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お客様が店を潰すかもしれないということ〜内輪ノリしたお店は成立するのか〜

東京カフェの歴史の中でカフェ開業ブームとなったのは2005年頃。
そして、ブームの終焉とともに、カフェが次々と倒れていったのが2008年頃から。
これが私の見てきたカフェの歴史です。

なぜ、このような結果になってしまったのか。
カフェが乱立しすぎて過当競争となったのはもちろんのことですが、それでも生き残っているお店はありました。

では、どういうお店が潰れていったのか。
その一つが「内輪ノリになったカフェ」。

お店ができると、そのお店を気に入った人達が「常連客」となります。
そこで留まってくれればいいのですが、中には自分達がお店の中で「特権階級」にいると勘違いして、お店のスタッフのサービスを独占する、他のお客さんの迷惑を考えずに我が物顔で振舞う。もっと酷い話になると、コーヒー一杯で何時間もお店に居座る。
一方でカフェオーナーも、お店をオープンさせた時点で自分の中でゴールになってしまっていることに加え、常連客がついたことに嬉しくなってついつい過剰サービスをしたり、ワガママを受け入れたりする。

その結果、お店が内輪ノリになってしまい、大多数の人から「お店に入りづらい、居づらい」と敬遠され、売り上げが伸びなかった結果、経営が回らなくなってしまう。
もちろん、これだけが理由ではないですが、大きな要因の一つです。

時は流れて、コーヒーブームとなっている現在。
昨年、とあるコーヒーショップが残念ながら閉店してしまいました。
閉店の理由はいろんな要因が重なってのことだと思いますが、「カウンターやレジの前で、あんなに常連客にたむろされるとお店に入れないよね」という声がいろんなところから聞こえていたので、内輪ノリも要因の一つだったようです。

一方で、最近のコーヒーショップを見てみると
「我々はお客様を贔屓しますので、ぜひお店に「通って」ください」
「私達は私達の好きな人やモノに囲まれてカフェをやっていきたい」
ということを公言し、内輪というものを容認するお店もあります。

こういうお店もいずれ潰れてしまうのか。
現状は、たくさんのお客さんが通い、繁盛しているように見えます。

ということで、このようなお店が成り立っていけるのか。
少し、考察を加えてみたいと思います。

お店の経営を考えた時、お店の売上は以下のとおり表されます。

お客さんの数×客単価×回転数

内輪ノリのお店となっている場合、お客さんの数と回転数が犠牲になっていますが、これを補うだけの客単価があればいい。
つまり、ものすごくお金を使ってくれる常連客を捕まえられれば、お店としては成り立つことになります。
ただ、カフェでそれだけのお金を使ってもらえるかというと、ちょっと厳しそうです。

ただ、これは経済合理性に基づく考え方なので、そうでない場合は少し話が違ってきます。

お店の経営を重視すると「売上は多いほうがいい」となりますが、カフェオーナーが「最低限、これだけの売上があればやっていけるから、多くは求めない」という考え方だと、自分が求めるだけの売上を稼げるだけの「内輪のお客様」がいればお店として成り立ちます。

冷静に考えると、内輪ノリを排除して、多くのお客さんに受け入れられたとしても、お店にもキャパシティーがあるので迎えることができるお客さんの数は無限ではありません。
多くのお客さんに支持された結果、「行列ができる」、「混雑していて落ち着かない」といった不満が出てきて、離れてしまうお客さんもいるかもしれません。
そうなると、あえてお客さんの数を減らすことで、残ってくれたお客様の満足度は向上し、結果としてリピート回数や客単価の向上に繋がっていくかもしれません。

また、今回のケースと、過去にあった内輪ノリしたカフェの決定的な違いは、前者は「お客様がお店にすり寄っている」であり、後者は「お店がお客様にすり寄っている」ということです。
つまり、今回のケースだと、お店にとってマイナスとなるお客さんは排除しやすいし、カフェオーナーとしてもストレスなくお店を運営していけるのでお店の雰囲気も良くなる。そういったこともお店に残ったお客様の満足度の向上に繋がっていくように思えます。

こうやって振り返ると、過去に倒れてしまったカフェは「お店にとってお客様のクオリティーが低かった」なのかもしれません。
言葉は悪いですが、「そこに来るお客様も、お店のクオリティーの構成要素」というのは一つの真実ではないでしょうか。

多くのお客さんに支持され、迎え入れることで売上やお客さんの数を増やしていく。
お店の運営としては真っ当なやり方ですし、ビジネスモデルとしても王道なのは間違いありません。
ただ、そこから一歩離れて、「自らが求める売上が確保できることを前提に、適正な規模とクオリティーを追求する」というのを考えてみるのも、お店として成立させる一つの方法なのかもしれません。

10年くらい前に出版された、「トレードオフ」という本では、「上質を取るか、手軽をとるか」というテーマで多くのビジネスケーススタディーを取り上げていましたが、今回のケースも、この話に近いような気がしています。

多くの人に受け入れられるオープンな世界を作るか、万人受けしなくても、価値観の合う人達にとって居心地のいい世界を作るか。
正解はないけれども、お店を作る上で考える必要があるテーマではないか。そんなことを思う次第です。

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