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大の大人が本気で勝負していた場所はかっこいい - フォードVSフェラーリを見て父との関係を考え出す。

「無駄な投資」とは一概に言えないんだけど、絶賛公開中のル・マンを舞台にした「フォードVSフェラーリ」を見てきた。

正直いうと、この映画を見に行くことにはものすごく葛藤があった。

理由は父親との関係性が大きい。実は、数年会話をしていないくらい、とある出来事で疎遠になっている。

僕は、実家から近所にサーキットがあり、父がカーレーサーだった時期もあるため、小さな頃は毎週のようにサーキットかメカニックのガレージで時間を過ごした。

自然と、車に詳しくなり、将来の憧れの職業はカーレーサーだった。

色々な方との交流などを通じて、この職業がいかに特別に選ばれて、アスリートとしての努力をした人たちだけが立つ権利のある場所だとも刷り込まれるように叩き込まれていた。

だから、ほとんど物事の原体験に近いものが今では「音楽・サブカル」と言っていただくことが多いけれど、実際はスポーツカーだ。

そこで父との関係性での出来事を思い出すことへの不安感もあり、公開から足を運ぶことをためらっていた。

きっかけは・・・SNSや知人の感想で「チームワーク」についての投稿が目立ち、最近忙しさに負けて「心が震えていない自分」の中でレースに熱狂する大人の姿を見て、もう一度「感情で動き出す自分」なのか「今はそうではないのか」を確かめたかった。

ストーリーは、1960年代、黄金時代を築いていたフェラーリを倒すために、自動車量産の父親とも言える家庭用の自動車を販売していたフォードがふとした会社間の関係から

ル・マンで相手に勝ちたいとアメリカ唯一の点サーカーデザイナー、キャロル・シェルビーとその友人である破天荒で扱いずらい天才的なカーレーサー、ケン・マイルズとそのチームがフェラーリに立ち向かうという名目のもとフォードGT40という名車を開発し、闘いの舞台に向かっていく・・・ということになっている。

しかし、結局は手工業で工房的にレースカーや市販車を製造しているフェラーリと、市販車で巨大なビジネスをしているフォードの思想の違いが浮き彫りになってきて、純粋に「フェラーリ倒す!」と開発に勤しんでいるシェルビーのチームに対して、マーケティングや、企業の見え方を気にして横槍を入れていく上層部との間の溝が浮き彫りになり、チームリーダーのシェルビーを悩ませていくことになる。

そこから先は映画を見てもらいたいのです。が、色々と思い出して、考えるきっかけになった。

このル・マン24時間耐久レースというのは、フランスのサルテサーキットで行われる。純粋なサーキット部分は1部で、それ以外は地元の一般道も走る。しかも、視界が遮られる夜の時間が半分以上ある。そこを300km以上で駆け抜けていく。

はっきり言って正気の沙汰ではない。

でも、なぜか大人たち(自動車メーカー)は、このレースで優勝することに熱狂し、感覚が麻痺したように毎年参加していた。

もちろん、単に車が早いだけでは勝つことはできないし、チームワーク、車の耐久性も求められるため、最終的にはここで活用された技術が市販車に落としこまれることが多く、

最新の技術開発に応用される部分もある。

しかし、それだけではない。謎の熱狂が大人たちを狂わせる。この年に一度の大会には禁断の果実のように大人たちを狂わせる。

企業にとってはものすごい回収できないかもしれない投資をすることになる。

でも、この映画を見て感じたことは純粋に、「本気になる大人、かっこいいじゃん」だった。

これレースで勝つことは特別なことだと参加する人は大体がそう考えている。単純なマーケティング負けでは片付けることのできない何かが潜んでいる。

もちろん、生きて帰れない可能性も高い。

僕は、フォードチームやフィアットに買収されたフェラーリとの関係性とか、そういう内容について詳しく論じるというよりも、その空気を改めて感じることができたことが一番の収穫だった。

初めてロックバンドに出会ったようなあのドキドキ感をストーリーの中から見つけて思い出すかのように。

今は、時代が時代なのでどんどんメーカーが撤退して、一番の上のクラスではトヨタしか出場しないような時代、

だけど、主人公の1人、ケン・マイルズとジャッキー・イクス(天才。フォードが4連覇した最後のドライバーでその後ポルシェ黄金時代の優勝レーサー。6回優勝している。)とトム・クリステンセン(アウディでル・マン最多優勝をしているドライバー)の誰が一番凄いんだろう・・・だとか、フォードGT40とポルシェ917(早すぎてレギュレーション変えられた)と優勝はできなかったけれど、最速とも言われた日産の90年代のマシンとか、ジャガー、メルセデスが強かった時代だとか、ポルシェ919ハイブリッド(最後のポルシェワークスカー)のどの車が一番早いかな・・・同じレギュレーションで勝負したらどこのメーカーが一番すごいのか見てみたいなとかそんな気持ちしか残っていないという。

言葉は悪いかもしれないんですけど、大人が本気で無駄な投資をしてムキになる場所って今あまりないので、「そんな大人、かっこいいぜ」と昭和の自分は思ってしまったのです。

そう考えると、劇中でのフォード2世の決断するシーンもシビれるんですよね。あの後半に至る流れって本心だったのかな。とかも含めて。結局、ヨーロッパメーカーとの思想の違いや、自動車量産の元祖だったフォードとしてのプライドや歴史がそうさせたのかとか考えを巡らせてしまった。

単純なレースの映画だけというよりも、見所はたくさん。

・レースはかっこいい
・チームワークについて考えられる
・大人の熱狂について「やるべきこと、やりたいこと」を本気でやるプロの姿勢が感じられる
・理不尽さの中で実を貫くか友人の葛藤に向き合うかを見つめ直す
・大人の事情を言わざるえ終えない中でどう選択するのかが見える。

などなど。

もともと、「男子義務教育だろう!」と言われていた部分をこの時代に改めてフォーカスしてくれたこと、すごく嬉しかった。

全てが正しいわけではないけれど、大事だよ!ワクワクしようよ!

ここで気になる事があれば、欧州車のスポーツカーを1度でも試乗する機会を持ってもらえると嬉しい。

お金や環境を意識した(それも大切な時代です)もの以上に、「自分の五感で思い通りに動くプロダクトで神経を研ぎ澄ましながら操作できる快感」ってはっきりいうと病みつきになる。

自分に翼が生えたみたいな気持ちになる。僕にとっては、ポルシェがそれでした。父に言われたことは、「スポーツカーは聴覚と神経で運転しろ」だった。

父との関係が良好だった頃は、毎日そんな話をしていた気がする。最終的には1台の車の扱いを巡って色々ありすぎてしまった結果なんだけど、もし、この映画の話をしたらどうなるのかな。

知ってる。自分の持つスポーツカー(ものは伏せます)をいつでも乗れるようにメンテナンスしてくれていることも、僕が生まれて初めてサーキットを走るときに、レース用のシューズを譲ってくれたっことも。

少し複雑な葛藤に支配されている。

うまくまとまらないんだけど、それくらいに考えることがありすぎた1本だった。もはや映画の出来とか関係なく。

とまぁ、そんな1日でした。

このレースに参加するメーカーさんやプライベートチームの方は本当に尊敬する応援したい企業です。

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