メンデルスゾーン「音楽だけの一夜」― 江崎萌子さんに聞く
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メンデルスゾーン「音楽だけの一夜」― 江崎萌子さんに聞く

フェリックス・メンデルスゾーン生誕210年から2年…もっとメンデルスゾーンが聴きたい。水面下で、進行し続けていたメンデルスゾーン企画がありました。

メンデルスゾーンが短い生涯の最後まで書き続けてきた「無言歌集」。
アンコールや数曲の抜粋で演奏されることの多いこの作品集だけで構成された、贅沢かつ貴重なプログラムをいつかカフェ・モンタージュで聴いてみたいというのは、長い間あこがれていた願いでした。

その願いは、ピアノの江崎萌子さんが引き受けてくださいました。
2019年の6月、江崎さんがフォーレのピアノ四重奏曲公演で大変素晴らしいピアノを聴かせてくださった、その終演後にお話をしたことがきっかけでした。パリ国立高等音楽院を修了され、その年にライプツィヒのメンデルスゾーン音楽院に進まれたばかりの時期でもあった江崎さん。偶然、その頃にリサイタルで数曲を演奏した「無言歌」を、もっとたくさん演奏したいと思っていらっしゃったとのことだったのです。

それから2年、ドイツと日本を往復される中での長い時間をかけて、選曲そして演奏の順番にも並々ならぬこだわりをもって20曲からなるプログラムを組み立てていただきました。

明日の公演を控えた江崎さんに、お住まいのライプツィヒのこと、メンデルスゾーンのこと、今回のプログラムについてお聞きしました。


高田:最初にお越しいただいた時には、まだパリにいらっしゃったのでしたね。2017年、だったと思いますが。そして今はドイツで、しかもライプツィヒ…。

江崎:はい。2018年の6月にパリで修士の勉強を終えた後に一度日本に帰っていたんですが、2019年の1月からライプツィヒに渡りました。

高田:ライプツィヒを選んだというのは、どのような理由で?

江崎:そうですね、、パリはとにかく刺激の多い街で、外からの刺激を自分に取り入れることがほとんどだったんですが、次にその取り入れたものを外に出すということを考えたときに、もう少し落ち着いた雰囲気の中に身を置きたいと考えて色々と検討している中で、ライプツィヒが選択肢に上がって、先生も見つかって、、という流れだったと思います。

高田:ライプツィヒは刺激の面では落ち着いている…?

江崎:はい、パリとは全然違いますね。ライプツィヒのトーマス教会でバッハの「ヨハネ受難曲」を聴く機会があって、それは聖金曜日のことで音楽会というよりは年中行事のようなものなんですが、子供連れの家族とかたくさん人がいて、長い時間ずっと黙って聴いていて、そして終わったら拍手も何もなしでそれぞれ静かに帰るだけ(笑)。もうびっくりしました。なんて国だろう!って。
それまではじっくり考える時間も、練習してそれを実行に移すという時間もあまりないという感じだったのですが、ライプツィヒではまったく生活が違います。それこそ180度変わったと言っていいくらい。

高田:音楽が生活に溶け込んでいる。憧れますね…。行ったことないので。

江崎:そうなんですか?来てくださいよ。絶対好きですよ!

高田:うおぉぉ。

江崎:で、メンデルスゾーンハウスも結構最近リニューアルされてて、その中で小さなコンサートが主催されたりしていて。

高田:メンデルスゾーンが最後に住んでいたところですね。コンサートは江崎さんも出演された?

江崎:はい、演奏しました。博物館もあって、ものすごく立派な施設です。そして私の通っている大学が「フェリックス・メンデルスゾーン・バルトルディ音楽演劇大学」といって、メンデルスゾーンが創設した音楽院がもとになっているもので、メンデルスゾーンという名前がものすごく近くにあるイメージですね。

高田:それまでは、メンデルスゾーンってどういう存在でしたか。江崎さんにとって。

江崎:なんでしょう。有名な作品はあって、よく演奏はされるけれど、なんとなく過小評価されてる作曲家というイメージだったような気がします。でも、街の音楽シーンの立役者ということで、ライプツィヒに住んでからはとても身近で、そしてより大きな存在として感じるようになりました。

高田:メンデルスゾーンは有名な作品、例えばヴァイオリン協奏曲でもピアノ三重奏曲でも、作曲家の手を離れて完全に独り歩きしてるようなところがあるでしょうか。その作品がどのようにして生まれたとか、そういった情報がそぎ落とされていて、ただそこに音楽があってそれを聴く人がいるという状態。音楽とすればメンデルスゾーンのあり方が理想かも知れないですね。

江崎:確かに、そうかもしれないです。無言歌も、私が自分の個人的なものとして演奏していいのかなという部分が多いです。

高田:クラシックって「本当」とか「正統」とか、そういうところも評価基準になってくるようなところが、メンデルスゾーンはただ「音楽」としてその場で共有されるという。

江崎:無言歌も題名とかはいらないって。

高田:作曲家自身がそう言ってたみたいですね。

江崎:ほんの数曲にはタイトルがあるんですが、いずれも描写的なものではなく、どちらかといえば音楽の形式を表しているに過ぎません。

高田:今回の公演でも、プログラムに題名は書かなくていいですよね。

江崎:はい、そう思います。私もほとんど意識していませんので。

高田:メンデルスゾーンの無言歌集は全て6曲からなる全8巻。そのうちの第6巻までが生前に出版されています。第1巻から第4巻まではメンデルスゾーンが23歳の頃から3,4年おきに書かれていて、5巻と6巻は晩年のほぼ同時期に書かれています。7巻と8巻はほぼ晩年に書かれて未出版だった作品を、メンデルスゾーンの死から4年後と21年後にそれぞれ遺作としてまとめられたものです。

江崎:メンデルスゾーンの生涯にわたって書かれた、いわば作曲家の日記帳のような作品集ですが、今回は1時間のプログラムとして20曲を大きく3部に分けて考えました。
はじめの4曲は導入として第1巻と晩年の第5巻から2曲ずつを調性の流れで組みました。そして、曲集としての完成度が素晴らしい第6巻 op.67を全6曲まとめてお聴きいただきます。この第6巻はこれからもセットで演奏していきたい作品集です。
ここまでの10曲が前半、そして後半は残りの5つの曲集から10曲を自由にプログラミングしました。選曲にあたっては、全8巻を全て演奏してみて「この曲の後にはこれを聴きたい」という感覚と、実際の演奏の感覚の両方がしっくりくることを基準に1曲ずつを選びました。

高田:前半は、導入部分としての4曲とマスターピースである第6巻の全6曲を、そして後半は江崎さんがこの夜のために組み立てた10曲を「言葉のない歌」という一つの曲集として演奏されるということですね。

江崎:前半はオーセンティックなコンサートでのメンデルスゾーンプログラムとしてお楽しみいただければと思います。そして後半のプログラムは、実は自分なりにストーリーがあるんですが、それは自分の心の中に留めておいて、音楽だけをお聴き頂いて皆様にどのように受け取っていただけるか。人によってまったく違うストーリーとなっても、またはある一曲、ある一瞬だけでもパーソナルな感情が聴いている人の中に芽生えることになればいいなと思っています。

高田:言葉のない、音楽だけの一夜。明日がとても楽しみです。ありがとうございました!

江崎:ありがとうございました!


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2021年7月25日(日) 20:00開演
「無言歌集」
ピアノ:江崎萌子

https://www.cafe-montage.com/prg/210725.html


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