【与太話】ママまた明日
ビジネスモデルとは関係ない与太話です。
なぜこんなものを載せているのかの理由は、こちらを参照してください。
ママまた明日
さっきから僕をじっと見ている人がいます。
日系人とおぼしい、小柄で上品な感じのおばあさんでした。
僕はサラリーマン時代、仕事で粗相をした結果、はるばるアラスカの、とある田舎町に左遷された時期がありまして。
これはアラスカ時代に世話になった近所の食品店で発生したできごとです。
おばあさんはとうとう日本語で声をかけてきました。
「あなた、日本のかたでは?」
「そうですが?」
「あなたが息子に少し似てらっしゃるから…つい見とれてしまいました」
「はあ」
「あなた、お名前は?」
「ヨッシーといいます」
「あなた、ゲイリーに似てる」
「あなたは日本人ですか?」
「ええ。カレンといいます。愛媛の宇和島の生まれですけど、20歳のときにこっちに来てね、ローレンと結婚しましたの。でもホント、あなた、ゲイリーに似てる」
「ゲイリーって、息子さんの名前ですか」
「ええ。ゲイリーは陸軍に入ったんです。でも、イラクで亡くなりました」
「そうでしたか。お気の毒に…」
おばあさんとは互いに会釈をし、いったん別れました。
その後、レジのところで再会。
彼女は僕の前に並んでいました。
ここから事態が急変します。
おばあさんは泣いていたんです。
▽
おばあさんはハンカチで目をぬぐいながらこんなことを言いました。
「ねえ、ヨッシーさん。お願いを聞いてくれるかしら」
「なんでしょう」
「わたしが出ていくときに、英語で『ママ、また明日ね!』って叫んで手を振ってくださらない? ゲイリーがよくやってくれたのよ」
数分後、買いもの袋を抱えたおばあさんは、僕に微笑みかけました。
僕は言われたとおり「ママ、また明日」と大声で言って手を振りました。
おばあさんはうれしそうにうなずきながら、店を去って行きました。
さて、僕が買ったのはトマトジュースとミネラルウォーターだけでした。
しかし、レジ係は言いました。
「80ドルです」
当時、この金額は日本円で1万円くらいの感覚です。
「えっ? たったこれだけで80ドル? なにかの間違いでしょ」
「間違いではありません」
レジ係がおごそかに言いました。
「先ほど、あなたが全部払うからって、お母さんが言ってましたよ」
:-)
じつは、上記の話には続きがあります。
レジ係の人が笑い出しました。
「冗談です、カレンがあなたをからかいたいって言うものだから」
レジ係は、カレンが街はずれでヘアサロンを夫のローレンと営んでいること、息子のゲイリーは日系の商社で元気に働いていることを教えてくれました。
以来、僕はカレンおばあさんの店で髪を切ってもらうようになりました。
ただ、昭和のオジサンの髪型にされるのはなんとかしてほしかったな。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?