日に最初の感染者が発生。
これに先立ち、コセンツァ市では2月24日から大学までのすべての教育機関が閉鎖されていたため、児童や教職員の間での集団感染は発生していませんが、現在までに集団感染として大きな事案は以下の3件が発生しました。

・薬剤メーカーの人から60名の家庭医と多くの医療関係者へ
・消防士から57名消防士へ
・訪問者もしくは医療関係者から60名ほどの高齢者用施設利用者へ

上の2件に関しては、クラスターとなった人が北伊の感染者が激増した地区に仕事の為に滞在していたことがわかっています。
それぞれ甚大な被害が出かねない事案で、上記薬剤メーカー勤務の方は、その後重症化し3月19日に亡くなっています。

リスト最後の高齢者用施設利用者での集団感染は予断を許さない状況で、今後重症化する人が増えた場合、カラブリア州内に残っている病床数では対応できない可能性もあります。
この高齢者用施設での集団感染が北伊からの帰省者増加の後に発生していることから、以下の2通りのルートが考えられています。

・自覚なく感染していた帰省者が入所中の高齢者に挨拶に行った
・入所者ケアを行う医療関係者が、何らかの方法で感染していた

状況的に最も怪しいのは、自覚のない感染者(帰省者)が入居者に挨拶に行って入居者感染、建物内で集団感染発生!のルートなのですが、現在調査中とのこと。

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この他、

・地元テレビ局員が感染→局内8割が自宅検疫で通常放送できず。TV放送時間を縮小し、建物内消毒が済むまで庭から放送した(国営放送地方局)
・軍警察内で8人感染(3月28日)

など、10名程度の感染者がどっと出る集団感染は気を付けていても発生してしまう模様です。

病床数が限られ、病院設備も人員数も何もかもヤバイと言われるカラブリア州では、とにかく自分が感染しないことが重要で、家にこもっていられる人は外でお仕事をせざるを得ない人たちに感謝しながらこもっている。

この考え方が徹底しています。病院行ったら逆にヤバイ!な感覚が一般的だと、結局みんな自分がかわいいから家にこもっている。の典型です。
でもそれが、当地では一番良い方法なのではないかと思います。

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↑は、雪を見たくて友達と外出して見つかっちゃった、カラブリア州南部(ほぼ雪が降らない地域)のおバカさんたちの記事。

全体的に「病院がヤバイ」の危機感を持っていても、どんなに「感染するよ。家庭内でうつるよ。親しい人が亡くなるかもよ」と言っても、どーしても外出したいおバカさんはいる。
きっと日本も同じでしょう。

何度も繰り返しますが、

・自覚のない感染者が帰省してくるのは絶対に防げない。
・帰省者を受け入れるエリアの行政は、受け入れ態勢を整える必要がある。
・帰省者とその家族に、健康でも感染している可能性がある事、家庭内感染と集団感染を引き起こしてしまう可能性があることを自覚していただく。
・帰省者を受け入れる側の居住者は「外にいる人は感染しているかも」の気持ちで動いていただく。でも、帰省者にも理由があるのだから、優しく迎えてあげてね♡の周知は必要。


感染者激増や病床が足りない!という事態を防ぐために、上記は絶対必要であろうと考えます。

6.全土レッドゾーン化に伴う経済損失

具体的な数字について、公の発表はまだありませんが、実感としてとてつもない損失であることは感じられます。

カラブリア州内では、4つ星クラスのホテルが3月9日ごろから「当面休業」となっています。州が完全クローズとなった3月22日以前に、自治体の中では独自に村内宿泊施設休業を強制した場所もありました。
友人が州内で家族経営する4つ星ホテルでは、3月初旬から休業中、6月までに予定されていた宿泊予約・パーティー(150名規模の結婚式や誕生日会)予約がすべてキャンセルされたとのことです。

飲食店は3月初旬から段階的に休業しており、デリバリーは可能となっているものの「外から運ばれるもの」への恐怖感から利用している人は多いように感じません。(紙ごみの日にデリバリー用の箱とわかるゴミが一切ありません。。これはコセンツァ市での実感で、他地域では異なる事もあると思います)

さらに、3月11日からは特定の業種以外のすべての企業活動ができなくなりました。在宅勤務化が不可能な業種は開店休業状態が続いています。

国は一部自営業者への救済措置として600€の一時支給(予定)、困窮家庭用の食品クーポン発行(予定)など、可能な限りでの財政支援を行う様ですが、そもそも国にお金がないのでどこまで実施されるのか不明です。
経済支援の仕方如何で、今後EUのあり方が、国が大きく変容してしまう過渡期であることは皆が感じています。

