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複雑な民族・宗派地図、ペルシャ湾岸地域の食を知るための10皿

ホルムズ海峡でのタンカー攻撃事件などを受け、イランと米国の間の緊張がにわかに高まっている。そんなペルシャ湾岸地域でも人々は、いつもと変わらない日々の生活を送っている。今回は、彼らの食文化を紹介してみたい。

ざっくり言うと、ペルシャ湾の北側はイラン領。ペルシャ人や、同国では少数派のアラブ人が暮らす。南側は、サウジアラビア、UAE、クウェート、カタール、バーレーン、イラクなどの国があり、住民はアラブ人。ただし、サウジなどの産油国には、南アジアや近隣アラブ諸国から働きに来ている外国人労働者も多数暮らす。

宗教・宗派でいうと、イスラム教シーア派を国教とするイラン側には、シーア派住民が圧倒的に多いものの、アラブ系住民などにスンニ派もいる。

南側の湾岸諸国は、イラクを除くと、王家、首長家といった統治勢力はスンニ派。一方で住民はシーア派も相当多く、多数派を占める国もある。民族的にも宗教・宗派的にも、単一ではない複雑な事情を抱えた地域である。イランだけであるが詳しい宗派・民族地図を見つけたので紹介する。

とはいえ、食文化に関していえば、民族・宗派で大きく分断されているわけでもなく、ペルシャ湾岸地域に共通する食文化、というものはある。まず挙げるべきは海の幸だろう。

①魚フライライス

写真はマナガツオのフライがのっているもの。クウェートの総合市場の中の食堂で食べた。魚介類の料理法は、「焼く」「揚げる」「スープ」ぐらいで非常にシンプル。でも、水揚げ地と近いこともあり、どこの国でも食べても他の食材に比べてもそこそこ安く、おいしい。

②エビフライ

写真は、イランのホルムズ海峡に近い港町、バンダレ・アッバースで食べたもの。海水温も高いせいか、エビがともかく大きい。イランでは独特なニンニク入りのタルタルソースのようなものをつけて食べることも多い。

③カブサ(丸ごと羊のご飯のせ)

ペルシャ湾南側のアラブ人が多い地域では、カブサと呼ばれる羊を丸焼きにして、たきこみご飯の上にドーンと乗せた料理がある。アラビア半島の料理、といったほうがいいかも知れないが、海沿いの人々も食べる。

この写真は、UAEを構成する首長国のひとつ、フジャイラで結婚式におじゃました時のもの。ともかく豪快だ。

④マンディ

上記カブサと似ている料理だが、肉の調理法が異なる。地面に穴を掘って作った窯でじっくりと焼くのがマンディ。もともと、イエメンのハドラマウト地方の伝統料理らしいが、ペルシャ湾岸地域のアラブ人の食文化にも入り込んでいる。サウジアラビアのシーア派都市カティーフで食べたことがあったが、じっくり熱して醸成された羊肉のうまみは口では言い表せないものがあった。

⑤南アジアのカレー

湾岸アラブ地域に共通しているが、出稼ぎでやってきたインド、パキスタン人などが伝えたカレーが、外食としてペルシャ湾岸地域にも浸透している。店は出身者でにぎわっており、本場の味なのではないか、と思う。

⑥中華料理

湾岸アラブ諸国のショッピングモールなどには、中華料理の店もよく入っている。好きな料理を何品か選ぶ、プレート飯、のようなものが多かったと思う。まあ、そこそこイケる。

⑦寿司

日本を代表する海外向け料理、寿司。湾岸アラブ地域でレストランは増えている。素材はいいものがあるので、うまさは、料理人次第ということになるだろう。

⑧黒ハチミツ

「黒クミン」と呼ばれる植物の蜜で作られた黒いハチミツ。これが濃厚かつまろやか。印象に残る味だった。

黒ハチミツは中東各地で作られているようだが、サウジアラビアのものが有名。サウジ人のハチミツへのこだわりは強いようで、首都リヤドのスーパーには、ハーブの「タイム」のハチミツなど、さまざまなハチミツが店頭に並んでいた。

⑨デーツ(ナツメヤシの実)

デーツは、中東に特徴的な乾燥果実であり、ペルシャ湾岸地域だけ、というわけではないが、イラン側、アラブ側のあちこちで、ナツメヤシの木をみかけた。

⑩アラビアコーヒー

浅煎りの豆で作るアラビア半島式のコーヒー。カルダモンの風味も強く、大量には飲めない。油っこい食事の後に口をさっぱりさせるのにぴったり。

以上、「ペルシャ湾岸地域」というくくりで、その食の一端を紹介してきた。すでに述べたように、国家、民族、宗教・宗派の境界線が複雑に入り組んでおり、まとめて「これ」と言いにくい面もある。この地域で現在進行中の政治・軍事的緊張も、そうした複雑な地図が背景にあるといえるだろう。「食」からもその辺を感じとっていただければ幸いだ。

(ヘッダー写真は、イラン南東部バンダレアッバース港の魚市場に並ぶマグロ)

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