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漫画レビュー:hana to yume『フワフワ・アチチ・ケーキ・大爆発』(2009年2月『Quick Japan』82号)

幾重にも練られ積み上げられた設定と伏線が回収され一つの線となり大団円を迎える。これが「物語」の定番の面白さではあるが、しかしマンガの面白さとはそれとイコールではない。たとえば杉浦茂を読む時のワクワク・ドキドキがそこに由来しないことは明らかだ。つまりマンガの面白さには物語以外の「発想」という軸があり、吉田華子の『フワフワ・アチチ・ケーキ・大爆発』はそちら側のマンガである。この作品にはキャラクターはいるが物語がない。もちろん女の子と動物が旅をする上での「展開」はあるが、発想と連想だけでページはどんどん過ぎてしまう。今の場面と次の場面の因果関係のなさは相当なものである。途中、金魚の兄弟達に囲まれ泡に吸い込まれていく場面は「崖の上のポニョ」を想起させるものの、フワフワの初版は2007年12月31日。こちらの方が先である。「情熱のペンギンごはん」ほど明るくなく、「ねじ式」ほど暗くもない、焦りと不安が支配する悪夢のような世界。ナンセンスではない。センスはある。ただ美しいラストシーンを読み終えた後の、わき起こるこの感覚は何なのか? 泣けるとか興奮するとか、単純明瞭な作用はないけども、言葉にする前の抽象的な体験が、この30ページ弱の作品の中にある。同作者は2008年末に新作『ドンマイ来来少女/有墓町の伝説』を発表、こちらは続きモノで続刊が待たれる。一般書店には売ってない、自主制作コミック。イベントで探せー!

<!--以下2020年コメント-->

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2001年以降に雑誌等に書いた記事を全部ここで読めるようにする予定の定額マガジン(インタビューは相手の許可が必要なので後回し)。あとnoteの有料記事はここに登録すれば単体で買わなくても全部読めます(※登録月以降のことです!登録前のは読めない)。『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』も全部ある。

2001年以降に雑誌等に書いた記事を全部ここで読めるようにする予定です(インタビューは相手の許可が必要なので後回し)。テキストを発掘次第追…

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