カラブリア州では、3月6日に非公式に行われた州規模の経済会議で観光業・飲食業を中心に州内企業(自営含む)の約3割は夏までに倒産の危機にあるとの試算が発表されました。
会議開催時、一連のウイルス騒動は5月末には終息しているだろうと言う楽観的な考え方が主流だったので、この予測は今後悪化する可能性が大きいです。

州内には3月17日に経済問題専門のタスクフォースが結成されましたが、活動実績が見えてこないですね。カラブリア、あるあるですね。。

7.移動が厳しく制限される生活で、便利な事/気をつけて頂きたい事

全土レッドゾーン化が20日目に入ったイタリアで、おこもり生活を続けるうえで便利だったこと、気を付けたいことを以下に列記します。

イタリアでは現在、不要不急の外出は禁止され必要な際は「外出自己申請書」を携えて外出します。
とはいっても、

・認められている仕事の従事者は普通に出勤します。
・必要不可欠な外出は認められています。お買い物・犬の散歩はOKです。

仮に日本で外出禁止の法令が出ても、お買い物や犬の散歩に出ることはできるだろうし、物流は止まらないはずです。
この状況でトイレットペーパーを大量に買う必要が全く理解できないですが、まぁ人それぞれですものね。トイペは腐るもんじゃないし。いっぱいあると安心されるんでしょう。(買いすぎはダメだけど)
というわけで、おこもり生活をするうえで「これは良いな」と思う事ご紹介します。

便利な事・お勧めな事

・小売店による配達サービス

北伊からの帰省者が多く、外出が制限され、そして他人は全員「感染を疑うべき人」に見えるカラブリア州では、だいぶ早い段階から営業を許可されている店舗が配達サービスを開始しました。
このサービスのお陰で、私は2月末からお買い物のための外出していません。

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こちらは地元のチーズ屋さんの広告。20ユーロ以上の購入で配達無料を掲げています。
おつりが無いようにキリが良い額で注文すると便利! などというトリビア情報も出回り、私が住む集合住宅(約20世帯)ではエレベーターを介して人と人が出会うことが無い方法で品物のやり取りをしています。
ご参考までにやり方↓

・電話で注文
・商品お届けカーがお届け時間(目安)のお知らせTel
・地上階の指定の場所にお金入りの封筒を置いておく
・商品到着→呼び鈴を押してもらい、地上階の扉を開ける
・商品をエレベーターに乗せもらい「乗せましたぁ!」と叫んでもらう
・自分でエレベーターを呼ぶ→居住階で品物受け取り
・お金の場所を指示。配達員の「受け取りましたぁ!」で完了。

この配達サービス、農協組合参加の農家・上記の様なチーズ工房・肉屋や魚や・スーパーなどほぼすべての店舗が対応していて、外出を一切しなくても良い環境が整っています。お水など重い物もエレベーター内まで乗せてくれるので、かえって便利です。
この、デリバリーで何でも買えるという安心感は、スーパーでの買いだめ行為の抑制にもつながっているように感じます。

外出先で他人と会うことがすでにリスクなので、日常生活に必要な物の購入を配達で済ませることが出来るシステムは非常にありがたいです。
配達員さんも、商品受取人に会うことなくお仕事できればwin-winだと思います。

・高齢者も使いやすい、おしゃべりの場

南伊は広場文化で、カラブリア人は広場に出て行ってはいつも同じメンツでおしゃべりしたりお茶しないと寂しくて死んでしまう人種なのですが、自分の命の為のおこもり生活を余儀なくされる中で、コセンツァ市民はバーチャル広場を生み出しましたw

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コセンツァ市に実在する広場をバーチャルで再現。アプリ入れれば誰でもバーチャル広場でおしゃべりできる、というもの。
どちらかと言うと高齢者に人気の様ですよ。。。
日本の、特にご近所付き合いが盛んな地域では情報交換・・というよりもおしゃべりの場として有効と思います。

・フラッシュモブ

なんとなく一体感が欲しい寂しがり屋のイタリア人は、おこもり生活が始まった当初、毎日18時に窓辺で××しましょう! なフラッシュモブで各店舗閉店・外出禁止という非常事態の緊張感を和らげていたと思います。

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国歌を歌う日があったり、携帯などでライトを照らす日だったり。医療関係者に向けて拍手したり、犠牲になられた方を想い黙とうする、という日もありました。
TV、ソーシャル上で情報が回り、全国的に外出が厳しく制限されるようになった当初、数日間にわたって企画されていました。参加はもちろん自由です。全国規模の物、地域的な物、色々あったようです。

