きみと喫茶店に行きたい

君と付き合う前に、私には一つ夢があった。

喫茶店で君とお茶をすること。


君に告白をするかしまいか、ぐるぐると思いを巡らせていたのは11月。息もつけないような日々の合間を縫って行った美容院では、雑誌の双子座の欄に「繁忙期です」。あの時は特に忙しい日々だった。初めて2ヶ月を超える稽古の演出をした。バイトを新しく始めた。テスト週間だった。いっぱいいっぱいだった。朝星野源を聞いて泣いた。恋愛運の「追い風です」という言葉だけに背中を押されてちょっと人生初の告白でもしてみようか、という気持ちになった。今思えば、忙しかったからこそ冷静になれずに勢いづいてしまったのだと思う。

言いたいことあるから、今度会お〜 

なんて、めちゃくちゃ緊張しているくせに「会お〜」とか打って。緊張をかき消すみたいに、日々の忙しさから逃れるみたいに、部活の同期と酒を流し込んでいたら、その夜はらしくもなく不在着信が一通だけ、きていた。

一通の不在着信で、私はその次の日に会いに行くことを決めた。





「おれもすき」

え、

「でもな、」

え?

「おれは忙しくてあんま時間とか作ってあげられんから、付き合わん方がええと思うねん」

えー。

「でも、それでもええんやったら付き合お」

え〜


「わたしかれしとわかれたの。(30分の間)すきになっちゃった」に対し初めに出たのは「なんで彼氏と別れたん」だった。その次。「つきあいたいってこと?」。

「つきあいたいってこと?」

つきあいたいってこと?ってどういうこと?

好きという気持ちが通じたときに、人は付き合うものだと思っていた。

私は君が好きだったので、よく分からないなりに「うん。」と言った。「うん。」はあまりにも口に馴染まずに、ただ狭いだけの君の部屋に浮いた。私は、付き合いたいのだろうか。付き合うとは、なんだろうか。一瞬そんなことを考えた。


もうほぼ4ヶ月前のことだ。

4ヶ月も前のことなのに、未だに「つきあうってこと?」は私の後ろからついてくる。どんなに走っても走っても、見えない角度で、影のようについてくる。


ふと思う。つきあうってことは、喫茶店にお茶をしに行くことなんじゃないだろうか。理由もなくふと喫茶店に入り、君は紅茶を頼むだろうし私は得意でもないコーヒーを頼むだろう。君はいつものように煙草を吸うだろうし、私は妙に年季の入ったアンティーク調のスプーンなんかで卵の薄いオムライスでも食べるだろう。

そういうふうに、互いの日常になることができたらいい。好きあっているのだとしたら。


…そういえばボロボロのポイントカードを持っていたよね。家の近くのさ、あの、おじいさんがやっているところ。

今度いこうよ。時間があれば。

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