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フランス人、来たる

事のはじまりは今年の2月に送られてきた一通の電子メールであった。

フランスの学生を名乗る人物から届いたそのメールには、大まかに以下のようなことが記されていた。

「私はフランス、パリにあるエコールブール工芸学校に通う学生です。
塗装技術を先行しており、日本の漆塗りにも興味があります。
半年くらいインターンシップを希望します。」

いきなりやな!と思ったが、特に断る理由もなく、話のネタにでもなればいいかと思って条件付きで返事をした。
「給料は払えない。住む場所の手配はできない。つまり、金銭的な援助は一切できない。それでもよければ私はかまわない。」

条件に従うという返事が来て、早くもインターンシップ生の受け入れが2019年9月開始で決まる。
そして、「ソレジャ、日本カラ滞在ビザノ取得ヨロシク。」みたいなメールも送られてきた。

海外旅行をしたことがなく、パスポートすら持っていない私は「ナンデスカ、ソレハ」となった。
事務的な手続きなど向こうの学校でやるんだろうと思っていた私には寝耳に水であった。

「ソレハ コチラデ シナケレバ ナラナイノデスカ?」と問うてみた。
自分で調べた情報も合わせると、下記のような事情であった。

海外から日本への長期滞在ビザの申請をすると、手続きに半年以上待たされることも珍しくないらしい。
一方、日本から受け入れ側が申請すると、書類に問題が無ければ2週間ほどで手続きが終了するらしい。
なので、後者の方が早くて確実らしい。

なるほどね、そりゃ日本側から手続した方がいいわ。

しかし、、、しかし、、、

「こんなん後だしジャンケンやんけ!!!」

先に言うとけと思ったが、すでに受け入れを表明した後であり、「やっぱやーめたっ!」とも言い出せずビザの取得を引き受ける事にした。

長期滞在ビザにはたくさんの種類があり、今回の場合は日本の伝統文化や芸能を習得するための「文化活動」という項目にあたるようだ。
そして、その取得は行政書士に任せるのが一般的な例らしいが、そんなお金は無く焦る。

というのも、フランスの美術系大学は最終学年に自分で海外留学先を探して半年以上のインターンシップをすることを卒業要件としていることが多いらしい。
つまり私のビザ取得の可否が、遠い異国の学生の卒業の可否も握っているという事ではないのか。

とはいえ、やはりお金を払ってビザ取得を代行する気もさらさら無く、お決まりの「自分でやる」というのを選んで3月頃から情報を集め始めた。
知人のツテを頼るも、ビザ取得に関しては全滅だった。
プレッシャーを感じてはそれを解消するためにちょこちょことビザ取得の作業をするも、必要書類が多いため思うように進まず、4月が過ぎ、5月がやってきた。

フランスの学生もなかなか良い報告が来ないことにしびれを切らしてか、定期的に進捗を尋ねるメールをよこしてきてさらに焦る。
そのたびに私は、「長期出張が、、、」とか、「専門家に相談しなければいけない高度な事案のため、、、」などという返事で時間をかせいでいた。

もちろん相談相手となる専門家などは存在しないのだが、すべては異国の学生を安心させるためだ。
世の中にはついてもいい「優しいウソ」というのがある。

そして、留学開始まで3か月と迫った6月、これはいよいよ留学生の卒業に関わるぞ!?と悪夢を見始めた私は急いで事を進めた。
入国管理局に通うこと数回、度重なるダメ出しを受けた末に、ビザ取得の許可証が送られてきたのには我ながら驚いた。

つづく


みなさまのご支援で伝統の技が未来に、いや、僕の生活に希望が生まれます。