外出できない状況に慣れてきた現在は行われていませんが、様々な人が色々な不安を抱えていたであろうおこもり生活当初はそれなりに意味があった活動と思います。

・各社が出している無料サービスの一覧の作成・配布

イタリアでは、美術館がバーチャル美術館を開館したり、出版社が無料で本を読めるようにしたり。さまざまなサービスが開始されました。
そのようなサービスを一覧にしている地元密着型のニュースサイトもあり、これが例外的に公報で紹介されているため、普段はソーシャルネットワークサービスを使わない層でも簡単に情報にアクセスできるようになりました。

日本もすでに同様のサービスが広く行われているようですが、一覧になっているのを見かけたことがりません。
公の機関でも、ぜひご一考いただきたいサービスです。

・経済困窮者への配食サービスの充実と募金

イタリアでは、基本的に全てボランティアで経済困窮家庭や貧困者(路上生活者)へ向けての慈善活動が行われています。

不要不急の外出が禁止されている現在でも、この慈善活動は続けてOKと早いうちから通達がありました。
経済困窮家庭への配食サービスは、本来慈善活動団体の食堂で行われていた給食サービスを配食に変更した物で、配食にかかる実費(ガソリン代など)は募金と市からの助成金で賄われていて、コセンツァ市内の各団体には助成金を使わなくても大丈夫なほど募金が集まりました。内容については市が公報で積極的に報告しています。

経済困窮者が安心して暮らしていられる自治体に住んでいるという安心感は、地域で助け合いながらこの危機を乗り越えるという一体感と、何かあってもこの自治体なら大丈夫だろうという安心感を先述のフラッシュモブと同様与えてくれていると思います。

気をつけて頂きたいこと

・詐欺行為
州内で感染者が出始めたころ「ウイルス除菌に来ました」や「この商品は感染予防に効果的です」「これを食べれば安心です」といった詐欺が横行しました。
外出が厳しく制限されている現在、このような詐欺師も外出できなくなり、おそらく活動の場をWEB上に移していると思われますが、いつの時代にも出現する、悪質な詐欺です。
日本でも恐らく出て来る(もう出てる?)ので、十分に気を付けてください。

・正しい情報の取得

どの報道を正しいと思うのか、そもそもソコが問題ですが・・官報、日本の報道機関のニュース、外国の報道機関のニュースなどから情報の取得をしてください。

主にソーシャル上では、根拠不明の「ウイルス対策に効果的!」な情報や、イタリア在住者が知らないイタリア政府による一時金支払いのニュースなどの偽情報がさも事実の様に出回っています。偽情報は一部のインフルエンサーなどによって拡散されているようで、私もいくつか目にしました。

私が思うに、今、私たちができることは、自分が感染しない事・他人にうさないようにする事だけのはずですので、センセーショナルな情報に接した際は心を落ち着けて査読し、正しい情報入手して心がける様にして頂ければと思います。(自戒も込めて。)

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6.最後に。日本のみなさまへ

カラブリア州では状況的に北伊から帰省した人、北伊に滞在した人が感染の核となって周辺に感染が拡大しています。

カラブリア州で最初の感染者となった方は、まさしく北伊から高速バスで帰省した人で現在も重症の為入院されています。
日本でもすでに都市部から帰省する人が出ていますが、受け入れる側の自治体では、

・水際(空港・長距離バス停留所や主要駅)での検査強化
・帰省者へ自宅検疫要請と家庭内感染のリスクについての啓蒙

が絶対に必要です。
最初に述べた、在伊の私が思う5つの事を再度記載します。

・都市部からの帰省者は国が強く禁止しない限り絶対に減らない。
・集団感染は発生する。
・国の対応は悲しくなるほど遅い。
・ローカルサービスの充実が必要。
・個人でできる事は、今、自分が感染しないようにする事。

先述のとおりイタリアでは、知り合いの知り合いぐらいの距離の方で、重症化されている方や亡くなっている方がいる状況です。

政治的な判断についての正誤は全くわかりませんが、外出禁止20日目を迎えるイタリア在住者としてただ一つ言えることは、自分が感染しないようにする事。これに限ると思います。

都市部からの帰省者によって感染爆発が起こりかねない状況のカラブリア州の現状をご紹介することで、今後、日本国内で少しでも感染を免れる人が増える様に願ってやみません。

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カラブリア州はそれは美しい州で、ご飯もひたすら美味しい素朴な土地柄です。今はひっそりとしてしまっていますが、いつかこの地でみなさまにお会いできます様に。

澤井 英里

出典:Protezione civile, Regione Calabria, Il Reggino, Qui Cosenza

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