明の鉄筋相談 パート1

誤解の無いようはじめに申し上げておく。
私は硬派であると。

大阪の会社に勤めていた時などは、月に1度は上司数名にスナックに連れていかれた。
そして、「若いヤツから歌え。」と最初のマイクを押し付けられていた私は、いつも決まって尾崎豊氏の"15の夜"を歌っていたほどの硬派なのだ。

会が中盤から後半に差しかかるあたりで再びマイクが回ってきたらば、同じく尾崎豊氏の"I LOVE YOU"を歌っていたほどの硬派なのだ。

この先の内容をご覧いただくという方は、私がそのように硬派であることを念頭に置いて読み進めてほしい。

私は30年間の人生の中で一度も”道行く女性に突然声をかける”というナンパとやらをした事がなかった。
取り立てて興味があるという訳でもないが、このままでいいのだろうかという思いもあった。

10年後くらいにお酒の席で、「昔は、俺もね、、、」などと若者相手に微笑をたたえながら色っぽくグラスを回せなくてもいいのだろうか。
「今は家庭を大事にしたいんだ、、、。」と言って遠い目をしなくてもいいのだろうか。

答えは明白だ。

それに、若いころに遊んでいた男は、結婚後の遊び心に歯止めをかけられるとも言うではないか。
ろくに遊んでいなかった男は、なにかのきっかけでキャバクラなどにドハマりするという話も聞く。

若いころの遊びが忘れられずに所帯を持っても隠れて遊びにはしるという考え方もあるが、まぁそれは一旦、棚に上げておくとしよう。

得られる効能はそれだけでなく、人見知りの私が道行く知らない女性に声をかけることに成功したあかつきには、鉄の心を手に入れたと言っても過言ではないだろう。

そう、これは私がナンパ者なのではない。
あくまで、"決して折れない鉄の心"を手に入れるためであり、一種の"所帯を持った時の備え"でもあるのだ。

備える相手もいないお前に歯止めなど必要ないじゃないかと思ったあなたは廊下に一時間立っていること。

「よし、ここで一つ、ナンパというやつをやってみようではないか!」

そんな気持ちを、とあるプロジェクトでご一緒させていただいているK氏にお伝えすると、「次のプロジェクトミーティングでやりましょうよ!」という流れになった。
今年の6月にK氏がセッティングしてくさったそのプロジェクトミーティングの場所は、ビルの2階にある某居酒屋の窓際席に決まった。

プロジェクトメンバーの方々にとっては、ミーティングついでに私の初ナンパを2階の窓から観覧するという楽しげなイベントが追加されたのだ。
そして、Kさんが取りもってくださったプロジェクトミーティングの出欠表が、いつのまにか"明の鉄筋相談"というタイトルにすげ変わっていた。

これは私にとって好都合でもあったと言える。
いわゆる”コミットメント”によって退路を断ったのでもうやるしかない。
そして、失敗したとしてもメンバーの方々からの慰みを受け取ることができるという万全の体制が整った。

「あとは実行あるのみ!」
と意気込んでミーティング当日を迎えた。もちろん無策で挑むわけもなく、「これは!」と思える秘策を用意していた私なのである。

つづく


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