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評価の基本,ASA-PS分類


 麻酔科の術前評価には必ず記載されているASA-PS.電子カルテや手術室の管理システムにも記載欄があり,当然麻酔台帳にも入力が必須になっている術前評価の基本中の基本分類です.

ASAとは・・?

 ASAはAmerican Society of Anesthesiologistsの略で,アメリカ麻酔科学会🇺🇸のことです.同学会が提唱したPS:Physical Status(身体の状態)のためASA-PSと呼ばれます.ちなみに日本麻酔科学会はJSA🇯🇵です.

具体的に・・

 ASA-PSは通常5段階(1〜5),特殊な場合6段階(1〜6)に分けられています.緊急手術に関しては数字の後ろに”E”(Emergency)をつけます.

本家本元の表はこちらから.

ASA-PS1:元気だぜ!

 基本的に持病もなく,一般的な健常人です(A normal healthy patient).一番安心して麻酔をかけられます.

ASA-PS2:持病あるけど基本元気だぜ!

 軽度の全身疾患がありますけど,コントロールされており,特にそれにより日常生活に制限が生じていない状態です(A patient with mild systemic disease).
 ちゃんと定期的に病院に行っており,内服や食事・運動療法等で状態の良い高血圧や糖尿病,病的でない肥満,呼吸器症状のない喫煙患者などが大体2と評価されますね.
 麻酔に関しても特に神経質にならずに済む患者です.

ASA-PS3:持病のせいで困っている・・・

 重度の全身疾患があり,それにより日常生活に支障をきたすレベルの患者です(A patient with severe systemic disease).
 ASA-PS2の持病のコントロールが悪かったり,病的な肥満,ペースメーカ植込み患者,高度の肝機能障害,透析患者,虚血性心疾患や弁膜症などにより心機能が低下している患者などが3と評価されます.ただ,ぱっと見はそう見えない患者さんも多いです.
 麻酔に関しても適切にポイントを把握して管理しないと,術中術後の合併症を生じてしまうリスクがあり,気を使いますね.

ASA-PS4:命が危険な状態です・・

 ASA-PS4がつく患者は「誰が見ても危ない」とわかる命に危険が迫っているレベルの患者です(A patient with severe systemic disease that is a constant threat to life).
 最近の心筋梗塞や,重症の弁膜症,心不全状態,ショック状態,敗血症患者などなど,誰が見ても重症とわかるレベルの患者さんです.
 日頃よく遭遇する症例としては,緊急冠動脈バイパス術や絞扼性腸閉塞,消化管穿孔による敗血症などで緊急開腹手術などですね.術中のバイタル管理も大変になることが多いです.

ASA-PS5:手術しないと助かりませんが,手術しても厳しいかも・・

 ASA-PS4がさらに悪化している患者です.4で言及した疾患も病状が進行すると5と判定されることもままあります.
 救急病院では,胸部や腹部の大動脈瘤破裂,交通事故による重症多発外傷,重症の頭蓋内出血,体外循環(ECMO)が必要な呼吸不全や循環不全患者,腸が完全に壊死している絞扼性腸閉塞,重症肝不全,多臓器不全に陥っている患者が相当します.
 生きるか死ぬかの手術,手術をしても助からない可能性が十分ある患者さんなので,手術も麻酔管理も手術室看護師さんも大変な症例です.

特殊例:ASA-PS6:臓器移植ドナー(脳死患者)

 その名の通り,脳死状態に陥っており,生前の意志により臓器移植ドナーとなり臓器移植手術が行われる予定の患者さんです(A declared brain-dead patient whose organs are being removed for donor purposes).

実は麻酔科医によって評価が異なることも・・

 ASA-PS1か2か,あるいは3か4かは迷うことはあまりありませんが,2か3かは麻酔科医によって評価が別れていることが多く,ある患者さんで2と評価した後,過去の手術のカルテを見ると3と評価されていることがあります.
 また,高齢で持病があっても元気なら2,高齢なので予備能が低下していると判断して持病があれば自動的に3,とする麻酔科もいます.
 絶対的な基準ではなく,診療点数もそれにより変わることもなく,麻酔方法が2だとこれ,3だとこれ,というものがあるわけではないのでこういったことが生じます.迷ったら慎重を期してより高いASA-PSに分類するという人もいます.
 ともあれ,評価に応じて麻酔科医が意識して管理してればいいのではないかと思いますね🤗

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